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手塚治虫文化賞

第9回新生賞

こうの史代氏 『夕凪の街 桜の国』(双葉社)で、原爆の悲劇を戦後の日常の中に静かに描き出した清新な表現に対して
こうの史代氏『夕凪の街 桜の国』(双葉社)
©こうの史代/双葉社
ヒロシマの重み伝える覚悟で

 戦後生まれの広島人に、「ヒロシマ」は複雑な重みを持っていた。
 「忘れてはいけない大事なことだけど、避けておきたい。何も知らないのにうかうかと踏み込んではいけない、と思っていました」

 「ヒロシマの話を書いてみない?」という編集者の提案に、夫や友人からは「大変だからやめたら」と言われると思っていたが、むしろ「いいんじゃない」とあっさり。その温度差が逆に、ヒロシマの重みを伝えようという覚悟につながった。

 親類に被爆者や被爆2世はいない。体験記や記録文学などを基に「夕凪の街」を、被爆2世らに取材し続編「桜の国」を書いた。
 「誰かが書くべき、残しておくべき作品だったのだと思う。たくさんの忙しいマンガ家の代わりに、たまたま時間のあった私が書いただけです」

「夕凪の街 桜の国」から
「夕凪の街 桜の国」から©こうの史代/双葉社

 「夕凪」は、生き残ったことに罪悪感を抱えた女性の、被爆10年後の悲運を描く。やさしい絵柄からは想像も出来ないラストについて、あとがきでこう記した。
 〈これから貴方(あなた)が豊かな人生を重ねるにつれ、この物語は激しい結末を与えられるのだと思います〉
 「人の親切に触れて、好きな人に出会って、そんな何げない人生がいかに貴いものか、感じてもらえたらうれしい」

 少女時代に飼っていた気の荒いニワトリのかわいさを短編連作「こっこさん」に描き、インコと暮らす楽しさを「ぴっぴら帳」につづった。
 執筆場所は、もっぱら台所に置いたちゃぶ台。かたわらの鳥かご三つから、3羽の小鳥が見守っている。


<あらすじ>

〈夕凪の街〉10年前の原爆で父、姉、妹を失った皆実(みなみ)。同僚の打越から思いを告げられたことで、「あの日、多くの人を見殺しにした」という心の傷が再び痛み出してゆく。

〈桜の国〉東京で暮らす皆実のめい七波(ななみ)。87年の祖母の死と、04年夏の広島への旅を通じ、原爆が祖母や父母に落としていた影に気づく。単行本(全1巻)は双葉社から発売中。



こうの史代 こうの史代 こうの・ふみよ。1968年9月28日、広島市出身。中学校時代からまんがを描き始める。とだ勝之氏、杜野亜希氏、谷川史子氏のアシスタントを経て、95年『街角花だより』を初めて商業誌に発表。01年、放送大学人間の探求専攻卒業。おもな著作は『ぴっぴら帳(ノート)』/双葉社刊、『こっこさん』/宇宙版。現在は漫画アクション(双葉社)にて『さんさん録』を連載中。

※受賞者プロフィールは当時のものです。


 
 
 
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