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2003年07月13日
中国新幹線 夢もいいが採算も大事だ

 北京―上海を結ぶ中国の高速鉄道計画は、ドイツのリニアモーターカー方式が後退し、レール方式の採用が固まった。

 日本の新幹線、ドイツのICE、フランスのTGVが候補にあがっている。08年の北京五輪にあわせた国威発揚のための重要なプロジェクトである。

 日本人なら、新幹線の兄弟が広い中国大陸を疾走するのは心はずむ夢だろう。だが、新幹線技術の中国移転にはJR東海は慎重、JR東日本は積極的という温度差がある。

 これから日、独、仏3者の競争が激化するだろうが、日本が技術立国を目指すなら、技術を売る技術もたけていなければならない。

 まず中国の立場に立って考えてみるべきだ。台湾は、日本の新幹線をシステム丸ごと導入した。しかし中国が考えているのは、中国自身の手による新幹線の建設である。そのために必要な先進技術の移転を望んでいるのだ。

 中国初の大亜湾原発では、各国を競争させて、炉心、冷却装置、発電機などをばら売りさせ、強引に連結した。高度な技術の体系をばらばらに導入することは危ないことだ。

 秒単位で運行される高速鉄道システムも、車両とレールだけで成り立っているのではない。コンピューターで制御される精密な技術の体系である。技術のばら売りは好ましいことだろうか。

 広州と香港の間を走る快速列車、青い矢号の場合、欧州のある国からまず2編成を賃借し、その機関車と客車を国産化した。抗議を受けた中国側は、結局設計料だけ支払った。中国は外国から鉄道技術を丸ごと輸入する気はない。

 最近、北京―瀋陽間の高速鉄道が一部完成した。中国が独自開発した旅客専用列車、中華の星号が試験走行を始めた。営業運転では平均時速170キロと、東海道新幹線の平均220キロを追う。

 中国は、北京―上海高速鉄道で導入した先端技術を中華の星号につぎ込むだろう。アジアはこれからマレー半島縦断鉄道など国際鉄道建設の可能性がでてくる。その時、新幹線の競争相手はコストの安い中国新幹線かもしれない。

 新幹線技術の移転には、もう一ついやな問題がある。日本の中国ビジネスに特有なリスクだ。中国の消費者が日本製の自動車や家電製品にクレームをつけるときに、中国人を民族差別してわざと三流品を売りつけたという抗議や謝罪要求のパターンが生まれた。

 万一、中国高速鉄道で事故が起きたとき、その原因が使用者側にあったのか、日本の技術に欠陥があったのか、冷静に論じられない場合がありうることは、念頭に置いておくべきだろう。

 日中関係の危うさも忘れてはならない。小泉純一郎首相の靖国神社参拝以来、日中両国のトップは相互訪問できない状態にある。ビジネスはビジネスライクに処理すべきだが、日中間にまだ政治的信頼関係が築けていないことを見落としていては、ビジネスの見通しも誤る。

(毎日新聞 07-12-23:50)


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