SC-8850 デジタル出力改造


 以下は実際に動作確認をしてそれに基づき記述しておりますが、内容についての一切の保証は致しかねます。改造を行う場合はご自分の責任においてお願いします。また、改造後はメーカー保証は受けられません。
 特に32KHzの出力に不満があるわけじゃない。でも、SC-8850で録音するとアナログだから当然ノイズが乗る。USB接続だと何故かさらにノイズが増えるし、1トラずつ録音したらノイズがどんどん加算されるし、ノイズゲートもいまいち結果が信用できないし。

 ならば、そうだ、デジタル出力すればいいじゃん。

 んが、8850が発売されて幾星霜。ネットで検索しても8850のデジタル出力改造は見当たりません。why?
 仕方ないので自分で頑張りました。自分の基板に半田ごてあてるなんて中学校の授業でラジオを作ったきりですよ! まあそんなわけで変なところは勘弁してください。

 比較的簡単な材料で光・同軸とも出力できます。

概略

 8850のDACは32KHz/24bitです。88pro以前(32KHz/18bit)とは入力信号自体が違います。
 なわけで、有名な88pro改造はそのままでは利用できません。とはいってもbit数といくらかの信号が違うだけで差が大きいわけではないので、ちょっといじることで流用させていただきました。
 で、8850の信号自体は24bitですが、ここではチップの仕様上16bit出力になります。チップを変えれば簡単に24bitまで拡張できるかもしれませんが、あまり冒険するとデバッグができなくなるので、その結果ここでは16bitのままです。自信のある方はチップをかえてbit数を大きくするのもいいでしょう。

 なお、オリジナル版には1bitシフトさせることで+6dB出力になるスイッチがありますが、DTMで使う場合無駄にクリップするだけだと判断し、これは省略しました。代わりにOUT1/OUT2の出力セレクトスイッチを入れてあります。

無断リンク

efu's page(オリジナル版88Pro改造)
UYOの部屋(88改造)
Fujikko's WEB Page(88VL改造)

とりあえず先に全部読んでみることをオススメします。下にいくほど時期が後になり、解説もわかりやすいです。

録音サンプル

 フレーズプレビューを録音したままのものです。音量小さいです。
Piano 1
Unison Slap
Violin
STANDARD L/R

上記のmp3(ノーマライズ済)

信号線の位置

 ここらへんから信号を奪う、の図。
 うちの8850はバグ持ちの初期型なのでこれ以降のものが同じ構造かは保証の限りではありません。
 ちなみにこの部分、88や88Pro、88STProの改造に比べても難度がかなり高いです。
 手先の器用さに自信の無い人は諦めましょう。

基板裏

 こう作れ、という見本じゃないです。
 ていうかデバッグしたのでただでさえへぼいのがボロボロに。
 いちばん右上にあるのが同軸出力予定地です。…動くのかな?この写真の時点では動きませんでした。

基板表

 メインのTC9231(シュリンクDIP)は斜めにするとDIPのユニバーサル基板に挿さります。
 足のむりやりな曲げ方が素敵(どう曲げるかは裏参照)。
 こんな使い方なのでソケット使用をオススメします。テスターもあてやすいし。

筐体裏

 裏のあまりの厚さに負けました。リーマーまで用意したんだけどなぁ…。


必要な部品

■東芝 TC9231 x1
 8850から奪った信号をデジタル出力信号へ変換してくれるICです。今回の肝。
■74HC04 x1
 CMOS IC。
■74HC257 x1
 同上。OUT1とOUT2を選択するために使います。ちょっと無駄遣いかも。
■74HC377 x1
 同上。オリジナル版の74HC74の代わりです。←が2つのフリップフロップなのに対し、これは8つ入ってます。これでデータを8bitずらすわけです。
■東芝 TOTX178 x1
 光送信モジュールです。注意すべき点として、実装の際に0.1μFのコンデンサが1つ必要になります。また、似たような型番で173とか175とかいうのがありますが、178以外だとさらに8.2KΩだかの抵抗が必要になります(数値はよくわからん)。モジュールだけ買って慌てないようにしましょう。
■1回路2接点スイッチ x1
 ようするに3本足がある奴です。OUT1/OUT2選択に使います。
■電解コンデンサ10〜33μF x1
 電源安定用…だそうです。よくわからん。よくわからんので真ん中あたりの16V 22μFを選んでみました。円筒形で足が2本のやつですな。
■積層セラミックコンデンサ0.1μF x2
 光送信モジュールの分とあわせて2つになります。
■電子ワイヤ
 コーティングしてある配線材です。見たまま。
■すずメッキ線 2mくらい
 針金です。接触すると通電します。基盤の裏で活躍。無いと多分作れないです。
■ユニバーサル基板
 オリジナル版やその亜種では音源の基板に直接はりつけるという豪快な技を披露されてますが、残念ながら8850にはそういうスペースはございません。ということで基板が必要です。
■ICソケット 14pin x1 / 16pin x1 / 20pin x1 / SDIP 28pin x1
 必要ないひとには必要ないかもしれないけど、素人工作だと半田ごての熱でICを壊しかねないので安全のためにもソケットを使います。
■半田
 適当に。8850の基板にもアクセスするので精密極細とか書いてあるのでもいいかも。
以下は同軸出力用追加分です。
■74HCU04 x1
 CMOS IC。デジタルだけど特性がアナログを示すとかなんとか。アンプみたいなもんだそうです。
■積層セラミックコンデンサ0.1μF x1
 上と同じものです。ようするに1つ追加、と。
■抵抗 100Ω x1 / 330Ω x1
 こんなもんかな。
 いちおう、はしご覚悟なら全部通販で手に入ります。でも高いです。送料とか。いくらくらいになるかはご自分で計算してください。10単位とか100単位とかのものもあるので1個単位で計算してもあんまり意味ないし。まあこれだけなら5千円(税・送料・手数料別)あればお釣りくるくらいかも。

とりあえず必要な工具

 電子工作スキーなひとにはどうでもいい話ですが、「半田ごてしか無いよ」ってひとは道具を揃えましょう。最低限必要なので全部用意してください。
■半田ごて
■灰皿とか空き缶とか
 半田ごてを置く場所になります。できるだけ安定しそうな奴を選んでください。危険があむないので。中にスチールウールをおいてそれで拭くと半田の汚れが取れていいそうですが、それはお好みで。
■テスター
 安いのでいいです、抵抗値が計れればOK。信号線の取り出し位置の確定に必要ですし、基板のチェックにも必要です。これを怠ると最悪8850ごと死にます。ちょー重要。
■ハンダ吸い取り線
 作業量があるので失敗する個所も出てきます。失敗したハンダは当然取り除かなければなりません。ちなみにわたしは用意してなくていちばん大事な電源のピンの基板パターンを剥がしてしまいましたとさ。
■ドライバー
■ニッパー
■ラジオペンチ
■ピンセット
■虫眼鏡
 半田が隣と接触してないかどうか確認するとき用に。ど近眼のひとはメガネをずらして顔を近づけるだけでいいです。
■ふつうのカッター
 ワイヤを剥きます。カッターだと中の線を切ってしまうけど気をつければなんとか。だって、線剥くやつって高いでしょ?
■セロテープ
 ワイヤをハンダ付けするときの仮固定に使います。ハンダと半田ごてを持つと両手がふさがるので。
■(あったらいいかも)エアダスター
 基板を取り付けて火を入れる前にぶしゅーっとひとつ。ハンダくずが基板に落ちてるかもしれないし。気休め程度かもしんないけど。

とりあえず必要なドキュメント

 ただ図を見て作るより、自分で理解してたほうが正確です(上手く動かないときにデバックするにも)。ウェブで手に入るものだけでいいので集めましょう。
■74HCシリーズ
 なんていうか基本らしいですが、素人にはよくわからんものです。http://www.semicon.toshiba.co.jp に日本語で公開されているのでもらってきましょう。実際に買うICは別に東芝じゃなくてもいいです。
■AKM AK4324 (DAC)
 8850のDACです。とりあえずピンの確認に必要です。海外モードでぐぐれば出てきます。
■東芝 TC9231
 …といいたいところですが、このドキュメントは一般には存在しないようです。で、別に互換チップというわけじゃないですが後継?のTC9271ならば上記東芝サイトに存在します(CDP用ICのところに居ます)。参考くらいにはなるので取ってきましょう。
 DACがどういう設定なのかってのはテスターをあててピンに来てるのがHighかLowか調べてデータシートを参照して調べるわけです。あ、もちろん電源を入れて電圧を計るのではなく、電源を入れないまま、電源ピンとショートしてるか、GNDピンとショートしてるか抵抗値で見て、です。

改造の理屈

↓は、88Pro以前のフォーマット。


↓は、8850のフォーマット。


↓は、TC9231に入れるべきフォーマット(LRが反転かも)。



 ようするに、入力するビット数だけが違います。このビット数をTC9231の16bitに合わせます。

 SDATAのDon't Careな部分には何が入っててもいいので、ここに要らない部分をずらして(88Proなら2bit、8850なら8bit)やればいいわけです。(※逆にLSBファーストなら何もしなくてもいいんだけど)

 ここで使われるのがD型フリップフロップ(D-FF)で、HC74やHC377の中に入ってます。クロック信号(ここではBICKの反転)の立ち上がりで、その瞬間の入力を出力しつづけます。
 え? それじゃあ直列につなぐと全部同じように変わっちゃうんじゃないの? って気もしますが、ちゃんと1つづつずれていきます。何でかな?

 なわけで、オリジナル版では2つ、ここでは8つのフリップフロップを通してデータを16bitにしています。

 ちなみに、フリップフロップを1つ減らせば1bitずれます。これがオリジナル版の+6dBスイッチの原理です。もちろん、前に追い出された本来の最上位ビットは無視され、場合によってはクリップします。

回路図



 Illustratorでしこしこ作りました。しょぼくてすみません。

 電源関係は書いても実際の作業には役に立たないので思いっきり省略してます。読めればいいよね?
 88版は裏面から見た図になってますが、これはふつうに上から見ています。だから実際に基板の裏に配線するときはこれを裏返した図が必要です。それは適当に作ってください。紙に書いて、裏からすかして写すといいでしょう。たぶん。
 何もつながってないピンは何もつながないという意味です。HC257には使わないロジックがありますが、こういうのは入力側はLowかHighを入れておき、出力側は開放しておくのだそうです。まあ全部つながなくても動くは動くそうですが。

 ざっと流れを説明します。

 まずHC257でOUT1とOUT2を選択します。スイッチでHigh/Lowを入れてこれで選択させます。選択した信号はHC04へ。

 HC04へ行ったOUT信号は、NOTを2回通ってHC377へ。…意味があるのかって? わかんないけどオリジナルを踏襲してみました。

 OUT信号はHC377を8つ全部通ってTC9231へ。これで8bit遅延するわけですね。

 上の、遅延に使うクロックはMCLKではなくBICKの立下りです。これはHC04を一回通ってHC377へ来ます。BICKはTC9231にも必要なので、HC04を二回通ってTC9231へ行きます。

 LRCKは一回HC04を通ってTC9231へ。反転するのはたぶんTC9231の仕様でしょう。わかんないけど、出力もそうだし。

 MCLKは直接TC9231へ。もしかしたらHC04を2回通すべきなのはOUTじゃなくてMCLKかな、とも思ったりしますが、とりあえず動くのでよしとします。

 これで、OUT、BICK、LRCK、MCLKとすべてTC9231へ渡りました。

 で、DIGOUTはHC04を一回通ります。そこからTOTX178へ。ちなみにTOTX178用のコンデンサは、モジュールから7mm以内に付けろ、だそうです。基板にモジュールをつけるのでなければ、モジュールのピンに直接付けるのが正解みたいです。

 回路の考え方としてはとてもシンプルです。信号をTC9231に合わせる&OUTを8bit分ずらす、の2点で成り立ってます。

 同軸出力の部分は、ネットで探していていちばん簡単そうなのを拝借しました。意味はわかんないけど立派に動くのでよしとします。ピンコネクタの外側はGNDにつなぎます。

作り方

 基本的に回路図に沿って作っていくだけです。

 いちおう無駄に長い配線にはしないように、という指示があります。よくわかんないけどあんまり長いとノイズが乗りそうなので素直に従いましょう。あんまりアクロバティックな配線にせず、表にメッキ線を飛ばしたりジャンパを飛ばしたりしろってことですかね?

 とりあえずわたしは先に+5VとGND、隣接ピンを配線して、信号線はジャンパで飛ばすようにして作りました。

 で、頑張って作れたら、テスターで導電チェック。紙に回路図を書いて、チェックした部分は赤鉛筆で丸でもつけて行きましょう。+5VとGNDがショートしてないかが重要です。完全な絶縁ではなく、いくらかの抵抗値を示すはずです。

 チェックしたらソケットにICをはめ込みますが、かなり力がいるので、ソケットが基板から浮いてたりするとはめ込んだ拍子に配線が浮いてしまうかもしれません。まあDIPソケットは大丈夫でしょうが、SDIPは結構無茶してるので、しっかり押さえ込んで半田付けしましょう。

 もし光か同軸のどちらかが不要なら、信号の分岐点から先をぜんぶ取っ払ってください。

8850とつなぐ

 作業難度がいちばん高いここ。ハンダと半田ごてをうかつにあてようものならフラット実装のピンの間にハンダが吸い込まれてあっというまにおだぶつになりそう(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
 できるだけ無理をしないで、ワイヤを付けやすそうな場所を選びましょう。
 つけられる場所は、おっきなチップから出てきた直後と、DACに入る直前、その裏面の全部で4箇所です(テスターでDACのピンから探ればわかります)。裏のほうが障害物が無い分楽ですが、信号の取りまわしを長くするとやばいそうなのでそれはそれで問題があります。わたしは表につけましたが、まあそこはおまかせで。

 まず基板の穴のほうにハンダを盛ります。半田ごてにちょっとハンダを塗ってぺたぺたとやると…うまくいくかなぁ。あんまり自信は無いけど、とにかく穴にハンダを盛らないとくっつきません。
 で、ワイヤのほうにもハンダをつけておいて、穴と位置合わせをしたらそのまま半田ごてでえいやっと…うまくいくかなぁ。とりあえず頑張ってください。わたしも集中力が切れると全然できませんでした。

 一度くっつくと、ちょっと力がかかったくらいでは外れなくなります。

 +5VとGNDも信号線と同じようにDACからたどって付けやすそうなところに付けてください。先にこっちを付けて練習代わりにするといいかも。

スイッチオン

 電源を入れる前に、ケーブルで入力側とつないでおきましょう。USBはとりあえず必要ないです、フレーズプレビューで確認できるので。で、もう一度ショートしていないか確認して、電源を入れます。ショートさえしてなければどこか間違っててもいちおう8850はふつうに動くでしょう。たぶん。

 さて。PCなら32000Hzに合わせて録音してみましょう。WaveSpectraならすぐに波形が見られます。

 …どーですか? うまくいきましたか?

 うまくいかなかったら…とりあえず回路図のチェックからやり直しましょう。トライ&エラーが制限される分、想像力と推測力を使わないとデバッグもむつかしいです。

固定とケース加工? どうしましょう?

 これ、箱の中にこれといって収まりそうな場所がありません。
 いちおう8850の基板を固定してるネジ穴にスペーサーをつけてその上に載せるのが王道かなぁ、って気もしますが、ピッチが違うのでPC用の部品は使えません。さて…。

選択肢A:蓋の裏にガムテープで貼り付けて固定する。
選択肢B:内箱側面には蓋との間にすこし隙間ができるのでここに金具でひっかけて空中固定する。
選択肢C:真ん中に邪魔げに走ってるフラットケーブルが案外硬いのでこの上に載せてみる。
選択肢D:なんとかなりそうな部品を買ってくる。

 めんどうがないってんで、わたしはCを選びました。ケーブルの上に置いてセロテープで固定。といっても蓋を閉めたとき蓋と接触して飛ばすとあれなので、基板には足をつけてます(写真参照)。PC用のスペーサーをむりやりはめ込んで接着剤で固定しました。

 あとは出力ですが、頑張って後ろに穴をあける以外ないでしょう。わたしは蓋を数ミリずらしてそこのすきまからコネクタとスイッチをちょろっと出してます。とりあえずの処置ですが。へたれですみません。

▼その後

 前述の写真のようになりました。ワイヤの長さが足りなかったので内部は選択肢Aに変更してます。

 ていうか筐体裏に穴をあけようとして全分解して組み立てた後、机の上にメッキ線が一本と半田くずが落ちているのですが…。メッキ線は半田がとんがってたのでおそらく作業中除去したうちの一本だと推測するとしても、半田くずは一体…!?

 完全に蓋をしめた後に気付いたので、怖くて蓋を開けられませんでした。いちおう動いてるけど…。

最後に

 はっきりいいます。めんどいです。半端なくめんどい。工具まで含めたらお金もかかるし(わたしの場合工具や予備部品、通販手数料で一万を越えました)、組み立て時間も10時間くらいはかかります。
 つーか、RolandはSC-D70っつー8820エンジンを積んだデジタルアウト付音源を発売しています。実売がどれくらいかはよくわかんないけど、無意味に高い代物じゃないです。
 なんていうか、「改造」ってシャレを楽しむくらいじゃないと割に合わない改造です。成功したらいいようなものの、失敗したらかなり凹みます。たぶん。

 まあそんな感じで、難度も含め、あまりオススメできない改造だなぁ…と。
 それでもやってみるチャレンジャーなあなた、是非頑張って成功させてください。

おまけのページ
おわり
2002/10/08――途中版
2002/10/09――第一版 / mp3差し替え
2002/10/10――改造の理屈を追加
2002/10/11――同軸出力の追加
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