人の空間に対するイメージと感覚時間に関する研究

       正会員 大貫 寿人
矢川 麻紀子
田村 明弘


キーワード
感覚時間 自己の心理評価 場所のイメージ評価 実験室実験
  1. 研究の目的
     近年、人間側の快適性の要求に答えるため、様々な複合環境を対象とする研究がなされている。本研究は、そのような中で、人間と空間との関係を総合的に捉える指標を模索しようとするものであり、どのような環境要因が心理的時間に影響を及ぼすかを追求することで、人と空間との相互関係を探ることを目的とする。尚、本研究における感覚時間とは、人が主観的に感じる時間の長さを指す。基本的に感覚時間は人の体内にある主観的時刻の刻みの遅い、早いが関係すると言われていて、人にとって好ましい空間であれば、感覚時間は短くなり、反対であれば、長くなることが昨年度までのフィールド研究2)により明らかにされている。
     本年度は、昨年度に8ヶ所を対象として行われた屋外研究を基に、実験条件をコントロールした実験室実験を行うことによってそれらの関係を更に検討する。

  2. 実験方法

    1. 実験概要:本研究の概要を示す。
      実験日時1999年10月
      実験室横浜国立大学環境工学実験棟内実験室
      被験者男性18名 女性12名 計30名
      呈示映像ビデオカメラで録音??ぢ録画した映像19シーンをランダムに流した。

    2. 実験内容:
       最初に簡単な属性項目(性別、年齢、出身地、出身地の環境、今住んでいる環境、昨夜の睡眠時間)を回答してもらい、実験に移った。実験構成はまず1分間映像を呈示し、その空間に自分自身がいることをイメージしてもらい、合図の後、昨年と同様にSD法による評価:Q1自己の心理評価(13項目について5段階評価)とQ2場所のイメージ評価(16項目について5段階評価)及びQ3感覚時間評価(作成法)を行った。感覚時間評価は、昨年度研究2)において言語的見積もり法(??ぢスタート??ぢの合図から??ぢストップ??ぢの合図までの1分間をどのくらいの時間が経過したと感じたかを秒で答えさせる方法)では、アンケート記入の際、感じた時間を常用時間に変換するという行動が生じ、誤差が出やすいという結果が見られたため、作成法(??ぢスタート??ぢの合図から1分経過したと感じたときに手を挙げてもらいこちらで経過時間を図る方法)を用いることとした。尚、作成法による感覚時間評価においては、経過時間が短いということが、時間を長く感じているということになる。
       また、上記の実験の後日12月に、被験者の内20人に対して実験に対するインタビュー調査を実施した。

    3. 物理条件調査:
       実験映像対象地区の物理的条件把握のために、各場所毎に、1. 騒音レベル(騒音計を用いて等価騒音レベルを測定したもの。尚、記載している測定値は実験室内での騒音レベルを表す??ぢ)2. 緑視率(各場所の映像と同一方向を等距離射影形式の魚眼レンズを用いて撮影した写真の緑部分の立体角投射率を算定したもの。)の測定調査を行った(表1)。
      <表1> 調査地区概略
      No.場所名概 略 騒音レベル
      (LAeq ,10m)
      緑視率
      (%)
      経過時間
      (秒)
      ?山下公園公園54.2 0.7180.23
      ?新宿御苑53.2 65.280.87
      ?臨港パーク 56.40.0381.47
      ?港北緑道 50.638.779.47
      ?港北森中 48.432.372.13
      ?下北沢住宅街 51.810.971.43
      ?自由が丘 56.50.0969.90
      ?下北沢住宅街 50.416.377.40
      ?港北集合住宅?集合住宅 51.66.7075.30
      ?港北集合住宅? 52.39.2075.27
      ?伊勢崎モール商店街 63.023.469.77
      ?和田町駅前 67.51.8071.80
      ?松原商店街 66.00.0067.83
      ?横浜地下街地下街 63.40.0065.60
      ?新宿都庁ビル街 64.77.0072.13
      ?関内大通り大通り 70.913.468.97
      ?桜木町駅前 67.20.7067.60
      ?港みらい歩道橋 54.017.474.80
      ?三ツ沢交差点 70.80.4072.23

  3. 実験結果及び分析??ぢ考察

    1. 自己の心理評価、場所のイメージ評価:
        Q1、Q2の実験データを基に、因子分析(主因子法、バリマックス回転)を行った。固有値1以上の因子は心理・イメージ評価共に3個づつとなり、心理評価の第一因子は「静穏性」、第二因子は「孤独性」、第三因子は「高揚性」を、イメージ評価の第一因子は「快適性」、第二因子は「整然性」、第三因子は「静寂性」を示す結果となった(表2??ぢ3)。
      <表2> 自己の心理評価(Q1)の因子分析結果
      評価尺度静穏性疲労性高揚性
      せかせかする−.884−.161.149
      くつろいでいる.857 .164
      落ち着いている.848.138 
      急いでいる−.833−.143.188
      いらいらする−.813.128.111
      のんびりしている.812.210 
      気分が良い.752−.114.439
      疲れている−.524.239.219
      さびしい.110.743 
      退屈だ .675 
      元気がある−.141−.655.239
      楽しい.472−.443.484
      心が高揚している−.255−.346.446
      <表3> 場所のイメージ評価(Q2)の因子分析結果
      評価尺度快適性整然性静寂性
      快い―不快な.846 .335 
      好ましい―好ましくない.830 .357 
      親しみやすい―親しみにくい.748 .162−.149
      落ち着く―落ち着きのない.740 .407.282
      美しい―醜い.645.544 
      自然な―人工的な.640 .249
      緑が多い―緑が少ない.574.306.307
      整然とした―乱雑な.133.812.250
      洗練された―野蛮な.176.766 
      調和のとれた―不調和な.436.595 
      広々とした―窮屈な.320.484 
      静かな―騒がしい.519.348.636
      さびしい―にぎやかな.184.210.629
      暗い―明るい−.214−.123.615
      力のない―力のある  .606
      遅い―速い.548.254.583

    2. 感覚時間評価と自己の心理、場所のイメージ評価との関係:
        感覚時間評価の結果と各因子との相関分析(Pearsonの相関係数)を行ったところ(表4)、心理評価の高揚性を除く全ての因子と相関が見られ、これは高揚性を除く全ての因子は、因子得点が大きくなる程、経過時間は長くなることを示している。
      <表4> 各評価因子と経過時間との相関
      自己の心理評価 場所のイメージ評価
       静穏性 孤独性高揚性 快適性整然性 静寂性
      経過時間 0.199** 0.129** 0.070 0.162** 0.143** 0.153**
      ** 相関係数は1%水準で有意(両側)

    3. 感覚時間実験
       (図1)に感覚時間実験の結果(降順、場所毎の平均経過時間)を、降順に示す。また、図は場所の中で緑地、住宅地、商業地、喧騒地の特徴を表している7例を示したものである。図中の棒グラフは、場所の各因子毎の平均因子得点を示したものである。左から、?静穏性、?孤独性、?高揚性、?快適性、?整然性、?静寂性を表す。経過時間と自己の心理、場所のイメージ評価の各因子はほぼ対応しており、心理、イメージ評価が良いと経過時間は長くなっている。しかしその中で、心理、イメージ評価と感覚時間結果とが対応していない場所があり、実験後のインタビュー調査の結果をふまえ以下に挙げる。
      場所 場所
      ?臨港パーク81.47 ?港北森中72.13
      ?新宿御苑80.87 ?和田町駅前71.80
      ?山下公園80.23 ?下北沢71.43
      ?港北緑道79.47 ?自由が丘69.90
      ?下北沢住宅街77.40 ?伊勢崎モール69.77
      ?港北集合住宅?75.30 ?関内大通り68.97
      ?港北集合住宅?75.27 ?松原商店街67.83
      ?港みらい歩道橋74.80 ?桜木町駅前67.60
      ?三ツ沢交差点72.23 ?横浜地下街65.60
      ?新宿都庁72.13 全体 73.38

      • ?森中では、他の公園などと比べて、経過時間がかなり短い。実験後のインタビュー調査によれば、??ぢさみしく早く去りたい。??ぢという意見が多く、居心地の悪さが時間感覚に影響を及ぼしたと思われる。
      • ?横浜地下街は、圧迫感が感覚時間に影響し、経過時間が短くなった原因のひとつと思われる。
      • ?和田町、?三ツ沢交差点では騒音レベル、緑視率、自己の心理、場所のイメージ評価全て良くないのだが、経過時間が長かった。実験後のインタビュー調査において「(心理、イメージ評価は悪くても)見慣れているため、不快な感じはしなかった。」という返答が多く、このような場所に対する思い入れ等が感覚時間に影響したものと思われる。
      ?臨港パーク ?港北集合住宅 ?三ツ沢交差点 ?港北森中 ?自由が丘 ?桜木町駅前 ?横浜地下街
      <図1>感覚時間実験結果と因子毎の得点平均

    4. まとめ
       昨年の結果2)と同様に、自己の心理??ぢ場所のイメージが悪いと経過時間は短くなることが、より明確に表れた。しかし場所によっては、否定される結果も示された。その理由の一部が、今回の実験後のインタビュー調査で大まかに捉えることが出来た。
       今後は更に、本研究において検討を重ねた上で、人と空間の関わりと感覚時間について、さらに深く明らかにしていく所存である。

    参考文献:
    1) 矢川麻紀子,田村明弘「感覚時間による場と人との交感作用の指標化」日本建築学会技術報告集,第8号,pp.155-158,(1999.6)
    2) 矢川麻紀子,藤岡敏康,田村明弘「被験者の心理状態及び場所のイメージと感覚時間に関する研究・その1およびその2」日本建築学会大会学術講演梗概集環境工学編,pp.827-830,(広島、1999.9)