「学校」「自由」考えた1年

所沢高、今年も2つの卒業・入学行事

 「日の丸・君が代のある式を行いたい」と主張する校長と、強制に反対する生徒らが対立する埼玉県立所沢高校では、昨年に続いて今年も卒業・入学行事がそれぞれ二つずつ実施された。表面的には昨年と同じ行事を繰り返したように見えるが、いずれも、生徒や先生、父母らが考え抜き、改めて出した「結論」だった。一方で、「学校って何だろう」「自由って何だろう」という、生徒たちが発し続けた問いかけは、同世代の若者へ、大人たちへ、反響を広げている。それぞれの立場でこの問題にかかわった人たちの、この一年の動きを見た。  (米沢信義、堀口元、佐々木亮)

生徒 ホームページで発信

所沢高校の生徒主催の「入学を祝う会」。通路をアーチで飾り、新入生を拍手で迎えた
 ハンドルネームは<シロイワ>と<HIDEAKI>。昨年夏、所沢高の男子生徒二人が相次いでホームページをつくった。自己紹介や好きな音楽のコーナーに加え、「所沢高問題」を語る場を設けた。

 「自分たちの学校が勘違いされたままなのは嫌だ」

 「一部の報道だけで分かったつもりになったり、簡単に批評したりしないでほしい」

 自分たちに出来る方法で訴えようと、得意なインターネットを選んだ。

 ホームページには、「学校紹介」「最近の様子」「所沢高日記」などの項目が並ぶ。生徒と校長の議論の経過や、自分たちの見た入学式・卒業式の様子、学校で配られたプリントなどを掲載。ページを見た人の意見を募る「掲示板」のコーナーも設けた。

 「『日の丸・君が代』が国旗・国歌じゃいけないの」

 「社会に出たらそんなに甘くない」

 そんな声が、これまでに合わせて延べ約二百件以上寄せられた。出来る限り返事を書いた。

 「生徒がこだわっているのは、『国旗・国歌』の問題ではありません。それを強制されることに対してです」

 「『社会は甘くない』から、高校時代は何も言わないというのも変だと思います」

 今年の三月、ちょっとした事件があった。

 「所沢高についてどう思いますか」。投稿を書き込んでもらう手間を省くため、<シロイワ>君が簡単なアンケートを用意した。最初の三週間に寄せられた回答は七十件ほど。ところが、ある日、「嫌がらせ」と見られる回答が次々に舞い込んだ。

 「アカ畜生」「カラアゲ」――。

 意味のない言葉が、四、五時間に約七百件も投げ込まれた。調べてみると、「ここのページを荒らせ」という掲示が、ほかのホームページに出ていたことが分かった。「このままでは僕たちのページの信頼がなくなる」と、質問と回答を削除した。すると、今度は「都合が悪くなったので削除したのだろう」などと批判が寄せられた。

 「面白半分のイタズラだったのだろうか」

 「所沢高の生徒のことをよく思わない人が、こっそりやったのかもしれない」

 ウンザリすることもあるけれど、自分たちと違う考えを持つ人とは、納得するまで議論を交わしたいと思う。「意見を言う」「納得できるまで話し合う」ことこそ、高校生活で学んだことだと思うからだ。

 現在、二人は三年生。「この学校の生徒として、卒業までは発信を続けよう」と考えている。

◇     ◇

2人のホームページのアドレスは、
<シロイワ>http://www.propel.ne.jp/~yysky/
<HIDEAKI>http://member.nifty.ne.jp/orepara/

同世代 交流求め手紙 文化祭で討論

 昨春の卒業・入学行事が全国で注目されて以来、所沢高生徒会のもとには、他校から交流を求める手紙が段ボール箱にあふれるほど集まった。その中から、いくつかの学校との交流が生まれた。

 異色だったのが昨年六月に届いた長野県立長野吉田高校二年二組のビデオレター。

 「文化祭のクラス展で所沢高の出来事を調べて発表します」「ぜひ文化祭に来て、みなさんの話を聞かせて下さい」。クラス全員が切々と訴える映像は「迫力があった」と生徒会役員。七月十一日、生徒六人が長野吉田高の文化祭を訪れた。

 「主人公はオレたちだ」と題する討論会。所沢高の生徒が、これまでの生徒と校長のやりとりを説明すると、「すごい行動力だ」と長野吉田高の生徒も身を乗り出した。

 長野吉田高も、所沢高と同様に制服がなく、生徒の自主活動の盛んな学校。しかし、クラス展実行委員の武田亜月さん(一七)は「所沢高では、生徒会だけでなくて、一般生徒も真剣に学校の自由を考えている。私たちは漫然と学校生活を送っている気がした」と話す。

 司会を務めた丸山大介君(一七)は、話し合いをきっかけに、「何かを一生懸命やるのって、『かったるい』じゃなくて『かっこいい』と思うようになった」という。クラス展は文化祭の最優秀賞を受賞した。

 埼玉県内のある県立高校の生徒会も、昨年九月の文化祭に所沢高の生徒会を招き、話を聞いた。校長は「所沢高」と聞くと難色を示し、「外部に漏れると面倒なので、公式なイベントとしないこと」と注文をつけた。

 同校の生徒会長は話し合いの後で「『学校は生徒が作る』という意識が所沢高では格段に高い」と感心した。「日の丸、君が代でもめた」、というだけで偏見の目で見る大人に疑問を持つ。「少なくとも彼らは学校が好きだ。これってすごいことじゃないの」

協議会 揺れる生徒、模索続く

 所沢高校では四月一日、生徒と対立を続けてきた内田達雄校長が退任し、埼玉県教委高校教育第一課から長沢攻・新校長が赴任した。長沢校長は「お互いの言い分を理解し合うことが大切」と、話し合いには賛成する。一方で、教頭は一人増員となり二人制となった。管理職目前の教員も三人加わった。

 学校の管理体制は確実に強化されている。

 埼玉県教委は、所沢高の「独自性」を問題視し、一貫して「校長の全面支援」を打ち出してきた。昨年三月には、同校の入学予定者の説明会で、翌月の入学式について「生徒と校長との間で意見が対立している」と父母に説明した教師を、「校長に反する発言をした」として戒告処分にした。

 「学校内の対立が続けば、教職員や生徒への管理がさらに強まり、自主、自立の校風さえも崩れかねない」。この一年、生徒はこうした危機感と向かい合ってきた。

 生徒らは昨年十一月、生徒総会で前年と同様、「日の丸・君が代の強制反対」と「卒業式に代わる卒業記念祭、入学式に代わる入学を祝う会を開く」ことを賛成多数で可決したが、この案は、職員会議で否決された。

 議論が揺れ始めたのは、翌十二月。生徒代表と教職員の代表十人ずつが話し合う協議会で、生徒の一部から妥協案が出された。「生徒の話し合いの結果であれば、日の丸・君が代を絶対に持ち込ませないという立場にこだわらなくても良いのでは」

 発案した生徒は、特に入学行事について、「入学式に出るか出ないか新入生に選択させ、混乱させてしまった」と反省していた。

 しかし、従来の案を支持する生徒や教職員が反対し、採決の結果は十人対十人の同数。再び開かれた今年一月の生徒総会で、約二百票差で支持を得たのは、十一月に可決された案の方だった。

 分裂開催が決定的となった今年の入学式前、実行委員の生徒らは式当日の行動をどうするか悩んだ。結局、ビラ配りや説明会など、新入生に対する働きかけを一切しないことを決めた。「式を混乱させない」配慮だったが、「先生が責任を問われてまた処分されるのはいやだから」という思いもあった。

 入学式は九割を超える新入生が出席し、大きな混乱もなく終わった。だが、学校の自治や自由をめぐって、新入生も加えた生徒らの模索は続いている。

PTA 子ども信じ見守る

 「PTAは、もっと積極的に生徒と話し合うべきだ」

 「あまり話し合うと、生徒を誘導することになりかねない。気長に見守ろう」

 この一年、生徒が迷った様子を見せる度に、所沢高PTAの父母たちも、どう対応すべきか心が揺れた。

 「それでも、子どもを信じてその結論を支持しようということでは、どの親も異論がなかった」。PTA会長の君島和彦さんは振り返る。

 <楽しい学校を支える会>。そんな名称の会が昨年八月発足した。ここ数年間に所沢高PTA会長を務めた父母四人が呼びかけた。その一人、沼尾孝平さんは「『子どもが卒業したから、もう関係ない』ではなく、地域の大人としてかかわっていきたい」。所沢高問題を教育全体の中でとらえようとの思いを、会の名称に込めた。

 呼びかけ文には、こう書かれている。「我が子が所沢高に通っていた時に、ひとみを輝かせて学園生活のあれこれを語ってくれたことは喜びだった。今の時代に、学校が楽しい所として存在し得ることに新鮮な驚きを覚えた……」

 そんな校風と、それを支える生徒の「自主・自立」を守り、広げていきたい。その一点が、立場や価値観の違いを超え、親たちに共通する願いだ。

<4月19日付朝日新聞朝刊より>


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