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安全

グウェンドリン・ケストレル
Translated by Yoshiya Shindo

 三晩前、北ノ巣(きたのす)鼠人(ねずみびと)の村は、遠くに独特な、不安をかきたてるような音を聞いた。それは何千もの嗚咽と、すすり泣きと、叫び声にも似ていて、まるで精神や肉体の苦痛から生まれてきているようだった。彼らは恐怖に駆られ、村の長たちに報告に行った。長たちは互いに論じ合ったが、結論は出なかった。

 二晩前、護衛は同じ音を聞いた。その音がより大きく、より近くなってきたと言う者がいる一方、よりかすかに、より遠くなっていると言う者もいた。

 悩みと不安に、長たちは自分たちではどうにもならないという結論に達した。彼らは非常に敬われている巫女である“()(した)”の下に使者を出した。彼女は人里から数里も離れた場所に住んでいるが、その知性から多くの富と権力を得ていた。そこへの往復は“()(あし)”あたりの名うての頑丈で信頼おける走り手ですら丸一日かかるが、とにかくその任を受けた使者が差し向けられた。

 夜が近づいていた。黄昏の中、二人の護衛は心配そうに持ち場の周りを歩き回っていた。

 「月が赤いなあ。」 “白髭(しらひげ)”は、自分のあだ名の由来となった黒い髭の中に一本だけ亜麻色に光る髭を引っ張りながら、心配そうに言った。

 「月なんか見ないの。“跳び足”を待ちなよ。」と“(くさ)(いき)”が諌めた。彼女はいらいらしながら歩き回り、まるで彼女の意志の力が走り手の速度を増せるかとでも言うように、闇を覗き込んでいた。

 「聞こえたかい?」

 「早すぎるだろう。ここ二晩は、真夜中過ぎないとあの音は聞こえなかったぞ。」

 「でも、何か聞こえたんだよ。」

 低いうめき声は、村を取り巻く沼の外側からではなく、護衛と村落の中間から聞こえていた。

 “白髭”と“腐れ息”は振り返り、刀を構えた。鼠人が闇に武器を構えた時、刀の切っ先は動揺に振るえていた。

 その時、うめき声が笑い声に代わり、不似合いな鎧に包まれた人間の戦士が灯りの下に進み出てきた。

 「苑蔵(そのくら)!」 鼠人は声をそろえて叫んだ。

 「殺すとこだったじゃないか!」 “腐れ息”は新たな思いに武器を振り上げながら言った。

 「見張りの手伝いに来たのさ。」 苑蔵はぼそぼそと答えた。

 苑蔵はかつてこの村に滞在していたことのある落武者の傭兵だった。彼がおよそ一年前に鼠人の村を訪れたとき、彼は名も無い戦いか乱闘の直後で、痣だらけで打ちのめされた姿だった。彼は当初、「古寺で一晩か二晩を過ごす」だけのつもりだった。しかし幾晩かを過ごすうち、苑蔵はそこに居ついてしまったのだ。彼にまだ所持金があったときは、彼は村の旅籠で酒を食らい、夜になると荒れ寺で眠っていた。やがて所持金が底をついたとき、彼は沼から直せば使える鎧やら武器やらを漁りだし、それをまとめて新たな酒瓶を買えるだけの金を作り出していた。

 「金が無くなったんか?」 “白髭”が言った。元々気立てのいい苑蔵は、金が必要な時にしか働かなかった。

 「ああ、それにあまり遠くには行きたくないしな。」と彼は言った。村の近くでの物漁りは、すでに大方さらい尽くされてしまっているため、あまり価値のある物の収穫はないのだ。「お前の親分は今晩の見張りを銭二枚でやらないかって言ってくれたぞ。」

 「で、払いをもらって、どこかで飲んだくれて、ここに来たってわけね。」 と“腐れ息”はからかった。「麦酒の臭いがするよ。」

 「それを言うならお前の臭いは――」と苑蔵は言いかけて、失敗したことに気がついた。“腐れ息”の臭いの話をして、彼女から殴られないですむ者はいないのだ。苑蔵はなんとか窮地を脱する方法を探した。「おい、あれは“跳び足”の戻ってきた音じゃないか?」

 パタッ、カチッ。パタッ、カチッ。パタッ、カチッ。

 最初は話を逸らすのが目的だったものの、そこには実際に、爪のある音が夜の中を村に向いている音が聞こえてきていた。

 それは明らかに疲れ切った“跳び足”が、村に向かって駆けてくる姿だった。

 「長は、」彼はあえいだ。「長に、会わなくては。」

* * *

 “跳び足”の緊急の知らせは、長たちを不安に陥れた。彼らは一族を呼び出し、知らせを伝えるべく会議を開いた。

 「ということで、“裂け舌”殿の言うには、この音の主は死者の嘆きの神、崩老卑(ほろび)じゃそうな。彼女によると、この神から村を守るには、嘆きの声を聞く三晩ごとに、収めのための生け贄を捧げなくてはならんとのこと。」と、最も年老いて尊敬を受けている鼠人“灰眉(はいまゆ)”が話をまとめた。「将来においては、外に向けて狩りを行い、しかるべき生け贄を捕まえてくればよかろう。しかし、今宵は三晩目じゃ。わしらには生け贄が必要じゃ。身を捧げるものはおるか?」

 それまでずっと続いていた話し声や脇での議論が突然止んだ。長の質問には静寂だけが答だった。

 かすかに遠くの方で、集まった鼠人が見張りに回っている者達のことを話しに持ち出したのが聞こえた。

 「苑蔵だ。」 一人の鼠人がつぶやいた。

 「苑蔵だ。」 別な方向からもっとはっきりした声が響いた。

 「人間だ。」 さらに別な声が飛んだ。

 集まった群集は、とにかくよそ者を犠牲に選ぼうと必死になっていた。

 そして一団が会議の間を飛び出し、護衛の下に駆け出していった。いきなり大群に押し寄せられ、落武者はあっという間に組み伏せられた。“腐れ息”と“白髭”は同情的な眼差しを交わし、彼らの手は刀の柄にかかりはしたものの、どちらも苑蔵を守るために前へ出ようとはしなかった。

 “灰眉”は、村落の外側へ群衆を導き、苑蔵はそこで縛り上げられた。

 「何をしようというんだ?」 傭兵は声に恐怖をにじませながら尋ねた。

 「しなければならんことじゃ。」 “灰眉”が答えた。「崩老卑への生け贄じゃ。」

 苑蔵は声もなかった。彼は集まった鼠人を眺めたが、彼らの顔には不安しか見つけられなかった。彼に仲間はなく、逃げ出す機会すらなかった。

 「我々は彼をしかるべき捧げ物にすべく、泣き叫ばせなければいけないそうです。」“跳び足”は“裂け舌”の説明を思い出しながらみんなに説明した。

 「すべきことをするのじゃ。」 “灰眉”が答えた。

 “跳び足”は走り手としての知識に基づき、この傭兵が逃げ出せないように苑蔵の足の腱を切った。苑蔵は傷の強烈な痛みに叫び声をあげた。

 「村に戻れ。」 “灰眉”は命じた。「日が昇るまで中から出てはいかん。」

 村人は列を成して家に戻った。

 “灰眉”は“腐れ息”や“白髭”とともに見張りに残った。誰も口を開かなかった。誰もが沼をただ見つめていた。縛り上げられた苑蔵の姿を小さな灯籠が照らしていた。落武者は助けを求めて、痛みに泣き叫んだ。“腐れ息”は、その大きく響く痛みに満ちた叫び声に、思わず目を閉じた。

 間もなく、苑蔵の叫び声に嘆きとうめきの声が重なり始めた。神が近づいてきたのだ。身の丈は人間の倍ほどで、顔は角の生えた髑髏のようだった。黒い外布は白い毛皮で飾られ、地面から浮いたまま傭兵に向かっていた。外布の端がゆれるとともに、その中に顔が現れては消えていった。神はその場にしばし立ちつくしたかと思うと、苑蔵の叫び声の旋律を聴くかのように頭を一方に傾けた。苑蔵は神に命乞いをし、必死に神から逃げようとはいずり始めた。しかしそこに神が近づいたかと思うと、苑蔵の皮膚はまるで見えざる手に引き裂かれるかのように、ねじられ裂かれていった。彼は苦痛に白目をむき、痙攣を始めた。嘆きの声はさらに大きくなり、数え切れないほどの蟲が地面から湧き出て苑蔵の傷口にたかり出した。神の姿が苑蔵の上をゆっくり通り過ぎ、やがて蛆と蟲と骨だけが後に残された。苑蔵の声は神の叫びと嘆きの声に紛れ、ゆっくりと消えていった。

* * *

 “裂け舌”は宝物庫に座り、金の詰まった箱の中に手を泳がせていた。彼女はふと、宝石と黄金細工に飾られた銀の水差しを取り上げ、それを陽にかざすと思った。「安全とはかくも素晴らしきもの。我はお前の安全を守る。邪悪なる神が我からお前を連れて行くことはなかろう。」 彼女は黄色く光る黄金に治められた蛋白石の首飾りを身にまとった。「“裂け舌”の手管があれば、お前たちは安全なり。北ノ巣が崩老卑に餌を与え続けるかぎり、それはその場に残り、我らからは遠いまま、いとしき物どもよ。かくも遠くに。」



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