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みんなのデジタル
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<電脳人> ネット農業の恐怖
加藤 寛一郎
拙宅には二百坪ほどの土地がある。戦時の食料困難な時代、父はそこにサツマイモを作った。その後、父が植えた二十本の木は見上げるほどになり、夏の雑草は腰の高さになった。境界を越える枝に、夏のヤブ蚊に、近所の苦情が絶えなかった。三年前、植木屋さんに頼んで木々を切り倒した。法外の費用がかかったが、いずれ園芸を始めようとの下心があった。
二年前、家内がここで野菜作りを始めた。雑草を刈り、トマト、キュウリ、ナスなどを植えた。苗は少量を近くのホームセンターなどから購入した。わたしは根っこを排除して協力した。これは格好の体力鍛錬であった。
家内は、赤いトマトやスイカが鳥に襲われることを知った。最初は防鳥ネットを自分で張った。昨年から、その仕事が私に移った。ネットの支持法や張り方には、不肖、私の専門である航空機構造力学の知識が生きた。私が特異な能力を有することを、家内は遅まきながら発見した。
今や家内の“農場”は、通常の野菜に加え、スイカ八本、枝豆二十本、サツマイモ三十本、ジャガイモ六十本を栽培している。しかも、その耕作面積は、日々“身分不相応”に増え続けている。
その原因は、今年から苗や種をインターネット量販店で購入したことにあるらしい。「値段は高いがすごくおいしい」というが、問題は「購入時の最小単位が決められている」ことだ。家内は今、トウモロコシを蒔(ま)いているが、その種の購入最小単位は二百粒。家内は「七十粒蒔いたけど、残りの百三十粒も蒔きたい」。
拙宅では自作の野菜に批判は許されない。この点について言論の自由はない。今、私が恐れるのは、この夏、毎日三食ともトウモロコシを食べ続けさせられることである。(かとう・かんいちろう=東大名誉教授)
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