【ピオリア(米アリゾナ州)6日 甘利陽一、幡篤志】ついにメジャー流の“イチローシフト”が登場した。この日マリナーズと対戦したダイヤモンドバックスの守備陣が、打球を予測して左方向を完全封鎖したもので、この包囲網にあったイチローは4打数無安打。オープン戦5試合目で早くも大きな壁に突き当たった。今後はア・リーグ各球団が次々にダ軍の変則システムを導入する可能性もあり、イチローは大きな課題と向き合うことになった。
交流試合で対戦するダイヤモンドバックスがイチロー封じのスペシャルシフトを敷いた。六回2死一塁での第4打席。中堅コンティが定位置より左方向に10メートルほど動くと、右翼セルはほとんど右中間、そして左翼バウティスタはライン際に移動していった。ダイエー王監督が現役時代に経験した右寄りの位置とは対極にある左寄りの守備陣形。あまり極端に動かないメジャーの守備としては異例のシフトとなった。しかもグズマンの6球目を叩いた打球は遊直。頭上を抜けたとしても左中間寄りにいたコンティが長打を短打として処理していたはずで、データに間違いはなかった。
大リーグ関係者の間でも「スラップタイプ(広角打法)ヒッター」として知られているイチローだが、この2試合でひとつの傾向が出ている。前日のカブス戦では怪腕ウッドの最速97マイル(約156キロ)の速球に振り遅れ気味で、適時二塁打は広く開いた三塁線を際どく抜いたもの。この日の先発シリングに対した第1打席でも高めの速球をとらえたが、左翼手の正面へのライナー。第2打席でイチローが登場すると、シリングは「流し打とうとしているのが分かった」とグラブで遊撃手のウォーマックを三遊間寄りに守るように指示した。ネット裏で目を光らせたア・リーグ球団のあるスカウトは「メジャーの速球のアベレージは日本よりも3マイル(約5キロ)ぐらい速い。あれが彼のスタイルなのだろうが、95マイル(約153キロ)以上の速球を投げれば右方向には飛ばないだろう」と分析した。
オリックス最後のシーズンとなった昨年の方向別安打を見ると、左方向が42本に対し右方向45本とほぼ同数。しかしパワーとスピードで勝るメジャーにおいて「力のある速球なら右に飛ばない」というのがイチローに与えられた診断書なのだ。ピオリアにはスカウトが多数訪れ、日本からやって来た大物ルーキーを徹底マーク。ア・リーグの球団が同様のシフトを敷いてくるのは間違いないだろう。
しかしこれまで多くの試練を経験しながら次々に順応してきたのが天才打者イチローの真骨頂。この日はノーコメントで球場を後にしたが、課題は本人が一番よく知っている。特別シフトを崩壊させるキーポイントは速球を強引に引っ張ること。開幕を前にしてイチローのハイレベルな戦いが始まっている。
≪マグワイア、グリフィーJrに並んだ!?≫大リーグでは強打者ならば特別な守備陣形を取る場面がある。99年4月18日にはアストロズの内野陣がカージナルスのマグワイアに対して“マグワイア・シフト”を実行。左方向への打球が多い同選手が打席に入るたびに二塁手のビジオを左中間に配した。ただしこの試合でマグワイアは左中間に本塁打を放って専用シフトを崩壊?させている。また、レッズの主砲で右方向へ引っ張ることの多いグリフィーJrに対して、各球団の野手は右寄りへシフトすることが多い。
▼ダイエー・豊倉チーフスコアラー 左方向にシフトしたんですか。日本とは逆ですね。ウチとか西武はショートが二塁ベース寄りに守ってセンター前に抜ける打球を防ぐシフトを敷いてました。三遊間は捕っても内野安打になる確率が高いですから。外野はだいたい普通の位置でしたね。イチローは真っすぐをほとんど左方向に打っているらしいですね。ボールの重さもあるんでしょうけど、打順を意識してるんじゃないですか。基本的にはセンターから右方向に打つタイプ。日本でも一番のときは出塁に主眼を置いてセンター返し中心、長打が求められる三、四番では引っ張る打球が多かったですからね。今は引っ張れないんじゃなくて出塁を考えているんだと思いますよ。
≪ピネラ監督 勘違い≫マリナーズは7日、開幕戦の相手となるアスレチックスと戦うが、イチローの出場は当日まで不明。本来なら2勤1休の方針により欠場となるが、ピネラ監督は「イチローはあす(7日)も出場する。日本のテレビ中継があるから」と説明した。ところが、オープン戦を中継しているNHKの放送予定はなく、この事実を報道陣から知らされた同監督はア然。「あした彼にどうするか聞いてみる」と慌てて訂正した。
≪顔写真が初芝!≫スポーツ専門局ESPNがこの日、ニュース番組「スポーツセンター」の中でイチローを特集した。ところが、画面に登場した顔写真は本人ではなく、なぜかロッテの初芝と思われる全くの別人。オリックス時代の映像やイチローのインタビューも流れ「日本ではマイケル・ジョーダンかプレスリーのような存在」と紹介されたが、まだまだ顔の方は認知されていないようだ。