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「PANZER FRONT」開発者インタビュー
鋼鉄の騎士たちの肖像・前編
(2/2)

 前作の「PANZER FRONT」を称して、私はさまざまなメディアで「“素うどん”のような味わいのゲームである」と表現してきた。それはつまり「素うどんのようにシンプルで、ある意味素っ気ないが、ベースとなる“だし汁”の味が抜群なゲーム」という意味である。素うどん、かけそば……小細工できないシンプルなものほど、基本となる“だし汁”=システムの出来が問われる。そして今回の「bis.」は、素うどんに“おあげ”を、あるいは天ぷらを載せたようなものかと思っていた。“あんこ”だの“素うどん”だの、食べ物の例ばかりで申し訳ないが……。しかし今回のインタビューで、前作「PANZER FRONT」自体が当初指向していた路線は、いわば“たぬきうどん”のようなものであった、という事実が見えてきた。


■キャラクターデザイン/出渕 裕
今回「〜WIRE」では、本来「PANZER FRONT.」向けに作成されていた設定原画を入手。インタビュー中にあるアメリカ編・ロシア編の一端もうかがい知ることのできる資料は、こちらから!
鈴木 ここで、当初構想されていたアメリカ・ロシア・ドイツ各自のストーリーについてうかがっておきたいんですが……。幻の「ロシア編」とは、どういう話なんですか?
石津 姉妹の話なんですよ。戦車兵である姉と、レニングラードの工場で働く妹の。
能登 えっ、そうだったんですか?!
石津 そうだよ(笑)。だから、工員の格好をしたキャラクターの設定画まで、出淵さんに描いてもらったりしていたんだよ。
能登 あ、そうなんですか……全然、知りませんでした(笑)。
石津 当初は「レニングラードの900日の攻防」を外側と内側から描こう、というストーリーでした。物語をつけるならばと、前むきに考えると、そんな感じですかね。ところが、それをちゃんとやるとなると、こいつが大変なわけですよ(笑)。
鈴木 アメリカ編のストーリーなんか、痛快そうですね。
石津 まぁ、映画の「戦略大作戦」みたいなものですから(笑)。
鈴木 アメリカ編が一番先行してできていて、ロシア編、ドイツ編の完成度の順だとしたら、結果的に「bis.」でドイツ編が採用になっているのは、どういう理由から?
石津 いや、それはやっぱり世の中の一番人気はドイツですからね、その部分をはずしたら「何だろう?」って思われるでしょ。これがアメリカだけだったら……ねぇ(笑)。それに、ドイツ軍の様式美に思い入れがある出渕さんにキャラクターを描いてもらっているので「ドイツ編を落として他の国にするのは、ちょっとなぁ」と……。それで、ドイツ編になったんですよ。
鈴木 アメリカ編とロシア編もほぼ、完成に近いところまでいっていたんですか?
石津 近いところまでは行っていたと思います。ただ、ストーリー部分のCGを入れるとなると、さらに映画と同じ作業をしなければいけないんですよ。例えばカット割りだとか、「ここに何秒文字が入る」とか……。そういう作業をするとなると、また基本のゲームとは違うところで苦労しなければならない。しかし、基本となるゲーム(戦車戦闘)を犠牲にしてまでそういう作業は、あまりやりたくなかったんですよ。そういう作業の采配は、すべて監督に戻ってくることも知っていたので。
鈴木 ムービーの総上映時間というのは、どのくらいだったんですか?
石津 いや、そんなにないです。全部で15分くらいしか入らないんで。
能登 それに、そんなに入らないんです。いまの製品版以上入れるともう、ゲームができなくて……いっぱいいっぱいです。当初は3タイプのストーリーを入れられるという計算だったんですが、通信メッセージを音声で入れることにしたら、状況が激変して。
鈴木 仮に3か国分のストーリーモードを全部入れようとしたら、必然的に2枚組になってしまっていた、と?
石津 そうかもしれないですね。でも、僕は“2枚組のゲーム”という考え方が嫌いなんです。絶対にゲームは1枚だと思っているんですよ。なぜかというと、僕が1つのゲームをずっとゲーム機に入れっぱなしにするたちなので。何ヶ月も(笑)。
鈴木 な〜るほど(笑)。ここでストーリーモードの話に戻りますが、私もやっぱり、ドイツ兵の話がいちばんしっくりきますよね。あのドイツ兵のストーリーというのは、ユングですか? 僕はあのストーリーに、ユング的な世界観を感じたんですが……。
石津 え? う〜ん、まぁ、何も考えてないんですけどね(笑)。意味とか謎みたいなものはね、なんでもいいんです。今のゲームの作り方というのはユーザー=プレイヤーに過剰にサービスするようにできていますよね。それが僕はあんまり好きじゃないんです。「じゃあいっそのこと、意味も謎も、何もわからない方がいいんじゃないか」って。具体的にイメージがたどれないようにしてあるわけです。脚本の大野木さんのほうでは、また違ったイメージをもって作品にしていただいたと思うのですが、僕がそれを分解し、まったく違う解釈で組み立ててしまったように思います。
鈴木 そういえば石津さんも脚本に関わられていますよね?
石津 はい。同じ「戦う」にしても、どこが戦場になるのかくらいはちゃんと決めないといけないですから、そういう作業はやりました。実際、ストーリーモードでは親衛隊が現実に辿ったルートしか、マップは出てこないんですよ。
鈴木 終盤に、巨大なタイガー戦車がボスキャラ的に出てくるじゃないですか。
石津 そう、あれを何にすべきかというの議論は、最初にあったんですよ。いろいろと。たとえば甲羅みたいなのをかぶって、車輪がついているような、変な戦車……。
能登 ああ、レオナルド・ダ・ビンチの?
石津 そうそう、レオナルド・ダ・ビンチの戦車にしようかとか、いろいろとあったんですが、まぁどこかバカバカしくて……で、「タイガー戦車でいいや、戦車ゲームだし」と。
鈴木 他国の、例えばロシアのJS−2とか3とかじゃなくて、あえて味方のタイガー戦車を選択したというのは、なぜ……?
石津 他の国の戦車というのは逆に問題があるんじゃないかな。むしろ“我が身を倒すような”状態にした方が、意味深でいいんじゃないかな、と。
鈴木 ああ。そういう意味でさっきのユング、に結びついちゃったんですよ、僕の場合。
石津 だからタイガー戦車が倒される時間が、わざわざ入れてあるんです。あそこの場面では日付けが画面に出ますよね。あれは、ヒトラーの自殺した時間でもあるんです。
鈴木 1945年4月30日の……。
石津 午前3時過ぎくらいですか。ちょうどその時間帯にしてあるんです。まぁ、何となく分かる人は何となく分かってくれるんじゃないかな、と。遊びですけどね。
鈴木 能登さんとしては、いかがでしょうか?
能登 プログラム的には、最後のエフェクトを作るのにえらい苦労しましたね。
鈴木 あの、ピカピカオーロラみたいな……。
能登 はい。他のものの場合、適当にフィルムとかあたれば印象がつかめるわけですが、あれはもう、現実には存在しないものなのなので。石津さんから絵コンテをもらって……。
石津 簡単なスケッチを1枚だけ渡して、「もうこれで、こういう感じで適当にやって」って(笑)。あの手の表現は、アニメや特撮とかでもうみんな見ていますよね。だから「どんなことをやったって無駄ですよ、すでに見飽きたし、もうたくさん」って思うのですよ。
 スイスの精神分析医、カール・グスタフ・ユングが「ナチスの台頭とその後の破滅を予言した」とされる部分が、当時の原稿や講演の中に存在する。第一次大戦後、ドイツ民族は「自らが他民族に対して優越している」という思想にしがみつくようになっていった。これらは、敗戦のショックや混乱から来る劣等感とじつは同質のものなのだが、その結果、より強力な国家、指導者を求めるようになっていく。それは、ドイツ民族が内包している、ゲルマンの神、ヴォータン(オーディン)を求める集合的無意識のエネルギーが動き出した印しである、とユングは説く。あたかも“ヒトラーの亡霊”を思わせるような“内なる敵”と戦う「PANZER FRONT bis.」のストーリーモードは、偶然にも、前述したユングの説との符合を思わせた……。
 そして話は、「bis.」のもう一つの大きな変更部分、“コンストラクションモード”、そして“パンツァーフロントモード”に入っていく。

【後編へ続く】

「PANZER FRONT」……(c)Ishizu Yasushi (c)Shangri-La (c)1999 ASCII Corp.
「PANZER FRONT bis.」……(c)2001 ENTERBRAIN,INC./Ishizu Yasushi


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