《連載》大學――改革の模索(1)

「変わるのだ」東大動く

 

 国立大学の独立行政法人化案、大学教員任期法の施行など、ここ数カ月だけでも、大学を取り巻く環境は大きく流動している。大学に変革を期待する声も高まる一方だ。
 開かれた大学、入試改革、大学院改革や生涯学習、他大学との連携など、各大学は模索を続ける。
 今回は様々なキャンパスを訪ね、改革の息づかいを伝える。まず、創立120周年を迎え、生まれ変わりをはかる東京大学から。(社会部・平井公、学芸部・佐藤実千秋)   

【写真】エアドーム型の「知の開放」パビリオン。放送ができるスタジオ機能を持つ=東京・本郷の東大で

 

 「大学は今、変わらねばならないという強迫観念にとらわれている。我々は義務感からではなく、喜びを持って変化させていくつもりだ」
 教育関係者や経済人ら約200人を前に、蓮實重彦東大学長はそうあいさつして、変革への意気込みを示した。16日から本郷キャンパスで開いている120周年記念展「学問の過去・現在・未来」。その開会式でのことだ。

 パンフレットには、「大学とは何であり、いかにあるべきかをいま一度自ら問い直し、大学の将来を展望する」と記念展の目的が記されている。
 記念展は4部構成。うち、1部から3部までは、開学前後から収集されてきた学術標本や実験器具、海外の学術調査の記録など、「過去」の業績の展示。パンフレットの言う「将来の展望」は4部だけで、構内に設置されたエアドーム(幅20メートル、長さ30メートル)が売り物だ。

 ここから通信衛星(CS)で「東京大学の今」を24時間放送で伝える予定だったが、回線の故障などで放送の見通しは立っていない。

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 これと並行して、「東京大学」をテーマにすえて自己検証する公開講座を、社会人向けに開いている。講座の責任者の大森彌教養学部長は「ここから次の東大改革のヒントが出てくるかもしれない」と開講にあたってあいさつした。

 入学試験が中止になるなど、1968年から翌年にかけて全学を揺るがせた東大闘争も、検証の対象になった。
 「全共闘はいかなるばかであったか」「今や学生運動は、後継者難に悩む伝統芸能でしかない」。自ら全共闘に参加した経験を持つ船曳建夫教授は「『東大闘争』とは何であったのか」と題した講義で語った。

 客席にいた若い受講者が立ち上がって言った。
 「閉鎖的な東大教授会の体質には目をつむり、今の学生運動の未熟さをあげつらうつもりか」。2人の議論は会場から外に出て延々と続いた。

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 国立大学を政府と民間の中間的な組織に衣替えする独立行政法人化案は、以前から取りざたされていた。
 蓮實学長は「どの程度の予算を高等教育に使うかという国民的な討議を経たうえであれば、政界や経済界とこの問題で討論を進めることにやぶさかではない。我々は今まで通りがいいとは、決して思っていない」と、改革に後ろ向きではないことを強調する。

 だが、自民党の行政改革推進本部が検討に乗り出すことを決めた16日の夜、学長はただちに緊急学部長・研究所長合同会議を招集、大学として「反対」を決めた。夜のうちに文部省を訪れ、町村信孝文相に決定を伝えて理解を求めた。翌日には、記者会見を開いた。
 結局、政府は先送りを決めた。

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 東大は21世紀に向けた改革の柱として、千葉県柏市に「柏新キャンパス」をつくる構想を進めている。「本郷、駒場両キャンパスと合わせて『三極構造』にする。柏では新しい学問領域の創造を目指す」(蓮實学長)という狙いだ。

 都心から30キロ圏の旧米軍通信所跡地のうち約37ヘクタールに、大学院と、6研究所・研究センターなどを置く。約10年前から検討が始まり、昨年研究所用地12ヘクタールを得て、一部が着工された。この5月の「柏新キャンパス全体構想に関する報告書」は、概算要求に向けたもので、「未来開拓志向」「学融合」「高度教育研究志向」「少数精鋭主義」という言葉が並び、意気込みがみなぎる。

 しかし、大学院4研究科とされていたのが、この報告書では3研究科に、さらに文部省との折衝で1研究科と、1年の間に二転三転した。
 結局、今回概算要求に盛り込まれた体制は修士課程84人、博士課程36人、教官スタッフ約60人など。大学院用地については取得の見通しも立っていないため、当面、本郷の既存施設に通うことになる。
 「これで三極か」と、ある教官は突き放すように言う。

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 元東大教養学部教授で亜細亜大学長として「一芸一能入試」などの改革に取り組んだ経験のある衛藤瀋吉氏は言う。

 「教授会自治のぬるま湯から本当に抜け出る勇気があるかどうかだ。同じテーマで複数の教員が並行して教える競争講座を導入したり、業績調査を本格的にやって公表したり、教員も切磋琢磨(せっさたくま)すべきだ。東大の取り組みは格好ばかりで、ビジョンや哲学が見えてこない」

 改革が本当に実りのあるものとなるのか、掛け声倒れに終わるのか。東京大学という巨象が120年の節目に、動き始めたことだけは確かなようだ。

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<1997年10月27日付朝日新聞朝刊より>


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