『未来へすすむ』

さく、MACKY

最終回

「M子ちゃん。僕たちの班に入りなよ。」
どの女子の班にも入ることができず、途方にくれていたM子に、突然、進が話しかけてきた。
「えっ、でも、男子の班に女の子が入るなんて。」
「大丈夫だよ。
僕たちの班、5人しかいないし。M子ちゃんが入れば調度6人になるんだ。」
そう、男子は全部で17人しかいないので、6人ずつ班を作ったら、5人の班が一組出るのだ。
「ね?M子ちゃん。」
「う、うん。」
進の班には、暴れん坊の桐野忍もいた。
彼は、とても不機嫌そうだ。
(進君ってば、勝手に決めちゃったけど、本当に私がこの班に入っていいのかな?)
M子の心の中を読み取ったのか、進は桐野君に声をかけた。
「桐野君もいいでしょ?」
「別に、いいんじゃねぇの?」
桐野君は、興味なしといった表情で答える。
とはいえ、男子だけの班に女子が一人なんて、ほかの女の子たちの視線が痛かった。
M子が亜具利のほうを見ると、彼女はギロッとこちらをにらんでいた。

「ほう、明日は遠足か。」
居間でテルテルぼうずをる食ってるところに、M子のおじいちゃんがやってきた。
「うん。天気がいいといいな。」
班決めではイロイロあったが、遠足とあればM子だって楽しみの行事だ。
「おやつは買ったのか?」
「うん。スケッチブックも持ってくんだ。向こうに行ったらたくさん絵を描くの。」
「そーかそーか。M子は絵を描くのが好きだもんな。」
「うん。」
マジックで顔を描き、テルテル坊主が完成すると、東側の窓のカーテンレールのところにつるした。
「明日、晴れますように。」

遠足当日、天気は快晴だ。
学校から観光用バスで2時間半かけて“コドモ公苑”にやってきた。
班毎にお弁当を食べ終えると、自由時間でみんなそれぞれ気の会うグループに分かれて、
キックベースだの縄跳びだの鬼ごっこだのと遊び始めた。
M子も女子の中に入れてもらおうとしたが、亜具利に
「あら、M子さんは男子になったんじゃないの?」
とあしらわれてしまった 。
仕方がないのでM子は、眺めのいい小高になってる場所を見つけて、
持ってきたスケッチブックに絵を描くことにした。
「ワン。」
後ろで声したので振り向くと進がいた。
「チビ!?
あ、 堀内君。びっくりした。 」
進はチビをパーカーのフードに入れている。チビは進の肩越しにこちらを見ていた。
「チビ、どうやってつれてきたの?」
「リュックに入れてきたんだ。でもさ、そしたらおやつもお弁当もこいつが全部食べちゃった。」
「あはははは。」
進は、M子が手にしていたスケッチブックを覗き込んだ。
「M子ちゃん、絵、うまいね。」
「私よりもっとうまい人もいるよ。」
M子は、前の学校にいた絵のうまい同級生の事を思い出した。
自分も絵を描くのは好きだし、ほかの子よりはうまく描けてると思うのだが、その同級生は、
正確さの面で 自分より確実にうまい気がしていた。淡々と見たままを描きうつすのは
M子には苦手で、つい感情的に絵を描いてしまうから。
「でも、うまいよ。
M子ちゃんは、大人になったら絵の仕事をすると思うよ。 」
何の根拠があるのか分からないが、たった一枚絵を見ただけで、
そんなにはっきり断言されると、少々照れくさかった。
「うん。私ね、将来、絵を描くか、何か作る仕事をしたいんだ。」
「へぇ。いいね。その絵、あとで見せてね。」
そういうと、進は回れ右して行ってしまった。
チビは地面に飛びおりて進むの後をジグザグに追いかけていった。


そろそろ、集合の時間。そう思ってM子は、集合場所の広場に向かおうとしてると、
進が大きな木の近くにいるのが見えた。
「堀内君、いったい何してるの?」
M子は、進のほうに駆け寄って聞いた。
進は、木の根元を勝手に掘り起こしてる。
「あ、M子ちゃん。」
進は振り向くと手は真っ黒で、服や顔にも少し土がついてしまっている。
「堀内君、こんなところ勝手に掘っちゃっていいの?」
「ここら辺ね、貝塚だったんだよ。
貝塚って知ってるよね? 」
「社会科で習ったやつでしょ。
大昔の人のゴミ捨て場。
ここがそうなの? 」
「うん。だから貝殻がいっぱい転がってるでしょ。
これ、みんな昔の人の食べかすをこの木の根元に捨てたんだ。 」
「じゃぁ、この植木鉢の破片みたいなのって、もしかして...」
「土器だよ。」
「うそ。信じられない。」
「なかなか、模様のあるのは出てこないけどね。」
「ふーん。」
「そうだ。」
M子が感心していると進むは、ポケットの中から黒いV字型の石を取り出した。
それは、ピカピカ光っている。
「これあげるよ。さっき、ここで見つけたんだ。」
「何これ?」
「矢尻。
これを、矢の先につけて猟をしたんだ。
M子ちゃんに、これ、あげるね。 」
進は、矢尻をM子に渡した。

「あー、いっけないんだぁ。 」
生徒の一人がM子達を見て叫んだ。
「先生!
堀内君が、公園を勝手に掘っちゃってますよー。 」
担任の教師と、数人の生徒たちが駆け寄ってくる。
「堀内。こんなところ掘っちゃ駄目じゃないか。
ここは、みんなの公園なんだぞ。 」
「ごめんなさい。先生。」
進は、少しシュンとして先生に謝った。


そんなところへ通りがかった老人が進たちのいるほうにやってきて声をかけた。
「おやおや、何事ですかな。」
老人はスーツの上に白衣を着ていて、
生徒たちは、ここは公園なのに何故このおじいさんは白衣を着ているのだろうと不思議に思った。
「あ、あなたは“コドモ公苑”の園長さん。」
先生がそう聞くと
「いかにも、私はここの園長の財然です。どうなされましたか。」
「いや、申し訳ありません。
ウチの生徒が勝手に公園を掘り返してしまって。
ほら、堀内も謝れ。 」
「ごめんなさい。園長さん。」
先生と進は、頭を下げた。
「おや、そこは、貝塚の場所だね。
君が発見したのかい? ひとりで?」
財然園長は、木の根もとの掘り返した場所を見、次に進むを見て尋ねた。
「はい。そうです。本当にごめんなさい。 」
進は、本当に申し訳なさそうだった。
「いや、とんでもない。君のような小学生が貝塚を発見できるなんて素晴らしい!
とてつもない考古学のセンスの持ち主だ! 」
財然園長の興奮気味の言葉に、みんな唖然としている。
園長は、素晴らしい素晴らしいと進の肩を何度もたたいた。
「いや、この公園はね。皆さん。
もともと貝塚で、近くには大昔の人の集落があった場所なのだよ。
10年前には、考古学の博士や教授が集まって大規模な発掘調査をしたのだ。
その結果は、あそこの西側の白い建物が博物館になっておってな、そこに調査報告と展示がしてあるぞ。
調査が終わってな、せっかくだからここを公園にしようということになったのだ。 」
「しかし、君は本当に素晴らしい小学生だ。
君のその考古学センスに免じて、この穴を掘ったことは許してやろう。
その土器はもって行きなさい。
わっはっはっは。 」
そう大きな声で笑うと、財然園長は行ってしまった。
あとで、わかったことだが財然園長は、有名な考古学の博士だったそうだ。
いまでも、発掘調査をしながらあの公園の園長と博物館の館長をしているらしい。
そして、進がみつけた土器は、きれいに標本用の箱に入れられ教室の後ろに飾られることになった。

1学期も終わろうとして、M子もすっかり学校に打ち解けることができた。
いまでは、昼休みに居場所がなくて困るなんてこともない。
今日は、1学期最後の日。
通信簿も受け取り、もうあとは家に帰るだけ。
「おーい。みんな静かに。まだ、大事な話があるぞ。」
先生が大きな声で叫ぶ。
「急な話だが、堀内が転校することになった。今日でみんなともお別れだ。」
「えー。」
生徒たちがざわめく。
M子もびっくりだった。今日の今日まで進からそんな話やそぶりは一度もなかった。
「堀内。前へ来て皆にお別れの言葉を。」
「みんな、いままでありがとう。
急だけど、この町を引っ越すことになりました。
みんなのことは忘れません。」

帰りの会も終わり、生徒たちは下校し始めた。
M子は、下駄箱で靴を履き替えていた進を呼び止める。
「進君。転校って本当なの?」
「うん。急に決まってさ。ばたばたしてたから、なかなか皆に言えなくて。」
そういえば、進はここのところよく休んでいた。あれは、引越しの準備のためだったのだろうか?
「どこに引っ越すの?」
「えっ。えーっと、聞いても驚かないでね。」
「うん。」
「エジプトだよ。」
「エジプト?」
「うん。
実はね。僕のお父さんも考古学者で、エジプトの発掘調査を前から手伝ってたんだ。
それで、日本と向こうを行ったりきたり。
でも、本格的に発掘が始まるんでしばらく向こうにとどまるだろうから、僕も来いって。 」
「そうなんだ。」
「因みに、母さんはNASAの職員でアメリカに弟といるんだ。年の離れた兄もいるんだけど、
父さんと仲が悪くて、大学を中退して世界中を放浪しているんだ。 」
「じゃぁ、今まで本当に進君ひとりだったんだね。」
「ひとりじゃないよ。チビもいたから。」
「チビもつれてくの?」
「うん。チビが僕にね、ついて行ってやってもいいって。」
「そっか。」
せっかく進と仲良く慣れたのに。エジプトに行ってしまうなんて。
小学生ののM子には途方もない話だ。 M子はさびしい気持ちでいっぱいだった。
「大丈夫。M子ちゃんは将来立派な絵描きになるよ。」
「うん。私。絵を描くよ。
私が描いた絵が有名になったら、進君がどこにいても私の絵を見ることができるでしょ。
それぐらい凄い絵描きになるよ。 」
「うん。」
十字路までやってくると二人はそれぞれの道に向かった。
「さようなら。進君。」
「さようなら。またね。M子ちゃん。」
そういうと進は笑顔で駆けて行った。

<おしまい>