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野村沙知代さんはなぜ話題になるのか

1999年6月18日  田口ランディ記事のメール配信


 会社勤めの方は案外と知らないかもしれないけれど、今、ワイドショーの話題はひたすら「野村沙知代疑惑」である。朝の9時にワイドショーを見ると、どこを回しても「野村沙知代」なのだ。

 今朝は日テレの番組を観ていたのだが、「パフォーマンス学」なる心理学の専門家が登場して「パフォーマンス的視点」から、野村沙知代さんの行動を分析していた。それによると、ひとつの質問に対し、あれだけ違う答えをする人は「絶対に嘘をついています」と断言されていた。

 へー、いろんな学問があるもんだなあと、私はテレビを観ながらしみじみと感心した。しかし、別に専門家が出て来なくても、どうも野村沙知代という人は嘘をついているということは、誰でもわかるんじゃないかねえ、とも思った。

 まあ、誰もが「なんとなくそうなんじゃないか」と思うことを断言してくださるのが、学者先生のお仕事なのかもしれない。

 現在、話題の争点になっているのは、野村沙知代さんの「履歴詐称」についてだ。野村さんは「コロンビア大学に留学していた事がある」と、以前に選挙に出馬した時の記者会見で語っているのだが、野村さんが留学したという事実を証明するものがどこにもないので「経歴を詐称したのではないか?実はコロンビア大学に留学したというのは大嘘ではないか」と騒がれているのである。

 野村さんは有名人で社会的な立場にあり、しかも選挙にまで出馬したことのある存在だったために、この履歴の問題は「国家の威信に関わる問題」になりつつあるようだ。野村沙知代さんを推薦した小沢一郎さんも、今ごろ頭を抱えているのかもしれない。

 野村沙知代さんという人をテレビで認識するようになったのは「怪傑熟女心配ご無用」という番組に野村さんが出演してからだ。この番組は「熟女」と呼ばれる女性たち(実際にはいろんな年齢が混じっているんだけど)に、相談者が身の上相談をするという、極めてオーソドックスな番組である。

 番組改編でも終わらずに存続しているのは、この「熟女」の方々の「ちょっとズレた」しかも「歯に衣着せぬ」解答ぶりが受けていたからだと思う。そして、熟女のなかでもとりわけ目立った発言をしていたのが、左幸子さんと、野村沙知代さんだったのだ。

 
●野村沙知代さんの価値観はよく見えない

 私は実は、この番組が好きでよく観ていた。なにしろ、こういう他人の人生を覗くような「家政婦は見た!」な番組が、私はムショウに好きなのである。時折自己嫌悪に陥りながらも、見ないではいられない。

 特に着目していたのは、左幸子さんと、加賀まりこさんと、野村沙知代さんのパーソナリティの違いであった。とはいえ、読者の方は、左幸子さんも、加賀まりこさんも、あまりご存知ないかもしれない。どちらもかつては、絶世の美女(古いフレーズ)だったお二人である。

 加賀まりこさんという方は、十代のころから文化人のおじ様方のアイドルで「小悪魔」と呼ばれ、六本木で贅沢三昧に遊び歩いた人だ。その人脈たるや、今のアイドルの比ではない。彼女がおつきあいしていたおじ様は、国宝級の芸術家のみなさんである。

 そんなわけだから、加賀さんのスタンスは「下々の人生なんてどうだっていいのよ」であり、「なんでそんなつまんないことで悩んでいるわけ?」である。「やりたかったらやればいいじゃない」であり「できない人間はバカなのよ」である。

 華麗な人生を、奔放に生きてきた小悪魔に、そもそも一般人の悩みなど共感できるわけもなく、だいたい「ばっかみたい」とあきれ果てて、相談になんか乗らない。興味がないのである。

 それに対して、左幸子さんという方は、新劇女優でなかなかの苦労人らしく、また他人の気持ちに共感しようとするところが、加賀まりこさんとは違う。だけれども、彼女のベースにある価値観というのは、実は日本人にはめずらしいくらいに、個人主義なのだ。

 「最後は自分でしょ」というのが左幸子さんの言い分であり、自分の幸せこそが他者の幸せであり、自分を抜きにして何もできないじゃないのよ、だから自分がどうしたいのか、あなたやっぱりもっと自分を大切にしなくちゃ、と相談者を励ますのだ。

 で、問題の野村沙知代さんであるが、私はこの方のことが一向にわからなかった。この人のベースにある基本的な価値観が何なのか、よくわからない。だけれども、発言回数は誰よりも多いのである。不思議な人だなあと思っていた。

 野村さんが一番主張するのは「母であること」である。子供を捨てて不倫に走ろうとするような相談者には、怒りの鉄拳が降りた。「バカ言ってんじゃないわよ、まずは子供でしょうが!」である。徹底的に、子供にこだわっていた。「子供がかわいそう」と言うのは、野村さんの口癖だった。

 
●母親という仕事

 母親という仕事には、もちろん「子育て」というのが含まれるのだが、実はもっと大変なことがある。それは「社会性を発揮する」ということである。私は10年近く、自分で会社を経営してきたけれども、その時よりも「子育て」の方が社会性を要求されるな、と実感している。

 一見、母親であることと、社会性は結びつかないように思われがちなのだけど、とんでもない。母親になることは、地域社会の一員として迎えられることであり、子供会、保母会、公園のお母さん、お医者さん、先生とのつきあい……とまあ、ものすごく多種多様な人びとと、おつきあいしていかなければならないお仕事なのである。

 ここで「おんな的社会性」を磨かれるので、女は年をとっても集団生活に適応しやすいんじゃないかとさえ思う。たとえば、会社の中で同僚とおつきあいする……というのは、実は楽な社会性である。共通の組織という基盤がある。

 ところが、母親という共通項だけで、ひと括りされる子育て中の女性は、年齢がどんなに離れていようが、同じ年の子供がいれば「お母さん」なのである。かつてヤンキーであろうが、三菱商事に勤めていようが、ホステスだろうが、学生だろうが、子供が同じ年なら同じように集められ、やれ歯科検診だの、予防接種だので顔を合わせる。

 子供が自立するまで、ノイローゼにもならずに育てあげた母親というのは、かなりの社会性を有しているはずである。子供から見ればバカな母親かもしれないけれども、母親という仕事は、自分とは異る人間と多種多様に付き合うことを余儀なくされるのである。

 たとえ大女優であっても、妊娠した時は、変な椅子に座ってパンツを脱いで足を開くのだ。子供が生れれば名前ではなく「お母さん」と呼ばれ、いかに仕事で有能であっても、保母さんから「歯磨きができてませんねえ」と怒られれば、無能な母なのである。

 子供が電車に乗って、靴で座席に上がれば「ごめんなさい」と周りに謝り、汚い手でお姉さんの服を汚しては「大丈夫ですか?」と汚れをぬぐい、あっちこっちに頭を下げて外出し、ああもう私って何なのよっ!という経験をした末に、とにかく社会と折りあっていく術を身につける。

 で、野村沙知代さんという人は「母親には珍しいタイプだなあ」と思っていた。いかに野村監督夫人でも、あんなにいつも怒って威張っているというのは、女同士の中で揉まれた人とは思えない。

 母親という土俵に上げられた時に、女は持っていた権威とか、職業的プライドとか、そういうものを一端降ろさざるえなくなって、そこで繋がれたりするのだ。

 でも、野村沙知代さんには「おんなの社会性」が感じられなかった。それなのに「母親であること」をえらく主張するので、違和感があったのだ。

 
●野村沙知代さんの言葉の裏にあるもの

 野村さんには、離婚した前のご主人との間にもお子さんがいるし、野村監督との間にもお子さんがいる。しかも立派な野球選手に成長しておられるようだ。とすれば、野村沙知代さんは育児のプロであり、立派な母親である。

 でも「母親としての自分」を主張しながら、野村沙知代さんがいつも価値観のベースに置いているのは「おとこ社会で価値ある自分」であり、それが彼女の破綻の原因になっている。

 では、「おとこの社会性」に必要なものは何か?「学歴あるいは思想的共通基盤」「なにかの職業に就いている」「社会に貢献している存在である」。おとこ社会では、この3つを放棄すると「社会性に欠ける」と認識される。だから、ホームレスは社会性に欠ける人である。

 が「おんなの社会性」はちょっと違うのだ。女の場合、学歴がなく、家でごろごろしていても、花嫁修業なのよと言えば、通るのである。結婚しないで家にいても「社会の落後者」とは呼ばれない。肩身は狭いが、気にしなければ生きていける。

 だが、女はまったく別の社会性を要求される。「挨拶」「約束」「笑顔」「奉仕」である。これなくして母親業は成立しない。ね、この4つが野村沙知代さんには全く欠けているのである。正直なところ、私は子供を生んでから、この4つが、いかに地域社会で暮らしていくために必要なアイテムかを実感している。

 野村沙知代さんが目指していたのは「おとこの社会性」である。だから彼女は、コロンビア大学に留学していなければならなかったのであり、野村監督夫人だけでは飽き足らず、議員にならなければならなかったのであり、そして少年野球チームを率いて、人生相談に出演する存在でなければならなかった。

 「おとこの社会性」を発揮しようとする女の人は、多くの場合、自分以外の他の女性には「おんなの社会性」を強く求める。自分はどこかで「ただの女ではない」と思っているのかもしれない。

 野村沙知代さんが、野村監督に変装して球場に行ったら、それはそれでサマになるかもしれない。彼女の立ち振る舞いは「おとこの社会性」にのっとっているから。たぶん彼女は野村監督の振るまいから「おとこ社会のリーダー像」を模写しているのだ。二人の姿はどこか似ている。

 私は、野村沙知代さんの人生の全貌についてまだ知らないが、今の調子だとワイドショーは、彼女の人生をむき出しにするまで、取材をやめないかもしれない。どんな思春期を送ったのか、それが今の彼女に影響を与えているのか、分析は続くだろう。

 私は、もちろん野村沙知代さんがなぜ、そんな風に「おとこの社会性」のなかで自らをアイデンティファイすることに燃えたのか興味はある。が、それはしょせん、野村さんの人生の問題であって、私には関係ない。

 
●漫画化された「男の権力者」の言動

 それよりも、私がそそられてやまないのは、野村沙知代さんの言動の背後にあるものだ。

 たとえば、野村さんはあくまで「母親」にこだわりながら、実は「母親である女」に価値を置いていないのがわかる。そして、一途に「おとこ社会」を模写している彼女の言動は、デフォルメされた、この社会の価値観でもあるのだ。

 ようするに、言葉では「母親の重要性」「女性の社会参加」などと言われても、まったくそんなことに価値を置かない多くの人で、おとこ社会は構成されているということを、野村発言は垣間見せてくれるのだ。野村さんの言動は、漫画化された「男の権力者」の言動だと思えばいいのである。

 変な言い方だけど、野村さんは、道化的小悪党だ。彼女の言動には凝縮されて滑稽化された「おとこの社会」が見える。その姿はおぞましくて、誰もが怒る。だけれども、それをどっかんと拡大したものが、今、この日本の社会を覆っているのだ。

 「返して欲しいのなら、自分から取りにくればいいのよ」と、借りた壺を返さないで豪語する彼女の言動の背後には「そっちにもやましいところがあるでしょ」というのが見え隠れする。利害のからんだ裏取引は、より汚い方が勝ちなのだ、と彼女は暗に言っているのだ。

 ころころ変わる言動も「その場をしのげばなんとかなる」「黙っていれば人はすぐ忘れる」「まずいことははぐらかす」という手練手管だが、それもまたニュースではおなじみになった、男社会の悪党の手口である。

 彼女より悪い人はいっぱいいるだろう。彼女より嘘つきな男もいっぱいいるだろう。野村沙知代さんは、そういう世界を、ちょっとよじれた鏡として映している。人間の行動ってのは、実はオリジナルは少なくて、たいがい誰かの真似であり、その真似を続けているうちに、独自性が出てくる。野村沙知代さんにも、彼女のモデルがいたのだと思う。

 そして、そのモデルはたぶん男の権力者たちで、なぜかそういう裏の権力の世界を早くから覗いていたのではないかと思う。そして、それを真似て自分の価値観を形成していった。女が男の権力を模倣しようとすると、ひどくデフォルメされて極端に走る。子供のごっこ遊びと似ているのだ。

 「おとこ社会」を必死で模写していたら、いつのまにか窮地に立たされた。今の野村沙知代さんは、そんな感じじゃないのかな。だからこそ彼女の言葉に表現されているのは、この社会の本音の一部なのだ。

 そしてたぶん、ワイドショーを見ている多くの人は、なんとなく野村沙知代さんの発言の断片から、この社会のえげつない部分を、予感しているのだ。戦後日本の権力をもった人々が、暗黙の了解のうちに行ってきた行為の、縮小された形、それを体現しているのが野村沙知代さんだ。

 あちこちで、野村さんの講演会は中止になっているそうだけれど、私は彼女の講演を聞いてみたいな。見方を変えれば、今、野村沙知代さんの講演は、無意識から噴出している怒りと憎悪で、見事にこの社会のB面をあぶりだしているだろうから。

 それを聞いてどう感じるか、自分を試してみたい。日本でずっと暮らして来た私は実際、日本ボケしている。自分の倫理観に自信なんてないのだ。彼女が強く「やりたいことやったもん勝ちよ」と言ったら、案外心のなかでそうだそうだ、と思うのかもしれない。

 テレビで放映された、野村さんの講演会には、彼女の毒舌に拍手が巻き起っていた。

 
田口ランディ

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