──さて、このセカンド・シングルは世の中的には林檎ちゃんがバンドで初めて書いた曲になるんだよね。

「はい。私が書いた曲に関しては、雙六エクスタシーを回ってるときにイメージした曲がほとんどなんですけど、“遭難”は一番最初に書いた曲なんです。東京事 変っていうバンドはみんなのアンサンブルになった時に個性が発揮されると思うんですけど、“遭難”は私にとっての東京事変をイメージして書いた曲という か、“この5人じゃないと駄目”っていう曲です。」

──ということは“遭難”って曲は東京事変というバンドに触発されて書いた曲っていうことになるわけだ。

「そうです。しかも、一緒に音合わせをしたら思った通りになったんですよ。例えば、刄田がドラムを叩けば、ホントに忙しい感じ、焦る感じになるんだろ うなと思ったら、ホントにその通りになったし……そういうことを想定して書いたメロディだったり、詞だったりしたので、その通りになってホントに嬉し かったです。でも、その割にはイントロのテントンテントンっていうところは、(椎名林檎「映日紅の花」の作曲を担当したギタリスト)浮雲のアイディア で、彼と一緒にデモを録ってる時、冗談で弾いたフレーズだったんですけど、本番で晝海くんがその部分を生かしてくれて」

──はははは。みんな林檎ちゃんが好きそうなツボを心得てるんだね。

「しかも、無言でね(笑)」

──詞の題材になっているのは?

「こういうラブソングって、私の中では書いたことがなかった書き方だと思っているんですけど、どうでしょうねぇ。前作の“顔”なんかもそうですけど、男 女が見える感じの曲って書いたことがない気がして、私としては新しいところです、照れくさいですけど(笑)」

──新しいことにチャレンジしてみようっていう気分だったの?

「そういうことではないんだけど、東京事変がやってるってイメージではすんなりだったんです。この詞はあんまり推敲もせず、詞と曲が同時に出て来た感 じなので。だから、この詞は曲が呼んでたんだと思います」

──じゃあ、シングルだからっていう部分での意識も特になく?

「そうですね、この曲をシングルにしようとは思ってなかったというか、そもそも、レコーディングの時もシングルを切って頂けるかどうかってことも考えて なかったので。だから、レコーディングは自然にやって、後からピックアップして頂いたっていう」

──一番最初のインタビューで「自然で、ちょうどいい音楽を作りたい」ってことを話してたけど、まさにその言葉通りだね。

「そうですね。敢えて言うなら、意図しないっていうことを意識してましたよね。そういうことは前も意識はしてたんだけど、今は作為をしないっていうこと に一番重きを置いてますよね」

──2曲目の「dynamite」はカヴァー曲だけど、オリジナルは誰の曲なの?

「ブレンダ・リーっていう、ちょっとカントリー寄りな人で、ダイナマイト娘って呼ばれていたみたいなんだけど、うちに来日記念のアナログ盤があって、着 物を着せられたり、色んな著名人と撮った写真が載ってるんですよ(笑)。だから、私はよく分からないですけど、父とか母の世代には日本でもすごい人気が あったみたい。家でもよくかかってて、いつかカヴァーしたいなと思っていたんです。『唄ひ手冥利』の時も父から“何故この曲をやらないんだ?”って言わ れてて(笑)」

──でも、ここではシャッフル・リズムなんだけど、スライ&ザ・ファミリーストーンみたいな明るくてファンキーなアレンジになってるというか。

「これ言っていいのか分からないけど、あの刄田が“シャッフル・リズムが苦手で〜”っていつも言ってるので、そういうリズムの曲ばっかりを持ってきて (笑)。彼がこういうスウィングしてる曲を叩くと祭囃子っぽくなるんですよね。そういうところがバンド名に合ってるというか、私は好きなんですけど、本 人はイヤがりますね(笑)」

──この曲しかり、他の曲しかり、このシングルは林檎ちゃんのヴォーカルのファンキーでソウルフルな歌い方になってない?

「ああ、そうかもしれない。あと、ファーストよりセカンドの方が東京事変のど真ん中っていう感じがします。あ、でも、そうか、このシングルは私が書いた 曲が多いからだ」

──はははは。で、次の「心」も林檎ちゃん作だけど、こちらはシェリル・リン的なディスコ・リズムで。

「ああ。コード感もそんな感じですよね。自然に音楽を作ろうとすると、私、多分こういう感じになっちゃうんですよ。この曲は一日のうちに作るっていう制 約の中で作ったので、私の中のど真ん中な感じが出ちゃってる気がするんですけど」

──林檎ちゃんって色々音楽を聴くと思うけど、音楽の聴き始めがお兄さんの影響でマーヴィ・ゲイとか黒っぽい音楽だったりするじゃない? そういうも のって、素で音楽を作った時ににじみ出てくる気がする。

「そうですよね。シャニースとかモニカとか、若いのが売りのR&Bシンガーっていたじゃないですか。私も当時、彼女たちと同じくらいの歳だったと思うん ですけど、ああいうのがすごく好きだったから」

──ちなみにこの曲を書くうえで、さっき言ってた制約っていうのは?

「私の誕生日のお祝いに来てくださる人だけのために一日で録って、持っていくっていう制約です。だから、ここにフックを置こうっていう作為もあんまりな いし、その日、誕生日のお祝いに来てくださった方になんてお礼を言おうっていう気持ちだけだったから、題材が限定されてるんです」

──あ、そうか。だから、曲のクレジットが「椎名林檎 2003年11月25日 作詞作曲」ってなってるんだ。

「そうなんですよ。でも、何でみんなお祝いしてくれるのか…など、考えなくていいことまで掘り下げてますから(笑)、すごく変わった詞ですよね。」

──なるほどね〜

「自分の出来るお礼といったら、私の商売は歌だから、歌でお礼をしようと思って。(スタイリストの)伊賀(大介)くんなんかは粋だから、そういう時っ て、自分で服とか帽子を作ってきたりするんだけど、私もそういう風に答えたいと兼ねてから思ってたんです。で、今年はそうしようと思って、その日に作っ たんですけど、心を込めて〜と思ったら、心ってなんぞやってことになってきちゃって(笑)。私、昔から「心」っていう言葉は使わないんだけど、その言葉 を使うところから始めようと思ったんです。でも、いま喋ったこと、そのまま歌っちゃってますね(笑)」

──で、最終的には感謝の気持ちが「生まれてごめんなさい」ってところまで行っちゃってるというか(笑)。

「はははは! 頑張ってやってみたんですけど、いま考えると可笑しいですね」

──でも、作為を排除して、ソングライティングのテクニック云々を抜きに書いたものを後から聴くと、どんなことを思ったりする?

「恥ずかしい感じはしますね。昔書いた“すべりだい”に近いというか、野放しにするとこうなっちゃうんでしょうね」

──でも、前回も思ったんだけど、今回にしてもソロの時のインタビューと比べると、いい意味で軽くなったというか、明らかに変わってきてるよね。

「違いますよね。もっと難しいこと、複雑なことを話してた気がします。私は“あなたのことが好きだよ”っていう曲が一番歌いたいんだけど、ただそういう 歌だけを歌ってるとみんな馬鹿にするじゃないですか。だから、一人で立って、一人でものを考えて、毎日真面目に生きてるよっていう歌がないと認めてくれ ないっていう思いから、世紀末の頃は頑張って、そういう曲を書いてたつもりなんですけど、それは私の中では重圧だったりして。でも、そういうプロセスは 踏まえたわけだから、これからは“あなたのことが好きだよ”っていう歌ばっかりを歌いたいな、と。今はそういう心境です」