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Dr.エグチの
上級サラリーマン講座

★★★★★★★目次★★★★★★

●上級サラリーマンとは
●いかにして上級に潜り込むか
●上級ならではの会話
●上級の日常業務
●出張の心得
●アフターの心得
●次のステップへ
●ライバルをけ落とせ!


 私たちバブル入社組もそろそろ中間管理職。かつて新人類と言われた その本領を発揮するときがいよいよ来ました。パソコンを扱えずうろ たえる馬鹿で哀れなオヤジ達を押しのけて、出世の道を進みましょう。

 努力?実力?そんなもの必要ありません。必要なのは要領のみ! 私、エグチが上級サラリーマンになるためのとっておきをお教えしましょう。

上級サラリーマンとは
 上級サラリーマンとは、その実力や職位に関係なく会社の実力者の周囲に生息することを許され、そして会社の経営や運営に関してなんの責任も負わずに好きなことを言いまくれるすてきな職業です。

 はっきり言ってしまえば会長・社長・副社長・専務あたりの御用聞きをするわけですがその時に気の利いたことを適当に言って相づちを打っておいたり、もしあなたが女性ならたまに短いスカートや背中の出たワンピースを着ることによって彼ら上級エグゼクティブの関心を得ることができるでしょう。

 上級サラリーマンは現場の仕事や、高度な専門知識などはいりません。良くドラマや映画で「社長を囲むタスクフォース」的な存在として扱われることがありますがあれはたまたま彼らが優秀だったから映画になるのであって、あなたが経営戦略、財務関連知識、法律関連知識、業界情報などに精通している必要はありません。むしろ、あなたが社会人として生きてきた中で見聞きしてきたおもしろいこと、アンダーグラウンドな情報、敵対する役員の下ネタなどをこまめにネタとして仕入れることが肝心です。

 上級サラリーマンというのは豊臣秀吉における千利休、織田信長におけるお伽衆であるのであって、決して明智光秀になってはいけません。そんなことをしたら責任が降りかかってきて、うかつに物が言えなくなります。上級サラリーマンとしては、スマートに自分がろくに関わってもいないプロジェクトの中から成功した物だけを自分の成果として人事や役員との面接に置いてご披露するべきです。

いかにして上級に潜り込むか
 上級サラリーマンが生息できるのは日本型一部上場企業の企画系の部署です。 (外資系企業はいけません。実力と実務を要求されますから。)企画系でも いろいろあると思いますが、以下のような部署がいいでしょう。
  • 業績をもっとも上げている事業部の企画部
  • ヨーロッパ、アジアなどの海外販売会社のオフィス
  • エグゼクティブスタッフ部門(本社経営戦略部・経営企画部など)
  • エグゼクティブスタッフ部門における最大派閥を構成する人たちの出身部署
  • 秘書室
1.業績をもっとも上げている事業部の企画部
 業績をもっとも上げている事業部の中の企画部は、およそ緊迫感というものと無縁です。 その結果、無駄話やうわさ話に興じることもできますし、その馬鹿話は今後役員に披露 するための大事なネタになります。
 また、業績をもっとも上げている事業部の企画部を担当する担当役員は出世コースに 乗ることが多いので、今のうちからこびを売っておくといいでしょう。
 後々その役員が事業部から取締役に昇進し、上級エグゼクティブになったときにもなにかと 便宜を図ってもらえることでしょう。

 また、その部署にいる間に実績を積むことが必要となるわけですが、そんな業績その ものも現場の営業やエンジニアと分かち合う必要はありません。
 適当に成功するに決まっているような(麻雀でいうところの天和)プロジェクトに 混ぜてもらって、やたら会議を開き、その議事録をさも自分がリーダーであるかのように 改竄して役員に送ったりすることで「役に立つやつ」になることもできるでしょう。 事業部役員なんて、見ているようで見ていないモノですからね。

 人付き合いは精力的に行いましょう。あなたには実力がないのですから、いざというとき 身を支えるのは技能ではなく他人の同情です。日頃から恩を売ったり業務と関係ないところで の友好関係を深めることによって自分の城を築いてきましょう。

 業績が良い部門は、とかくほかの部門との協力関係を求められます。たとえば商品を 企画・製造する部門は部品を製造するコンポーネント・半導体部門や営業部門とも 密に関係を構築することになりますから、人脈を広げるにはうってつけです。
彼らの名刺をもらいまくり、きちんとファイルする事にしましょう。彼らは今後、とても 役に立つあなたのための駒になるのですから。

2.ヨーロッパ、アジアなどの海外販売会社のオフィス
 なぜ北米でないのか?という疑問が当然わくと思いますが、北米の場合は商習慣がとても 個性的なせいで現地出身マネージャーがいることが多いのです。この人の下で働くと 自分の実力のなさがバレバレになりますし、通信事情、日本本社へのアクセスが良すぎる せいでこちらの実力のなさがきっちり報告されてしまいます。やはり通信事情が悪く、 業績が多少悪くてもしょうがないですまされる地域に行く方がよいでしょう。

 日本に帰ってきた暁には、その地域のスペシャリストとして、また貴重な情報源として 珍重されることになります。北米だとカナダくらいにしておきましょう。カナダは消費税が 高いですから、あなたが無能にしてマーケティングに失敗していても「税金のせいで消費が 落ち込んだ」とか「民族運動の影響で・・・」と言えば国際感覚の鈍い日本側管理職はころっと 騙されてくれます。ニュージーランド、オーストラリアなどのオセアニア地域やヨーロッパでは スペインあたりの消費が低迷している国もお薦めです。
 お国や商習慣の知識と現地でのうまい店を仕入れておけば、あとは言語留学くらいに考えて 3年くらい過ごしておけば問題ありません。

3.エグゼクティブスタッフ部門
 会長、社長、副社長、専務あたりの思いつきをハイハイと聞いて、関係しそうな人 15〜30人くらいにメールを書くのが仕事です。その後は偉い人たちのミーティングの 会場を設置したり弁当を手配したりして、議事録を書き、採点してもらうだけのところ です。上級サラリーマンとしてはここが終点と考えて良いでしょう。ここに配属されれば あこがれの無責任生活が手に入ります。

 公務員だと花形部署だといわれる財務局・財務課・予算局・人事グループ・監督局・ 秘書業務・次官補助役などがいいでしょう。国会議員の秘書などの場合は時に生命の危険 にさらされますので国選の第一・第二秘書あたりを狙い、金庫番の私設秘書は避けましょう。
おいしいのは知事の周りと市長の周りです。地方公共団体の長は実は結構な権力を持っており、 市民の知らないところでかなり巨大な利権をむさぼれますので、共犯になることで 仲間意識を長に押し込むなどすれば完璧です。

4.強い派閥の出身部門
 昔は学閥という物が幅を利かせていました。今まだ学閥を後生大事に持っているのは急 財閥系企業や銀行などです。もしあなたが東大・京大・一橋・東京工大・早稲田・慶応・ 阪大・名古屋大・東北大・日大の出身でなく、なおかつ自分の出身大学から一人の役員も 出ていなければ学閥を利用しての上級昇格の夢は潰えたことになります。
 ですが、たとえばテレビ事業部だとか、ワゴン開発ラインだとか、ネットワーク事業部 と言った部署から 3. のエグゼクティブスタッフ部門にたくさん人が行っている場合は、 まずそういった事業派閥に入れてもらえるようにしましょう。そのくらいだったら異動願い も通るはずですよね。
5秘書室
 一部上場企業の場合は、ここにはいるにはコネか容姿か、家柄が必要とされています。 家柄といってもやんごとなき家柄ではなく、やんごと亡き人達に何世代もの間牙をむかず 使えてきた奴隷階級の人たちです。ここは宮内庁と同じく実力で入れるところではないので 実際は目指しても無駄でしょう。

 しかし、理不尽なところほど儲かるのは日本の社会の常です。この部門はおよそほとんど すべての時間をエグゼクティブといっしょに過ごしますし、その人達のミーティングの 相手と案件を管理する以上会社で何が起こっているのかをほとんど把握することができます。 つまり非常においしいポジションなのです。このおいしさを私利私欲に使われないためにも どこの馬の骨ともわからない人間はここに異動させることはないのです。
たまに、エグゼクティブの愛人とかいますから、気をつけましょう。

上級ならではの会話
 腐っても上級ですから、人の耳につくような発言をしなければなりません。しかし 実際問題として人の関心を買うような発言がこれを読んでいる読者のみなさんに できるわけがありませんので、いかに自分が中身のない人間であるかを上手に隠し 通すような発言をし、なおかつ人の耳につくような発言をする必要があります。

 そんなうまい手が本当にあるのでしょうか?あるのです。山手線の南側に乗っている とよく聞こえる「御殿山語」「三田語」。営団地下鉄に乗っているととても良く耳に する「霞ヶ関語」。銀座〜六本木方面にかけて耳にする「電博語」などがそれに あたります。これらの言語体系はいずれも日本語の派生語として位置づけられていますが 言語学者によって何らかの解説・考察が行われているわけではありません。ですから あなたが独自に拡張を施してそれを次の時代のスタンダードとしてしまえばいいのです。

1.御殿山語
品川区周辺で良く耳にする言葉です。極端に英単語・熟語を混ぜて話すことがかっこいいと 思っているらしく、普通に聞き流そうと思ってもその子ギャル以下の馬鹿な価値観と発想 から耳について離れなくなる傾向があります。

例文

【日本語】

この状況を打破するためには早急に対策要員を選出し、その人たちができるだけ
緻密な議論を行って行く必要がある。鈴木君をプロジェクト・リーダーとして以後、
この件についての方針を模索しよう。私も状況を追いながら関わろう。

【御殿山語】

これを break threw するためには ASAPでtask fourceの team make をして、
in detail で effective な議論を go on するのが must だ。鈴木君を
Handler としてこの issue について discuss しましょう。私も keep in touch
するから。

 御殿山語は一般に言われている「長嶋語」ではありません。長嶋語では登場する ボキャブラリがせいぜい中学卒業程度のものに限られますが、御殿山語はできるだけ 相手を煙に巻くために相手の知らなさそうな単語を連発する傾向があります。
これで相手が困惑すれば勝ちです。あなたの無能ぶりは上手に隠し仰せることでしょう。 海外販売会社出身者が威力を発揮するのはこのためです。

 三田語は御殿山語の派生系ですが、英熟語を使うことは少なく英単語に傾倒する ようです。また、個々の単語の中でも名詞を英語化することが多く、これに対して 御殿山語は熟語・述語を奇妙に歪曲する傾向があります。

例文
【日本語】 全体の性能を上げるためには個々のパーツの吟味も大切だが、思い切った新技術 の導入も大切だ。そのためにも研究開発部門の予算を削るのだけはやめた方が 良いと思う。 【三田語】 Total の Spec を上げるためには個々の parts の select が大切だが、epoch な new technology の porting も大事だ。そのためにも R&D の budget を 削るのは ng だ。 【御殿山語】 Total spec を improve するには個々の parts の select は must issue だが epoch making な技術の porting も must だ。その view point からも R&D budget の reduce は no good だ。

上のように、御殿山語の方が遙かに頭は悪そうです。
御殿山語にはさらに、次のような傾向があります。

例文
【御殿山語:謎の記述】 AVC部PP課のK2プロジェクトにおけるFY00 の budget はTotalで done deal となったが SDMI がらみの話に関しては 4C,RIAA とkeep in touchで、いたずらに 端末の develop を disturb しないようにしないと、販社はカタログに MSW の launch date を載せていますからね。

このように御殿山語はもしかすると56bit程度の DES かなにかで暗号化されているのでは ないかと思うくらい理解不能な言語になっています。この頭の悪そうな因習によって 自分の教養をひけらかし、さらに守秘義務が守れるのですから上級としては一石二鳥です。 できれば三田語より一歩進んだ御殿山語をマスターしましょう。

さてこれとは別に一般企業の三田・御殿山語に代わり、官公庁及びその周辺で生きている 重厚長大産業においては「霞ヶ関語」なるものが存在します。上記の例をもう一度出して、 霞ヶ関語と御殿山語を比べてみましょう。


例文
【日本語】 全体の性能を上げるためには個々のパーツの吟味も大切だが、思い切った新技術 の導入も大切だ。そのためにも研究開発部門の予算を削るのだけはやめた方が 良いと思う。 【御殿山語】 Total spec を improve するには個々の parts の select は must issue だが epoch making な技術の porting も must だ。その view point からも R&D budget の reduce は no good だ。 【霞ヶ関語】 機器が本来持つべき性能を最大限に引き上げ全体の効率を向上させるに当たっては、 各部位を構成する個々の部品においてこれを登用するにあたり慎重かつ十分な吟味を 必要とするのは言うまでもないことであるが、更に革新的・画期的な独自の新技術を 導入することによる効果を期待するものである。この目的を達成するに当たり、担当 する研究開発部門の予算の削減に関してはこれを推奨しない。

上記の例でわかるとおり、霞ヶ関語は会議での自分の発言時間を長くし、それを もって自分にイニシアチブを導入するという点では有効ですが、話す内容についてこれを ある程度理解していなければなりません。御殿山語はその点会議での発言時間を短く 押さえることが出来、またいかに自分がその分野に専門性がなかろうとも相手を煙に 巻くだけの訳のわからなさがあります。

 上級職としては、最小の労力で最大の権力と 出世スピードが得られればいいので適時言語を選択する必要がありますが、海外にいた とか英会話スクールに通っているとか言う自分のキャリアを見せつける意味では 少々馬鹿に見えようとも御殿山語の方が良いでしょう。うまくすると英語を話せない 馬鹿取締役があなたを海外出張に連れていってくれるかもしれません。(その時は背中の あいたドレスを一着持っていくのも良いかもしれませんね。)

上級の日常業務
上級職たる私たちの日々の業務について述べてみましょう。基本的には下の6つです。
  • 上級役員にこびを売る
  • 上級役員のご用聞きをする
  • 会議を招集する
  • 責任の所在を他人にする
  • メールを打ちまくる
  • 議事録の集配と改竄

上級職として、エグゼクティブまたはエスタブリッシュの人たちの関心を得続けるのは 自分の立場を維持するための必須条項です。そのためには、これらの上役が振る話題や 質問に対して的確な回答をすることが本来必要とされる能力なのですが、どんな話を振 られるかなんて超能力者でもなければわかりっこありません。さりとて、ビジネス全方位 に向けてアンテナを張り巡らし、日夜研鑽を怠らず情報収集とその考察に勤めていたの では大変なばっかりでちっとも美味しくありません。日々の研鑽だとか、専門知識の 導入のための勉強だとか、そういううっとおしく地道な作業は極力避けたいものです。
私・エグチもそんなエクスパティーズ(専門性)などはかけらもないのに現在は社長に上手に お仕えしてますしね。

さて、それではどうすればいいのでしょう?まず、上役が何か、自分にとって意味不明な事を 言ったらばできるだけそれについて意見を述べないようにします。生返事を繰り返すと上役は 自分の意見の正しさを説明するため、自分の発想の経緯、それに関わりそうな事業部や他の 上役の名前を挙げ始めます。

 こうするとしめた物で、「ははあ、あの事業部の新規事業についてだな」 などと特定することが出来ます。あとはその事業部で関われそうな最新の話題を日経エレクトロニクス や日経BPや日経産業新聞などで検索します。便利なことにこの日経新聞系の雑誌やホームページは 私たち上級職のために、懇切丁寧にビジネスのトレンドやビジネスモデル、技術モデルについて 解説してくれています。ですから上級職としては、付け焼き刃でいいのです。どうせ役員や社長達も こういった書籍からビジネストレンドを読んでいるのですから、情報源を同じにすることで次回の ミーティングでは上手にうなずけるでしょう。

 次にあなたがやることはその事業部の担当役員、製品の開発に関わるキーパーソンとなる部長、 新技術を使う場合は研究所の担当役員と研究企画部の部課長、自分の部の部長など、思いつく人間 すべて(最低でも10名)にメールを打ち、「(たとえば)社長がこういう事に興味を持っている。 ついてはこのことについて我が社の現状と今後の対応についてステアリングコミッティ(執行機関会議) を設立したい」と呼びかけましょう。

 このメールを一本、自分から打ってしまうことでどれだけあなた自身がその事業に何の関係もなく、 また邪魔者であったとしても社長のエージェントはあなたになりますから、当然その事業がうまく いった場合はあなたの功績になるのです。失敗した場合はそれに関わった役員が責任をとってくれるので 全く問題ありません。ただ、自分に責任が降りかからないためにもちゃんと会議を大所帯にしておきましょう。 最終的には30人程度に Cc: を打つくらいのプロジェクトだと完璧です。

 あなたがやることは会議の招集と、会議の進行のための最初の5分の発言。つまり社長の意向を伝えるための 代弁者ですね。そして1時間の会議の中であなたがわかったところだけを議事録にまとめて、その日 同じ会議に出た出席者にチェックを依頼し、終わったら社長に提出するだけです。楽な物でしょう?

 ただ、時々日本の美しい大企業の体制や官僚機構を無視したような新進的な経営者があなたの上司に つく場合があります。こういった経営者は企業の体力のあるうちに機構改革であるとか取締役人事、 組織改革の必要性について提案することがありますが心配することはありません。

 安寧にして平和な職場をかき回すこの手の経営改革はあなたをびっくりさせるかもしれませんが、 「動乱の中にこそチャンスあり」の鉄則はこの戦略がまだ「火事場泥棒」と言われていたときと何ら 変わるものではありません。とりあえずモノにしてしまいましょう。ここでは典型的な「業績の横取り」 を紹介しますが、他社の業績を横取りするくらいできないと上級とは言えませんので頑張ってください。

 私たち上級職は働かずに高給と権力を取ることが目的の寄生虫みたいな物ですから、生きていける 土壌にはそれなりの許容量と経営資源が必要です。逆に言えば、私たちがいると言うことは、今いる 会社や役所がつぶれっこない安定した組織であることを意味しています。たとえば、高収益事業の会社、 上場企業などですね。

 そういった組織には私たち以外にも寄生虫はたくさん寄ってきます。たとえばコンサルティング会社や 投資銀行、証券会社の戦略コンサルティング部門などがそれにあたります。彼らは自分たちが欧米から 持ってきた最新の経営理論や組織論をきれいにチャートにしてくれます。一般に知られていませんがこの コンサルティング料金というのは一般人の常識をかなりかけ離れた物です。だったら遠慮はいりません。 金は払う(といっても部門間接費ですが)んだから手柄は横取りしましょう。
 上級職たるあなた達は、彼らにコンサルティング業務を発注し、出て来るであろうサルにでもわかる ように作られたこぎれいなプレゼンテーション資料をさも自分の物であるかのように社長に見せればいいのです。
 ただ、そのままだと芸がありません。発注の際にできるだけ自社の現状や事情について コンサルティング業者に話さず、それでも何とか上げてきた資料に対してあなたがチェックを入れて 自社の事情に合った完璧な物に仕立てましょう。その資料はあなたが作った物になりますから、評価は あなたのものになるでしょう。

 「そんなお金はもったいない」と思うこともあるでしょう。そんな場合でも大丈夫です。世の中には 新進的な企業はいくらでもあります。花王やソニーなど、常に積極的に組織をいじくり回し株主の関心を 買おうとする企業の動向をじっと見張り、「これは」と思うスキームを彼らより一期だけ遅れて導入 すれば良いのです。実際、1997年に日本で初めて導入された「執行役員制度」はほんの2年で200近い 上場企業に導入されました。これは200近い上場企業で私たち上級職が頑張っているという意味です。

 少し話がそれますが、執行役員制度というのは上級職たる私たちにとって欠かせない制度です。
現場の薄汚いエンジニア上がりの取締役や営業上がりのヤクザどもを取締役会議に入れてしまうと 私たち企画系の出世が遅れてしまいますし、現場の情報がこれらの人たちから直に役員会議に アップデートされることになります。上級職の美味しいところは情報を統制し、それを利用して出世 するところにありますから、こういった現場からの直接パスは絶対にさせてはなりません。

出張の心得

 出張は上級たるあなたの面目躍如たる業務です。朝から飛行機や新幹線に乗るのが嫌だという 話もありますが、逆にシートに座っていればあとは映画を見ていようがフォアグラのカモのように 飯だけ食っていようが給料は出るわけですから考えてみれば万々歳です。
 そんなわけで、特に一章を設けることにしました。

出張には以下のパターンがあります。

  • 上役について行く出張
  • プロジェクトの行きがかり上行く出張

(1)上役についていく出張

 社長や副社長、会長、知事や市長といった「長」がつく人たちの出張にはそれなりの意味が 込められています。その人達が出向くと言うことは相手もそれだけの人間が来ると言うこと。
通常の勤務では滅多に食べることのできない食事が出ると言うこと。ついていけば分不相応 だろうがなんだろうがビジネスクラスに乗れること・・・。つまり、非日常の豪華絢爛な世界が 待っているかもしれないのです。ミーティング?それは、先ほどから言っているように付け焼き刃 で十分です。

 以前私はあるコンピュータ会社の社長とのミーティングに陪席しましたが、 そのミーティングが終わって1年たった今でもその会社の具体的な製品など一度も見たことがありません。
社長もそんなものです。

 基本的には表敬訪問、提携戦略の二つしか行われないのがこのお偉いさん 達のミーティングですから放って置いても害はありません。帰りの飛行機の中か、帰る前の晩飯の時に ぼそっと言われたことをメモして置いて、あとはいつものようにメールを打ちまくるだけです。
社長達は提携で何が出来るかとか、そんなことを考えずにただ提携の発表をして、あとの始末はどうせ こちらに振ってきますから直撃を食らわないようにしましょう。

 そして、その話がうまく転べば社内プロジェクトと同様自分の出世の原動力となり得ます。
出張はそういうおいしいネタが必ず降ってくるので、みんなをけ落としてもついていきましょう。
たいていの場合、ホテルの手配や出張時のスケジュール管理といった物は秘書さんがやるのですが、 情報を独占するためにも自分でやると言い張りましょう。秘書もできればこんなめんどくさいことは お断りなので、喜んで譲ってくれます。ちょっと大変ですが、役得を考えれば全然問題にならないでしょう。

 気をつけるべきなのは、こちらの社長が出向くという場合、それがついででなければ力関係として 向こうの方が上の場合が多いということです。向こうの方がたとえば時価総額や企業規模などが大きい場合、 または時代の最先端を行っているという評価が高い場合、たいていの馬鹿エグゼクティブはそいつらを うらやましがってろくでもないことを言い出します。つまり

「A社はいいなあ・・・。うちもA社みたいになりたいなあ・・・」

 たとえばあなたの会社が重機メーカーだったとして、いきなり Sun や Oracle になりたいと社長が 言い出したら(もしあなたが Sun が何の会社か知っていればですが)「そりゃ無理だ」と思うでしょう。
まあ、そんなことは知ったこっちゃありません。優秀な上級職は「わかりました。検討します」としか 答えてはいけません。自我の確立していないまま60過ぎたガキ老人や、ボケ老人の世話も自分の給料 になると思えば楽しいものです。私が見てきた限りでは、本当に Sun が何の会社か知らないまま目的 もなく業務提携を結んでしまったような上級職もいるようです。さすがですね。

 女性の場合は、背中の開いたドレスの一つも持っていきましょう。グラミーやオスカーの表彰式に くらい連れていってもらえるかもしれませんから。用意周到なのに越したことはありません。

(2)プロジェクトの行きがかり上行く出張
 メールを打ちまくって仕切屋稼業を続けていると、たまに「じゃあ、おまえも来い」というとばっちりに 合うことがあります。行ったとしてもなんの役得もない退屈な出張ですが、マイレージが稼げるとか 会社の経費で飯が食えるとか、嫌なことばかりでもありません。特に海外出張の場合は行くだけ行って、 用が済んだら「今日から休暇をいただきます」とか言って帰りの航空券の日付を変えてしまって海外販社 時代の友達のところに転がり込んだりするのもありでしょう。

 実際に、プロジェクト単位の出張は現地でのミーティングが多いのですが、このとき誰かは誰かの スタンドプレーを監視することを念頭に置きましょう。朝から晩までホテルから一歩も出さずに会議 漬けにして、スタッフが作ったチャートを自分の物にしてしまいましょう。
その日行われる会議の内容・議決・結果その他を自分のものにしてしまわなければなりませんから、 有能な奴は事前ミーティングのさらに事前くらいでつぶしておきましょう。
「君、英語自信あるの?」とか、相手のコンプレックスを突きまくれば簡単につぶれてくれます。
旅先とはそういう物です。

アフターの心得

 偉いさん方というのはいかにライバル企業であっても不思議と横のつながりがある物です。それは業界団体 のおつきあいだったり経団連のおつきあいだったり学生時代のつきあいだったりと様々です。
こういった、プライベートに類する部分の交際にも積極的に介入してしまいましょう。ゴルフコンペの事務局 をやったり、歓送迎会に無理矢理引っぱり出したりついていったりしてとにかく上役の視界に入っておくと 万が一自分が無能だとばれたときでも安心です。
そうそう。滅多にはありませんが、上役に性的なサービスを要求されたらチャンスかもしれません。
自分の中で良く損得勘定をして応じるかどうか決めましょう。彼らも公人に近いところがありますから、 そういう兆候を読みとってこちらからアプローチするのも良いかもしれません。ただ、ミニスカートが 似合う年かどうかはあなたの判断に任せます。

 男性の場合は、日頃から上役の趣味を微に入り細に入り把握しておきましょう。もちろん、いわゆる 趣味から女性の趣味、性的趣向にいたるまで。もし上役が若い頃風俗店に出入りしていたというのであれば 六本木、渋谷、池袋あたりの秘密が守れる企画系のそういうお店のことをそれとなく話をしてみるのも 手ですね。平静を装いながらわくわくしながら聞いてくれるでしょう。いっしょに行こうなんてことに なるかもしれません。釣り・ゴルフといった一人でやるのがつまらない趣味に関しては積極的にお供を して荷物持ちでも運転手でもしてしまいましょう。

 こうしてプライベートな時間の過ごし方をある程度把握しておかないと、いきなり「社長の友達」とか 「大学の教授」とか「知り合い」とかが取締役になってしまいます。外様はどうせあとで泣きを入れるに 決まっているのだから、業務の円滑化のためにもまずは予防。予防の会がなかった場合は嫌がらせをして 消えていただきましょう。

次のステップを目指して

 数年上級をやっていると、どうしても避けられないのが「そろそろ一度現場の空気を吸ってくるか」という お言葉です。冗談ではありません。今現場に戻ったりしたら手柄を横取りされた連中に袋叩きにされかねません。
もともと、現場で実績を上げる自信がなくてこんな非生産的な部署にいるのですから、今更現場に戻されても 現場も自分も困るだけです。「私はこの仕事をずっと続けたい」とはっきり言うべきでしょう。私の知りうる 限りでは「現場であくせく働くよりは、横からつっこみを入れるほうがいい」とはっきり言ってしまっても かまわないようです。今まで人から横取りしてきた実績がこのときにモノを言います。

 さて、こういう上級サラリーマンとして生きていけるのは部長までで、それ以上になるとどうしても実績が 必要となってきます。「戦略」や「企画」はそれを行商しない限り金になりません。つまり、行商しないのであれば そこでいくら実績を上げても企業に貢献したことになりません。ですから、ここはやはり横取りです。
「現場に降りろ」と言われたときに、今まで統制してきた情報をフル動員して一番実績が上がりそうな部署を分析し、 そこの中間管理職にしてくれと頼めば、このページをすでにここまで読んだ人ならそれくらいのわがままは聞 いてもらえるほどのインチキ実績はついているはずです。そこで3年ほど我慢すれば、理事や参与、うまくすれば 執行役員か取締役になれるかもしれません。賽の目がうまく転がれば、あとは鼻くそをほじくっているだけでもいいのです。

ライバルをけ落とせ!

 上級をねらっているのはあなただけではありません。バブル世代に大量入社してしまい、行き場を失った 企画職の連中の多くは自分に企画力がないのは自認しながらも、今のぬるま湯をさらにぬるくしたいと考えて います。彼ら(私たち)にとってもっとも驚異なのは正当な実力を備えて激戦を勝ち抜いてきたバブル崩壊後 採用組の連中であり、また隣にいる同期入社社員たちです。企画という、モノを作るでもなく、金を集めるでもなく、 ただ議事録とチャートとシートに囲まれているだけの代わりはいくらでもいるような職業のまま上を目指すには それなりに非道に身を落とすことも覚悟しなければなりません。

 巨大かつ複雑なメディア体系の中で様々な情報の洪水を泳ぎ切ってきた私たちの世代の情報処理能力は、どう考えても ハゲ面のジジイどもより高いのです。顕著な例がベンチャーが次々と成功している米国ビジネス界です。アジアの端っこ に生きる私たちは、米国ほど公正な競争を望めないがために世の中の美味しい部分をハゲ面のジジイどもに丸かじり されているのです。どうせ公正でないのなら、とことん非公正に徹した方が世の中の美味しい部分をかじり取れる 可能性は高くなるでしょう。その覚悟さえあれば、上級サラリーマンは決して手の届かない夢ではありません。