アストラルサイドの反転

 

 

 

 〜プロローグ〜                  
 
 

 清らかな露を含んだ朝の日差しの中。

 野宿の後片付けを手早く済ませたあたし達は、実のところ道に迷っていた。

 見渡す限り、森・森・森…!

 昨日野良デーモンを大量にプチ倒したあと、自称保護者の爽やかかつ、くらげな笑顔で

 「ここどこだ?」

 と、言われはたと気づく。

 遠くで聞こえる森の獣さんと虫さんのなか、あたしが一筋の汗を流していたとしてもだれも責められないだろう。

 浮遊で一応確認してみたのだが、あたり一面くら〜〜い木の陰しかみあたんない。

 ああ、お月さまがきれいね。 なんて現実逃避してみてもしょうもなかったので、

 とりあえず昨日はいつもどおり野宿をし、現在に至る。

 おのれ野良デーモンめ!

 大量発生なんかすなっ!!

 …まあ、人気のない森だったからね。

 憑依する動物はごまんといただろうから、たまっていたのかしら?
 
 「とりあえず、もう一回上から見てみるわね」

 ガウリイに異存があるあるわけもなく、あたしはさっさと浮遊で上空に浮き上がると、

 きょろきょろと辺りを見回した。

 昨日とは違い、明るい日差しが眩しいほどに森に降り注いでいる。

 あたしは軽くため息をついた。

 「……こりゃまた、森というより樹海だわ…」

 額に苦悩するようにあげていた手をおろすとき、ふと、目の端にひっかかるものがあった。

 こんもりとした木々の間に明らかに人工的な古い建物がひっそりとたたずんでいる。

 「ふうん…、遺跡かしら?」

 「リナ〜〜。なんか見えたかぁ?」

 「んーー、見えたには見えたんだけど…」

 浮遊を解いてふわりとガウリイの隣におりていく。

 「残念ながら村じゃなくて、遺跡みたい」

 「とりあえず行ってみるか?」

 相変わらずなのんきな口調でそういったあと、あたしの頭にぽふりと手を置いた。

 「だあああっ! あたしの頭はあんたの手の置き場じゃないっつーの!」

 「う〜ん、けど、いい位置なんだよな〜」

 「これ以上背のびなかったらあんたのせいだかんね!」

 「ははは、なに言ってんだ。身長どころかむ……すみません、もう言いません……」

 無言の圧力に耐えられなかったのか、ガウリイは素直に謝った。

 うん、人間素直が一番v 命拾いしたわね〜、がーうりい。

 そうして、あたし達は偶然見つけた遺跡へと足を運んだ。
 




 随分奥まで進んだ。

 どうやら数百年前に建てられた神殿のようだが、今のところめぼしい物は見当たらない。

 「造りはしっかりしてるのね」

 「ああ…。けど、古そうだよな〜。 リナ、ちょっと苔が生えてすべりやすいとこあるから気をつけろよ」

 「ん、わかったわ」

 「どわっ!」

 「……言った本人がこけそうになってどうする」

 「いや〜。ははははは」

 ちょっと困ったように鼻の頭をぽりぽりとガウリイは掻いた。



 ショート・ソードに灯った明かりがゆらゆらと揺れ、広い回廊を照らし出している。

 ふと、場所がひらけ、少しだが外の明かりが入り込んでいる場所に辿り着く。

 そして、上に続く階段を見つけ、ガウリイとあたしはちょっとため息をついた。

 「どうして、こう、神殿ってやつの階段はながいのかしら…」

 「ま、上るしかないだろう…」

 「もう少しで建物もおわるみたいだから、階段上って一旦休憩しましょ」

 「そだな」

 もしかしたら、上に図書室あるかもしんないし、貴重な魔道書が見つかればらっきーかもしんない。

 古そうだから、逆にお宝は期待できない分、書物のほうに期待をかける。

 そりゃ、お宝のほうもあったらうれしんだけどさ。

 もうあらかたもってかれた後があるんだもん

 …しくしくしく……。




 結構な高さの階段を上がった頃、突然、階段の一部が崩れた。

 そう、丁度上ろうと踏みしめたあたしの足元が…。

 「うひゃ」

 「――!?」

 少し先を歩いていたガウリイが驚いて振り返る。

 「リナっ!!」

 ガウリイの手が慌てたようにもがき、なんとかあたしも手をのばして、ガウリイの手をつかんだ。

 これで落ちずに済んだ。 そう思っていたのだが…

 つるんっ!!
 「――あっ!」

 「ほえっ…!?」

 あろうことか、苔と落ち葉とで滑りやすくなっていた足場。

 あたしとガウリイの身体が重力にまかせ、容赦なく落ちていく。

 ガウリイはあたしを庇うようにがっちりと抱え込むと、神殿の階段に身体が何度も打ちつけられていた。

 一方、あたしもぐらんぐらん回る景色と振動になすすべもなく…。
 「くっ…!」
 漸く落ちきった長い階段の終着点で、あたしとガウリイは意識を失った。















                 
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