特集・学級崩壊


 

授業不能 北海道のある教師の日誌から

 小学校の教室で、ある日、担任教師の授業が成り立たなくなる「学級崩壊」。ふだん少しずつたまってきた爆発のマグマがコップの水のように、一滴のきっかけでどっとこぼれてしまう……。その経過を、北海道のある町の先生(三七)が、二年間にわたり大学ノート九冊につづっていた。《登場人物は仮名》(社会部  氏岡真弓)

予兆 3年生時代 トラブル続発、次々ルール

 先生のノートは、こんな記述で始まる。

 3月27日 二年生のクラス32人の児童調書を読む。人間関係が希薄。

 「とんでもない学年」と言われ、担任の持ち手がない子たちを先生が引き受けたのは、四年前のことである。

 入学式の時、けんかしながら入場してきた学年だ。ふつうだと荒っぽい男子が一学級に一、二人なのに、七人はいた。

 一学期が始まると、教室はたちまちトラブルのるつぼとなった。

 「せんせっ、ヒカルがたたいた」「せんせっ、マナミがボール投げつける」。子どもたちは感情を自分の中にためられず、ぶつけてきた。

 休み時間、じゃれてくる子を抱き上げると、「ぼくも」「あたしも」と毎日十数人の行列ができる。

 すみっこでは、男の子が怒りで固まって、う、う、う、と泣いている。「オサムにぶたれたぁ」

 オサム君に尋ねると「ぶつかっただけだべや」。

 先生は子どもの言葉を一つひとつ聞き、相手の子に通訳し、事実を確かめた。職員室に戻れず、一日中教室にくぎ付けになった。

 4月15日 悪口22人

 「バカ」「臭い」と悪口が飛び交う。どんな悪口を言われたか聞くと「ウンコ」「死ぬまで学校に来るな」……三十以上並んだ。

 5月24日 ユカリ、タカシの手をたたき、目に指が入る。そばにいたマサユキが「ユカリが泣かしたあ」と責め、ユカリも泣く。

 先生は言った。「ユカリちゃん、先生責めないから、タカシ君におわびして」

 ユカリちゃんが謝ると、次はマサユキ君に「謝った人を責めないんだよ」。

 マサユキ君が「うん」とうなずくと、皆に「誤りを認めた人を責めるのはよそうね」。

 先生は一つひとつルールを作り、全員で確認した。

 「たたかない」「もめたら話し合う」「お互い、さん、くんで呼ぼう」「持ち物に名前を書こう」……判例は増えていった。

 5月28日 学習用具忘れ 22人

 下敷きや筆記用具を忘れる子が、毎日クラスの三分の二以上いる。学校に持ってくる物を表にし、忘れなかったらシールを張った。

 二年で習う九九があやふやな子が三十二人中二十四人もいた。段ごとにキャラクターを決めた達成カードをつくり、覚えるとシールを張る。あの手この手の「技術」をすべて投入した。

 そのかいあって、いざこざは一日約百件だった一学期より減った。

 10月5日 きょうのトラブル35件

 だが、ナイフでけがをする事件もあった。

 12月6日 もみあい、ナイフでけが。

 ツトム君にえり首をつかまれたタクヤ君が、離れたくて安全ナイフをポケットから出して向けた。もみあい、はずみでツトム君の手が切れた。

 そして、先生は体調を崩す。

 12月11日 就寝時、心臓発作。

 狭心症の疑いがあると言われ、「過労だな」と思ったが、血管の検査結果は異常なかった。

 「あの学年を抑えるとはさすが」というほかの先生の評価や、保護者の「去年と同じ子とは思えない成長ぶり」という声も受け、先生は四年生も持ち上がることになる。

 しかし。

 2月3日 マサル君のくつの中につらら。

 犯人はわからない。

 2月23日 ユカリのメモ

 先生支持派のユカリちゃんがメモを持ってきた。

 「子どものケンカにいちいち口を出さなくてもいい。ほっといてほしい」

 この手紙を、先生は「独立心が出てきたな」と見ていたのだが。

<11月15日付朝日新聞朝刊より>

 


| 教育特集のトップページへ|



asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての著作権は朝日新聞社に帰属します。
Copyright1998 Asahi Shimbun. No reproduction or republication without written permission.

Send feedback to newsroom@emb.asahi-np.co.jp
記事に対するご質問、ご意見には住所、氏名、電話番号を明記して下さい。