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新聞社はBlogムーブメントを自社の戦略に生かせるか

2003年06月17日

米国で圧倒的な人気を誇るBlog「Instapundit」(1日10万アクセスくらいあるらしい)を主宰する法学者Glenn Reynolds教授が書いたコラム「More Horizontal Knowledge」が面白い。ニューヨークタイムズ紙の一連の不祥事については、日本でも報道されているからご存知の方も多いと思う。記事の捏造・盗作問題である。

「the spread of horizontal knowledge is discomfiting big organizations that have depended on vertical organization.」

社会にあまねく、つまりホリゾンタルに広がった知識が、バーティカルな組織に依存する大組織を打ち負かしつつあるのだ、と教授は言う。

Blogとジャーナリズムの関係のことを、本欄バックナンバー「Blogging vs. journalism」でもご紹介したように、Chris Gulkerは、「オープンソース対ウィンテルと、Blog対大メディアの構図は同じ」という見方をしている。Glenn Reynoldsの主張もその流れの中に位置づけられる。

いきなりコラムの最後に話が飛んで恐縮なのだが、このコラムをご紹介しようと思ったのは、最後の部分の提案がなかなか面白かったからだ。

この手の議論は、「インターネットが引き起こした現象をいろいろと挙げてもう大組織はダメ」みたいな結論で終わったり、その逆で「Bloggerの質の低さをあげつらってだから権威あるメディアでないとダメ」みたいな結論に終わったりすることが多い。


Blogを使って新聞の記事をデバックする

しかし、このコラムはちょっと違って、こんな提案をしている。

「On a smaller scale, the new Times editors may want to look at putting horizontal knowledge to work for them in another way. As I've suggested in more detail here, it would be child's play to take RSS feeds from a number of weblogs, filter them to extract the references to stories in the Times, and then have an ombudsman look at those references to see if correction, amplification, or investigation is called for. A newspaper that did that (and it could just as easily be done by any major paper, not just the Times) would be enlisting a huge (and unpaid!) army of fact-checkers, and could fix mistakes within hours of their appearing, thus turning inside its competition and enhancing its reputation, all at very low cost.」

新聞社は、たくさんのBlogのRSS feedsを取って、自社の新聞記事を参照して書かれたBlogを抽出し、それをオンブズマンがきちんと見て、修正、増補、調査が必要かどうかを判断したらいい。こんなことはやろうと思えば簡単にできる。しかもそれをやれば、事実確認をすぐさまやってくれる兵隊を、しかも無償の兵隊を、新聞社が膨大に抱えるのと同じことになり、記事の誤りは、数時間のうちに訂正できるだろう。逆にこういう新しいやり方で新聞全体の評判を高めることが、新聞社の取るべき新戦略だ、というわけだ。

彼の主張をもっと読みたい人は、こちら(彼のBlogのアーカイブ)をどうぞ。

「Will it happen? That depends on whether Big Media folks want to ride the wave of horizontal knowledge - or just try to keep their heads above water.」

教授は、本当にこんなことは起きるだろうか、それは大メディアが知識のホリゾンタル化の波に乗りたいかどうかにかかっている、と言う。

実は、このコラムを読むまで僕も知らなかったが、Times Watchというサイトがあるらしい。

「Every distortion and misrepresentation (and there were plenty, of course) was picked up and noted. The result was a steady diminution of the Times' prestige among the opinion-making classes,」

このサイトでは、新聞の中のすべての曲解や虚偽が探しだされて記載される。オピニオン形成層におけるニューヨークタイムズの威信はこれで失墜したのだという。ちなみに、このサイトのAboutによれば、Media Research Centerという組織が運営している。


権威を批判するだけではなく影響を与えるのがBlogと起業家精神の共通点

ここまで書いてみて、なぜ僕は、このコラムを面白いと思ったのだろう、とふと考えてみた。

自分でもまだはっきりと分析できていないのだが、こういうことかなと思う。

今の世の中は、もちろん矛盾だらけである。社会なんてものは昔からずっとそうである。だから既存の権威に対して批判的な立場を取ろうと思えば、それはいくらでもネタは見つかる。

たまたまこのコラムのテーマである新聞の例で言えば、何か大きな事件があって2ちゃんねるを見に行くとき、よく新聞社に対する激しい批判を目にする。2ちゃんねるの表現スタイルに違和感を持ちつつも、2ちゃんねるに書き込む人々の主張に共感する部分も少なくない。そこまではいい。問題はそこから。

テクノロジーの進歩は、我々1人1人ができることを、ものすごく大きく広げてくれた。実は、今という時代において我々は、新しいテクノロジーが出現したおかげで、既存の権威が大きな変化を起こそうとする瞬間に立ち会っている。どのくらいのスピードで、どんな変化が起こるのかは、変化を仕掛ける側が、どういうアプローチを取るかにかかっている。

そのアプローチの在り様、という意味において、このGlenn Reynolds教授がこのコラムで主張する内容が、とても面白かったのだと思う。

批判すべき対象を工夫なくただただ批判し続けるというシンプルな行為ではなく、批判すべき対象に対してインパクトを与え得るような創造的なアプローチをとって、そこが起点になって何か意味のある「一つの塊り」が生まれるような行動を取ること。しかも、ネットが存在しない時代では考えられなかったようなアプローチで。

そんなことの萌芽を色々な局面で見つけることを僕は面白がっているし、そんな芽がいつか芽吹くかもしれない種を、自分の能力の範囲で、そこここに植え付けることができれば、というのを自分の行動の指針としてもいる。

シリコンバレーのアントレプレナーシップの原点とはそういうことなのか、と最近になって、ようやくわかってきたような気もする。

CNET Japanは、先週から、ローレンス・レッシグ教授のブログの日本語訳をスタートさせた。「戦うサイバー法学者」というタイトルがぴったりのレッシグ教授は、スケール大きくそういう生き方をしている人である。

CNET読者がレッシグブログから学ぶべきはそういう精神なのだと思うし、それこそが、ブログ現象の背景にあるアントレプレナーシップなのである。

Posted by kotaro at 2003年06月17日 10:05 | TrackBack (3)




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Comments

The trend of newsfeeds for all media

Posted by: vista at 2003年06月17日 11:53


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梅田望夫 / Mochio Umeda
ミューズ・アソシエイツ社長。パシフィカファンド共同代表。1960年生まれ。慶應義塾大学工学部卒業。東京大学大学院情報科学修士。アーサー・D・リトルを経て、コンサルティング会社「ミューズ・アソシエイツ」をシリコンバレーに設立。2000年7月、外交評論家の岡本行夫氏らとベンチャーキャピタル「パシフィカファンド」を設立。2002年7月、日本人一万人シリコンバレー移住計画を提唱。シリコンバレーに設立した非営利組織JTPA(Japanese Technology Professionals Association)ボードメンバーに。MochioUmeda.comにて過去の論文・コラムを掲載



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