Scene3:俺たちはやったぞ!
 
 
 
話は戻りますが、『トップをねらえ!』には樋口さんも参加なさっていますが、再び実写に帰っていた樋口さんは、どのようなスタンスでOVA『トップをねらえ!』に取り組んでいたのでしょうか。

あの作品でまず思い出すのは、庵野さんのこだわりですね。
 
 
 
 

庵野さんが、あの作品で情熱を注いでいたこだわりのひとつが、あの、「おっぱい」だったんですよ。ノリコとカズミとユングという3人の女の子がお風呂に入る場面が出てくるんですけど、そこの設定書に、庵野さんが指示を書き込んでいた。それがおっぱいなんです(笑)。あのとき庵野さんは熱く「だいたいね。アニメのおっぱいって、僕はダメだと思うんですよ」と語っていました。「アニメのおっぱいって全部同じ形になるじゃないですか。そんなはずはない、本当は一人一人おっぱいの形は違うんですよ!」と(笑)。あれは、さすがに着眼点が違うなと思いましたよ。なるほどそりゃ普通は考えないわ。おっぱいか……(笑)。

あの作品では、俺はコンテぐらいしかやってないです。脚本は山賀博之さんが書いたものがすでに上がっていて、庵野さんがそれをさらに噛みくだいて、ああしたいこうしたいという指示を入れたメモをつくっていた。それが独特なんですよね。A4の紙に横書きで矢印で場面をつないで描いてある。そういう絵コンテならぬ「字コンテ」というかフローチャートみたいなのがあって、すでにその段階でかなり描き込まれているんです。そのチャートをもとにコンテを起こしていきました。その隙間にやりたい小ネタをいっぱい挿んでいきました。

樋口さんは「ナディア」の後あたりから、主戦場を実写に移したわけでしょうか。

いや「ナディア」の後に『おたくのビデオ』('92)という作品に参加しています。コンテと、それとアニメの間に入るインチキドキュメンタリーみたいなパートをやっています。

樋口真嗣氏インタビューもう時効でしょうから言いますけど、あのドキュメンタリーはヤラセで。って観ればわかりますよね。ありえないよ、あんなの(笑)。セル泥役が村濱章司でしょう。フィギュアおたくはてんちょがやってたりとか。あっ、彼の部屋だけはなんにもヤラセなしです。あそこだけてんちょの自宅で撮影していますから。他はみんないろいろ仕込んでますけど、てんちょだけは本物です。あの部分は純粋なドキュメンタリーですね(笑)。

そうしてキャリアも積まれて、そろそろ「俺はこういう仕事をやる人だ」と自覚するようになってきたのですか。

いや、それは全然なかったですね。その頃はまだ「やりたいこと」というよりも「やってくれ」と言われることのほうが多かった。しかし、そういう仕事をこなしていくうちに、「これだけやったのに成果が上がらないのはなんでだろう」と感じることもあるわけですよ。その反動で「こうすりゃいいのに、ああすりゃいいのに」と、どんどん自分の中に「やりたいこと」の貯金がたまっていった。で、グチをこぼしたときに「じゃあ、こうすればいいんだよ」と的確なアドバイスをくれる仲間も現れてきたんです。それこそロールプレイングゲームのパーティのように、いろいろな仲間が集まっていった。
 

トップをねらえ!
 
『トップをねらえ!』第2話「不敵!天才少女の挑戦!!」より。
タカヤ ノリコ、アマノ カズミ、ユング フロイトの3人による入浴シーン。
 
 
 
 
 

その頃、展示映像の監督とかそういう仕事をいろいろとやっている中で、藤子・F・不二雄原作の『未来の想い出』('92)という映画の仕事の話が来たんです。監督は森田芳光さん。その映画の中で「嵐の中を飛行機が飛んでいる」というシチュエーションがあるんですけど、それを特撮でやってくれないかという依頼でした。そこを「じゃその場面を、仕切りもすべてこっちに任せてもらえませんか」と頼んで、実際に任せてもらうことになったんです。そのために、「なにかやろうよ」という会話を、酒のつまみにしていたような気心の知れた人間、矢島信男さんが社長をやっていた特撮研究所の若いスタッフや、東宝で撮影助手をやっていた連中とかを集めてきて、取り組んだんですよ。

ただ最初の打ち合わせのときはね、本編スタッフからは「どうせミニチュアだろ」というような、明らかに下のカーストの人間を見る目で我々は見られていたんです(笑)。「どこまでできんの?」という感じでですね。「特撮なんて肩身のせまいもんだな」と感じていました(笑)。しかし、とりあえず飛行機の場面を撮影して、何度かテストして「これならいけるだろう」ところまで持っていってラッシュを見せに行ったときに、「すごいな、これは本当にミニチュアか」と、みんなの見る目ががらっと変わった。そのときにちょっと、「やった、俺たちはやったぞ!」という、感激があったんですよ。

あれが、もしかしたら自分の中で人生を踏み外すきっかけになったかもしれません。「ああ、褒められるのもいいもんだな」と調子に乗ってしまいました(笑)。それが「もっと褒められたい」という向上心につながるんですけど、いけない芸人根性ですね。大して面白い芸もないのに、「最初にやったものが受けちゃったからさあ大変」という心境でした。
 
 

トップをねらえ!
 
映画『未来の想い出 Last Christmas』('92)より。
樋口氏が担当した飛行機の場面。この作品は現在、DVDがバンダイビジュアルより発売されている。