イントロ(2001年6月19日の日記より)

(無題) 投稿者:コズモ  投稿日: 6月19日(火)23時08分31秒

一昨日、藤倉和音さんが2月14日、交通事故で亡くなられた
ことを知りました。僕、知らずに冬コミの新作レヴューとか書
いてましたね。
自分の好きなアーティストがこの世を去ってしまうのは、フィ
ッシュマンズの佐藤くんの逝去以来、2人目です。2人ともイ
ンターネットで死を知りました。
佐藤くんのときはフィッシュマンズメーリングリストで知りま
した。「佐藤伸治逝去」「ご冥福をお祈りします」といったサ
ブジェクトがあらわれたとき、「たちの悪いいたずらだな」と
一瞬思い、同様のサブジェクトがずらりと並んだときには事実
を受け入れていました。
藤倉さんの死をどこで知ったかは最近のことなのに、はっきり
おぼえていません。googleに「藤倉和音」と打ち込んで検索す
ると、膨大な冥福を祈る旨の文章がヒットします。(なかには
冥福を祈らないものもありますが。)そのなかのどれかでしょ
う。
詳しい死因、事故の状況などについて書かれたサイトもありま
す。読んでいくうちに気が滅入りました。藤倉さんの死が悲し
いという思いもあり、同時に藤倉さんの作品が語られていない
ことに愕然としたのです。
うちのサイトも検索中に引っかかりました。一応、レヴューも
書いていますが、こんなものでは藤倉さんも浮かばれないでし
ょう。
藤倉さんの残した作品をレヴューしてアップします。ほとんど
の同人誌作品は手元にあります。今度はもっと真剣に。


藤倉和音はおしゃれか?

藤倉和音はおしゃれか? という疑問は、おしゃれとはなんなのかという
疑問を呼び起こします。キューティーコミック読んでる子とコミックバンチを
読んでる子はどっちがおしゃれ? なんて聞かれても答えようがないですよね。
どうしようもない。ここに「ダメ」なんて概念を導入しちゃうとますます
わけがわからなくなる。
まあ、コミックバンチを熱く斜めから眺めるおしゃれっ子を意識的に自己の周辺に
「ダメ」を導入する「ダメおしゃれっ子」と定義するなら、藤倉さんは、その対
極に位置づけられると言えるでしょう。つまりキューティーコミック派。ノ
ーマルなおしゃれっ子。
でも、マイサイトのBBSで「親は関係ねぇだろ、親は!」なんて原哲夫
『公権力横領捜査官中坊林太郎』を引用した発言を残した藤倉さんはダメ
おしゃれっ子としての資質も持っていたんじゃないかと思います。
オタク文化がそもそもダメじゃんっていわれるとお手上げ。
ちなみにBBSで「親の顔が見たいね!」と振ったのは関川ケイコさん。
この二人は本当にいいコンビですね。

藤倉さんが聴いていた音楽に関してですが、これがおしゃれかどうかは
読者の皆さんの判断にまかせます。
ちなみに藤倉さんは
・ドラゴンアッシュの『ビバ・ラ・レボリューション』の歌詞をそらで
歌える。
・『In Harmony』のCD紹介コーナーでは、かせきさいだぁ、
中村一義をピックアップする。
・『フユヘトハシリダソウ』は、かせきさいだぁの「冬へと走り出そう」か
らの引用。
・『音楽と人』を読んでいる。
晩年の藤倉さんがどんな音楽を聴いていたかはわかりません。
告別式でドラゴンアッシュとトライセラトップスが流れたという不確かな
情報もありますが。
ちなみにこの2組が2000年のサマーソニックに出演決定したときはサマソニ
オフィシャルBBSが荒れました。

ファッションに関してですが、決して時代を先行してはいません。
フリースジャケットを描くタイミングを作品を見て考えれば明らか。
ユニクロが大量にフリース出す直前か直後に描いてます。
ロモのレンズの名前からつけられた『minitar』などを見てもロモを
扱うタイミングとしては決してベストなタイミングではありません。
まあ、藤倉さんが参加するような同人イベントは年数回しかないので、
仕方ないといえばそうなのですが。
サイトでも紹介されていた写真に関してはHIROMIX以降のセンスですね。
東松照明なんて名前も知らないでしょう。
(追記:こう書きましたが藤倉さんの写真に対する知識は僕が想像する
より深いかもしれません。日本大学芸術学部写真学科卒業ですし。
『風のクロノア』の同人誌『LINKED RING』のタイトルはクラレンス・ホワイトも
メンバーになったリンクド・リングから取られているのでしょうか?:01.06.23)


僕個人の感想を断言させてもらえば、藤倉さんは決しておしゃれ
では、ありませんでした。この文章は「痛い」「ダサい」といった
言葉を使わずに書こうと決めていたので使いませんでした。読者の
多くは「藤倉って痛い奴じゃん」と思うかもしれません。実際、そうなのか
もしれません。風俗の描写に関して藤倉さんが秀でているとは僕も
思いません。しかし、僕は同時代を生きる若者が風俗について
勘違いしながらも熱くなる姿がどうしても憎めません。そんな意味で
藤倉さんのファッション性もどうしても「痛い」なんて言えないのです。

それにセンスってのは作品で表現するものです。僕は藤倉さんの作品に
ついては「完璧におしゃれ」だと思っています。

藤倉さんのファッション性を表現する的確なフレーズを
思いつきました。

「キューピーハーフのCMみたい」


以下、作品レヴュー。
時系列を無視して。


girls made
Sweets,
Music,
One piece,
Chatterring,
and
School days.

なんて長いタイトル! つねにポジティヴな饒舌を志向した藤倉さん
ならでは。内容に関しては関川さんといちゃついてます(笑)。いい雰囲気
でもの作りしているなってうらやましくなる。もしかして、そう思わせる
ために作ったの? なんて。
よねちゃんとあんこちゃんの夏の一週間着回し企画。
よねちゃんは「chocolat」みたいな女の子のイメージとのこと。
ショコラのこと? 英語で書かれるとピンとこない。
関川さん曰く「いいですよねー、よね。ばかで」
あんこちゃんは本当は杏子(きょうこ)なのです。
(追記:このころはオリーブがまだありました。オリーブ少年フジクラは
復活オリーブをどう見ているのでしょう?:01.06.22)


イントロダクション・オブ・フジクラ

フォトショップ使ってる人がカメラや写真に対して意識的でないのは本当
はおかしくて、そのことをわかってる藤倉さんが作った代表作。
わかってるがゆえに嫌われもしたんだけどね。
とにかく見るべきなのは、光線の美。
影がつけられていない線画の状態の絵にも陰影が見て取れるような意識の
高さ。
この本がピカ塗り論争を終わらせた。(僕の中で。)
この本を読んだとき僕はこの才能をどこまでも追いかけていこうと
思いました。
ところで「ひかりとかげ」を「光蜥蜴」って読んじゃったの僕だけ?


リベレーション・フロム・フジクラ

藤倉さんのセンスがコミケのキャパシティを越えてしまい、その外へと
向かいはじめたことを高らかに告げる意欲作。『イントロダクション〜』に
続く作品集第2弾。この本からめちゃくちゃテキストが読みづらくなる(笑)。
この作品のころ藤倉さんは人工的な照明にいれこんでいたことがはっきり
わかる。『イントロダクション〜』の頃は天使の絵なんかで人工光線の
絵も見れるけど、太陽光線の絵のほうがずっと多かった。それが逆転。
VJをはじめて夜と冬の光に目覚めたよろこびが伝わってくる。


フユヘトハシリダソウ

よねちゃんとあんこちゃんの最後の夏休みin江ノ島。
とまらないおしゃべりとゴキゲンなカブのスピード。
モラトリアムな一瞬のブルーは花火のように美しく。
夏の思い出をカメラに収めたら
冬へと走り出そう。
作品中ひとこともフリッパーズギターなんてフレーズは
でてこないのに、あまりにも!(01.07.02追加)


minitar

読み方は「ミニター」でいいのかな。SELFISH GENEプロデュースの雑誌。
編集感覚のよさを指摘されつづけた藤倉さんならではの好企画。主にコミティア
で活動する作家さんたちへのインタビューで構成されています。
今までの作品の総まとめ的な位置づけの本と言えるのでしょう、これまで
出した同人誌についてのコメントも聞けます。
『雫』『痕』関係の本、R賀時代の作品のコメントがありませんが、そこは
つっこんじゃだめ。
サニーデイサービスのファーストは『若者たち』。
それでいいでしょう?


99年夏のコミックマーケットで藤倉さんと一瞬だけおしゃべりすることが
できました。

(関川さんがバッファロー・ドーターのTシャツを着ている僕を見つけて)
関川「あっ、バッファロードーター。シャツが」
藤倉「おお。どこで買ったんですか」
長澤「去年の闘魂98で」
藤倉「ああ、売ってましたね」
関川「バッファロードーターいいですよね」
長澤「そうですね。あれ(闘魂98)が、(僕の)最後のフィッシュマンズになったんですよ」
藤倉「欣ちゃん、バッファロードーターに入ったんですよね」
長澤「そうなんですよね。がんばってほしいですね。では、この辺で」
藤倉・関川「どうもー」
長澤「どうもー」

こんな感じ。ほんの一瞬。
でも、うれしかった。
一生忘れない。
藤倉さんは金髪でした。

レヴューしてないほかの本は部屋のどこかでねむっています。
(01.6.20)

インデックスに戻る

追加:緑葉社の社長の追悼文に直リン