美味しんぼ 問題提起は丁寧にしたい
広辞苑で「漫画」と引くと、「単純・軽妙な手法で描かれた、滑稽と誇張を主とする絵」とある。
「大胆な省略と誇張」を漫画の特徴と説明する国語辞書もある。
分かりやすくするために大げさに表現する。そう思って見ると、主人公が鼻血を出すのもありか。
小学館発行の「週刊ビッグコミックスピリッツ」の4月28日と5月12日発売号に掲載された漫画「美味(おい)しんぼ」のことである。
主人公らが東京電力福島第1原子力発電所を訪問後に原因不明の鼻血を出した。それが原発事故による放射線被ばくだと示唆する。
さらに、放射性物質を減らす除染をしても無駄とし、登場人物の一人に「福島を広域に除染して人が住めるようにするなんて、できないと思います」と発言させた。
漫画だからと読者が割り引いて考えればいいが、まともに受け止めたらどうか。福島県民に対する偏見や差別を助長し、新たな風評被害を生むことになりかねない。
私たちもできる限りの現場取材を心掛けてきた。事故後の福島第1原発に3回足を踏み入れた者もいる。ただ、いずれの時も鼻血は出なかった。折を見ては原発周辺の市町村を訪ねている者もいる。
原発事故は終わっていない。福島の問題はなお進行中だ。私たちもそう思うから取材を続ける。
美味しんぼの作者である雁屋哲さんはブログに「福島を2年かけて取材をして、すくい取った真実をありのままに書くことがどうして批判されるのか」と書いた。
だが、被ばくや除染の取り上げ方が一方的過ぎると強く感じる。
児童養護施設を舞台とした日本テレビ系の連続ドラマが論議になったことが
あった。話題づくりでもやり過ぎとの批判があった。
美味しんぼも関心を高めるためあえて物議を醸す手法をとったのだろうか。ただ、やり方次第では多くの人を傷つけることになる。福島県の県民健康調査にしても今のままでいいかとの議論がある。国や県の姿勢や手法に疑問を呈し、一石を投じるのはいい。問題提起は重要だが、丁寧さが要る。
=2014/05/14付 西日本新聞朝刊=
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