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温室効果ガス削減:「京都後」議論遅れ 「中期目標」の方向性定まらず

 京都議定書に定めのない2013年以降の温室効果ガス削減量に関する「中期目標」の検討が政府内で始まった。20~30年ごろまでの目標になるが、日本は産業・分野別に削減可能量を積み上げる方法「セクター別アプローチ」で議論を進め、各国にも同じ手法を提案している。しかし作業に手間取り、来年の国際交渉に後れをとる恐れもある。【大場あい、江口一】

 ◆交渉最大の焦点

 京都議定書は先進国に対し、08~12年の「約束期間」内に温室効果ガスを削減するよう数値目標で義務づけている。13年以降の体制については来年中の合意を目指すが、途上国にも削減義務を課すかや、具体的な削減幅をどう設定するかは国際交渉最大の焦点だ。とりわけ、20年ごろまでの削減幅を盛り込んだ「中期目標」は各国の利害に直接絡む。

 今月開かれた国連の「気候変動枠組み条約第14回締約国会議」(COP14)でも、中期目標を巡って紛糾。結論は先送りされた。しかし、欧州連合(EU)や米国のオバマ次期政権が自国の中期目標を相次いで公表しているのとは対照的に、日本では政府の検討委員会が11月に発足したばかりだ。

 手間取っている理由は、経済への影響も考慮した新しい方法で中期目標を決めようとしているからで、手法の一つが「セクター別アプローチ」だ。電気、鉄鋼といった産業(セクター)ごとに異なる排出の状況や削減努力の実態、削減技術の効果などを考慮し、「達成できる削減量」をそれぞれ割り出す。それを足し合わせたものを中期目標にしようという考え方だ。

 ◆「3月末が目安」

 日本独自の目標だけでなく、13年以降の国際的な目標もこの方法で決めることを日本は提案している。しかし、一連の作業の遅れは交渉に微妙な影を落としている。斉藤鉄夫環境相は26日の会見で「(COP14で)思い切って発言できず歯がゆい思いをした。交渉で主導権を握るには野心的な目標がないと説得力がない」と語った。

 日本はCOP14で、13年以降の体制では中国やインドなど経済力のある新興国に対しても一定の温暖化対策を課す提案を出した。しかし「途上国側からは『先進国が先に野心的な目標を』と言われた。ある意味、当然の発言だ」と振り返る。国連「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は温暖化被害を最小化するには「先進国は20年に90年比で25~40%の削減が必要」と予測、COP14も「認識する」ことで合意している。

 検討委員会では、IPCCの予測に沿って中期目標を立てるべきだと主張する委員と、経済成長との両立が図れる実現可能な目標を定めるべきだとする委員で意見が割れている。斉藤環境相は「中期目標はできるだけ早く発表した方がいい。(その時期は次の国連交渉がある)3月末ごろが一つの目安になる」と話した。

 ◆大幅減にはコストも

 検討委員会の初会合では、シンクタンクや研究所からいくつかのアイデアが示された。

 国立環境研究所は京都大と共同で、温室効果ガス削減にかける費用を「1トンあたり最大100ドル」と仮定し、各国がどれだけ削減できるかを、人口の動向や産業構造、経済成長予測など個別の事情も考慮して試算した。その結果、日本での20年時点の推定排出量は、対策を取らなかった場合と比べて約3・5億~4億トン少なかった。90年比で5~9%削減できる計算だが、IPCCの「25~40%削減」には遠く及ばない。

 一方、同じ条件なら中国では約37億トン、米国も約30億トンという大幅な削減が可能と推定された。中、米、印、西欧15カ国、露の5地域の削減可能量を割り出して合計すると、地球上の削減可能量の約6割を占めることも分かった。同研究所の花岡達也・温暖化対策評価研究室研究員は「この5地域の対策が特に重要だ。米国や中国では排出の絶対量が日本より大きい上に、中国では省エネ対策が進んでいないため、大幅に減らせる可能性が高い。日本も技術的に削減できる部分はあるが、大幅に減らすなら高コストの対策も導入する必要がある」と話す。

 財団法人・地球環境産業技術研究機構は、20年の排出量を05年比で20%減らすためにかかる最大コストを各国別に試算した。

 最も高かったのは日本で197ドル(1トン当たり)。EU46ドル▽米国28ドル▽豪州21ドル--などと比べてもずばぬけて高い。また「1トンあたり最大25ドル」という前提で途上国での削減可能性を探った結果、途上国全体の削減可能量の9割を中国とインドだけで減らせることも分かった。少しの削減にもコストがかかる日本とは違い、低コストで大幅な削減が期待できることになる。

 ◇業務・家庭部門の対策急務

 環境省によると、07年度の国内の温室効果ガス排出量は速報値で13億7100万トン(二酸化炭素換算)だった。これは京都議定書の基準年である90年度の実績を8・7%上回っており、議定書で約束した「08~12年の年平均排出量が90年比6%減」には14・7%の削減が必要となる。

 排出元の内訳はグラフの通り。自家用車の影響(運輸部門に計上)などを除いた家庭からの排出は13%で、家電の大型化、世帯数増などにより増加傾向にある。オフィスや店舗など業務部門(17%)の排出量も90年比で4割以上増加。家庭部門と共に、削減対策が急務となっている。

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 ◇各国・地域の中期目標◇

EU  2020年までに90年比20%削減(13年以降の取り組みで国際合意ができれば30%)

カナダ 20年までに06年比20%削減

豪州  20年までに00年比5~15%削減

米国  20年までに90年水準まで削減(次期政権)

日本  09年のしかるべき時期に公表

毎日新聞 2008年12月29日 東京朝刊

 
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