東京事変 オフィシャルインタビュー

──ツアー「dynamite!」から半年が経ちましたが、どのようにお過ごしでしたか?
「ああ、もう、そんなに経つんですね。えっと、そうですね、あのツアーが終わった翌日に(新メンバー)伊澤氏がいま何をしているのか……彼のことはそのちょうど一年前にライヴの演奏を観て知ったんですけど、その検索活動に入ったんです。彼とはそれ以前に連絡を取ったこともなければ、ほとんどお話をしたこともなかったので、やったことのあるライヴハウス名と伊澤っていう名前、それと彼がやっていたユニット名しか知らなかったんですけど、都内のライヴハウスに電話して聞き回ったんです。で、彼と連絡が取れた翌日にたまたまライヴがあるというので、そのライヴを観に行って。バンドに参加してもらうべく、 彼を口説くことで私の時間は費やされたっていう。だから、前を見るのに必死でした」

──行動が早いですね。その伊澤氏とは一体何者なんですか?
「最初に観た時は、日本でこういう音楽をやってる人はどれくらいいるんだろうっていうような、自分の作ったすごく美しいメロディを歌いながら、ピアノ弾いて。ただし、歌う人だから絡み方が分からないなと思っていて……でも、ヒイズミくんが抜けたから、ピアノだけでも、と思ったし、あと彼の楽曲も欲しかった」

──ただし、口説いたっていうことは、すんなりいかなかったわけですね?
「彼は今、自分で3ピースのバンドをやっていて、ずっと前に私が観た弾き語りライヴの後から始まったバンドらしくて、それが“あっぱ”っていうんですけど、それも始まったばっかりだし、(東京事変のことは)J-POPの超メジャー・フィールドで自分がやれるとは思わないとか、そういうことを言われて」

──でも、最終的には快諾してくれた、と。
「でも、大分後ですけど。4月末かな。もう、それまで必死に口説きました」 

──更にギタリストとして加入した浮雲に関しては、『加爾基 ?液 栗ノ花』にも参加していたり、「映日紅の花」を提供していたりと、既に絡みがあるわけですけど。
「彼も“やる!”とはなかなか言いませんでしたよ。誰も弾かなかったら、俺が弾いてやるよ、みたいな感じで(笑)。彼とは趣味で制作していたし、事変に自分のエゴを持ち込むのは違うと思ってたから、その時のパートナーだなと思っていて。でも、事変のファーストの時もデモテープでギターを弾いてもらったりとか、いつも手伝ってもらっていたし、“晝海も抜けちゃって、どうしよう?”っていう時、ずっと相談に乗ってもらっていたんです。アドバイスしてくれたり、今回のデモも弾いてくれて、それを聞いたメンバーが“あのギターはすごくいいけど誰なの?”って話になって、みんな浮雲のことは知ってたから “だったら彼に頼めばいいじゃん”“でも、あの人は……”みたいなやり取りがあったわけですよ(笑)。で、レコーディングの2、3日前に なって、“いいっすよ”みたいな。で、本人は平常心でリハーサル現場に来たんです。急展開でした。」

──はははは。よく知っている人だけに気の置けないやり取りがあった、と。ここで今一度、彼のバックグラウンドを紐解いてみたいんですけど。
「兄との繋がりで、古くから知ってはいて。『加爾基〜』を作っていた時、抑制して歪んだギターを入れないようにしていたんですけど、歪んでないギターを弾けるっていう条件で私の知ってるいい感じのギタリストは浮雲しかいなくて。デモの時に弾いてもらったテイクをそのまま「迷彩」とか「意識」に活かしたり……その流れで「映日紅の花」を提供してもらって。だから、私にとっては仕事にしない部分で作ってるものを手伝ってもらったりっていう人でした。」

──でも、レコーディングの直前までギターが決まってなかったわけでしょう? 彼が入らなかったら、どうなっていたんですか?
「ギターを入れないってことで、7月からリハーサルを……ただし、リハーサルって言っても、伊澤が初対面だったから、音合わせをしていたんですね。 で、その時は亀田師匠も忙しくて、中々いらっしゃれなくて、刄田と伊澤と私っていう3人で、伊澤にベースラインと自分のパートを同時に弾いてもらいつつの音合わせっていう、めっちゃくちゃ無理なことをやってたんです。そうしたら伊澤から“CDにした時の作品が想像出来ない”って言われて、色んな人に来て頂いたんですけど、一番しっくりきたのが最後に来た身近な浮雲だったっていう」

──その時点でバンドのラインナップが揃ったわけですけど、第2期東京事変の音楽的なイメージに関しては何か考えました?
「やっぱり、漠然とはあって。最初に東京事変をやりますって宣言した頃よりハードルが高くなっているので、そんじょそこらのギターだったら入れない方がいいと思っていたし、ならば曲ごとに最強のギタリストに来て頂いた方がよっぽどお客さんに対しては誠実だと思っていたんだけど、浮雲が加わって、5人揃ったリハーサルをやった時に“これか!”っていう感じがして。そこからは、それがより具体的になったというか、思い描いたどんぴしゃではないけれど、それ以上に期待が高まったっていう。私個人としてはそんな感じでした」

──より高いハードルっていうのを、もう少し具体的な言葉にして欲しいんですけど。
「ぶっちゃけて言うと、伊澤が入る入らないって言ってる時も散々言われたことなんだけど、細かいことを詰めて、音楽的なところをすごくこだわる時、“リスナーの方はそういう細かい部分は聴いていない”っていう自覚が私の中にはあって。で、実際、そういう側面もあると思うんですよ。歌詞と歌とその雰囲気とか、もっとファッション的なものとして捉える方もいらっしゃると思うし、私にしても“自分は芸術を作っている自覚はないよ”っていうスタンスで音楽をやっていて、これが表現活動か?って言ったら、そうかなと思うところがあって。それは謙遜とかではなく、自己実現の気持ちだけでJ-POPはやれないっていう 気持ちですよね。でも、そういうスタンスはよくない面もあって、伊澤にはそれを指摘されたんですけど、リハーサルで伊澤と二人で曲のアレンジを詰めていた時、“こういう楽曲だから、こんな感じで”っていう風な、いい加減なデモに対して、“これじゃあ、全然駄目じゃない?”って言われて。そこで私は “そんな部分を構築していっても誰も喜ばないだろうな”って思いながら音楽を作っていたことに気付かされたっていう。どうしてそう思っていたかというと、多分ね、気取った芸術家みたいになるのは詰まらないし、そうなっちゃうのが怖いんだと思うんですよ。でも、このメンバーだったら、そういう風にならずに、音楽的な部分を突き詰めることが出来るんじゃないか、と。彼との作業でそう思えたことが、すごく嬉しくて。しかも、伊澤と浮雲が会ってすぐに意気投合したから、これならいけるなと思いました。」 

──音楽的なことを変な部分で深く突き詰めていくと、一部のマニアックな人にしか伝わらないものになってしまうし、逆にストッパーをかけすぎると、薄いものにもなってしまうっていう。そのさじ加減は非常に難しいと思うんですけど、第2期東京事変はもうちょっと音楽的な部分を追求してみようっていう。つまりはそういうことなんですね?
「そうですね。なんか忘れてたわっていう。伊澤にはね、すごく怒られたんですよ。“『無罪モラトリアム』と『勝訴ストリップ』は音楽ファンが聴いてたんだよ。そんなにグレー層ばかりじゃないし、現にJ-POPを聴いてなかった俺が椎名林檎のアルバムを買ったんだから”って言われて。こっちは“いいよ、そんなキレイごとは!”ってふて腐れてたんですけど(笑)。」

──じゃあ、東京事変に新たな起爆剤が追加されてっていう。
「そうですね。されましたね。最初は色々言われても呑み込めないことがいっぱいありましたけど(笑)」

──で、このメンバーが揃ってから、デモの曲をバンドでアレンジしていったんですか?
「それがちょっと残念ですけど、アレンジはほとんど伊澤がやってるんです。もし時間があったなら、5人でスタジオに入って作っていってもよかったんですが、今回は私が作ったデモで、駄目出しされたものは伊澤が自分の機材でゼロから打ち込んで、そこに歌を乗せてみたり、曲によっては6 パターンくらいのアレンジがあって、そのどれもが面白いんですけど、何かのバランスで“違う!”ってなったら、夜中でも電話で打ち合わせしたりして、もうすごい 睡眠不足時代だったっていう」

──ちなみに今回のシングル3曲も伊澤氏がほぼ手掛けたんですか?
「1曲目はそうでもないけど、ケンカは何度もしました。1曲目にガットギターが入ってるじゃないですか。それは最初入ってなくて、それ以外はデモテー プに近いんですけど、伊澤が“この曲はガット・ギターが引っ張るべきだよ”って言い出して。私は“ガット・ギターみたいな揺れる弦楽器はいらないし、浮雲のギターがちょっと入ればいいんじゃない?”って言ったんですけど、折り合いが付かなかったので私が、“分かったよ、ガット・ギター用意するよ!”って言って、結構いいやつを買って、スタジオに持っていったんです。で、やってみたら、“ほら、やっぱりいいじゃん”ってことになりました。」

──ソロ、事変含め、そういう関わり方をするミュージシャンって、これまでいなかったんじゃないですか?
「ですね。あ、でも、浮雲もそうでしたよ。“なにこれ、お洒落じゃないね。お洒落じゃないから駄目だよ”って、すごい言われて。こっちは“お洒落とか、音楽的にどうだとか、そんなこと言ってたら、売れねぇよ!”って、いつもケンカですよ。だって、私がデビューした時って、そうだったじゃないですか。ドカーンとしてて、誰でも分かるものじゃないと駄目だし、フックの部分しか聴いてもらえなかったし、そこで悲しいこだわりをしたくないわけですよ。だったら、このすごくコマーシャルな部分だけにこだわるっていう、それくらいの覚悟をしてないと、ホント傷つくだけだから。そう思っていたんですけど、2人が “もうやってもいいんじゃないか”って同じことを言うから、こっちは“はい、分かりました。やらせて頂きます”って」 

──東京事変は音楽性をより追求するバンドとしてスタートしたわけですけど……
「そう、シフトしつつはあったんですけど、中学生の方からお手紙を頂いたりするでしょ?そうすると、歌詞もどこまで赤裸々で大丈夫なんだろうかとか、また唐突に思われちゃいけないとか、そういう葛藤が生まれてくるわけで」

──まぁ、でも、メジャーで作品を出すミュージシャンはどうしたって考えることですよね。ということは1曲目の「修羅場」に関しては、ガット・ギターの アイディアを伊澤氏が提供しつつ、それ以外の部分は林檎ちゃんがアレンジを固めていったんですね。
「そうですね。この曲ははなからシングルだろうなと思っていたから、この曲のレコーディングを最後にしたんですよ。だから、その時はある程度アレンジが 見えていた方がいいと思って、打ち込みに関しても、本番で使うだろうなっていうループを組んだり、曲のサイズもほぼあのままです」

──この曲は最初の打ち込みにハッとさせられますよね。
「そうですか。それ、みんなに言われるんですけど、あまり考えてなかったんですよ」

──人によっては、林檎ちゃんがダンス・ミュージックに開眼?みたいなことが語られることもあるかと思うんですけど、そういうことでは……
「ああ、そうなんですか….ダンスを提供しようとは思ってなくて、自分が気持ちいいものを作りたいって思ってるくらいですよ。その時に事変はバンドっていう形態だから、往年のかっこいいバンドみたく、歪んでなきゃいけないとか、誰かがサングラスをかけてなきゃいけないとか、そういうルールがないっていうか、逆にそういうルールがイヤなんですよね。この曲は、だから、事変の中では今までにない感じのリズムにしたくて、デモの時から忠実に、正確に打ち込んだ感じですね」

──つまり、自由な発想で作ったら、こういうリズムが生まれたっていう。あと曲の全編に渡って、S.E.が散りばめられてますが。
「ああ、それは半分以上、エンジニアの井上雨迩(うに)さんが入れてくださって。私からの注文は“ここは水気が多い感じにして欲しい”とか、そういうことですね」

──それでいて、メロディはシングルらしくキャッチーですよね。
「そうですね。自分でも押し曲のつもりでデモを持って行きました。」

──そして、グルーヴ自体はファンキーなのに、そこに伊澤氏のアイディアで浮雲氏によるガット・ギターが入ってくるわけですけど、それが意表を突いてスパニッシュなテイストっていう。
「それには私もびっくりしましたよね。ガット・ギターを入れたいとは言ってたけど、まさか、あんなスパニッシュな感じだとは思ってなかったので、リハーサル中にソロが始まった時メンバー全員浮雲の方を見ちゃって。そんな引き出しがあったとは私も知らなかったんですよ」

──へぇ、そうだったんですね。
「師匠のプレイは想像していた通りだったし、刄田もプレイを想像して、ああいう打ち込みにしておいて。メンバーそれぞれの美味しい引き出しが出るか出ないかで言ったら、この曲では出ないはずだったんですけど、みんな出してくるから、すごいはちゃめちゃになっちゃって、こっちはびっくりっていう。ホント色んな要素がごちゃごちゃに入ってますよねぇ」

──ま、でも、この曲ではそういうつもりはなかったにせよ、東京事変ではそれぞれのプレイヤーが持ってるものを上手く引き出しながら曲に入れていこうっていう。
「そうしたいんだけど、こっちが決めてかかって、狙い打ち出来ない怖さがあるっていう。例えば、浮雲はカントリーで、伊澤はジャズで、って言えればいいんですけど、意外なところから来るから、今後が嬉しいような怖いような、でも、すごく楽しいです」

──それでいて、歌詞は古風な言葉使いで、言いたいことがオブラートに包まれていますよね。
「メロディが十分に饒舌であれば、自分の中で要約しちゃってることとか、飲み込んで表面化しにくいことがあってもよしとするっていう自分内ルールがあって、聴き手にとっては不親切かもしれないけど、自分のプライベートな部分を大事にするためにタイトル曲は抑制されていて、シングルの最後に収録される3 曲目の「落日」の方がもっと赤裸々な内容ですよね。タイトル曲は大勢の人に聴かれるわけで、そうなると、より脱げないっていう。ソロの頃からずっとシングルのカップリングに関しては、手にして聴いてくださる人を大切にしたいと思っているので、その分赤裸々なものでもいいだろうっていう最終的なオッケーを出しています。シングルのタイトル曲はそういうひねくれ方というか、気取り方をしちゃうんですよね」

──でも、往々にして、シングルのタイトル曲は歌詞世界が直球だったりするものじゃないですか?
「でも、それは“こういうことを言っとけばいいんじゃない?”っていう計算が出来る器用な人なんじゃないですか。日頃から感じることしか歌にすべきじゃないと思ってるようなタイプの人は服を着ちゃうんじゃないですか? 私はそうかな」

──ちなみにこのタイトル曲はドラマ「大奥」の主題歌になってるじゃないですか。そのことも詞の世界観に影響しました?
「私個人としてはドラマ主題歌に押したかった曲は当初別にあって、それは子供に対する気持ちを真面目に書いたんですけど、私、前作の「大奥」を拝見していて、子供をどう生んで、どう育てるかっていうことが大筋に思えたんです。それは女性の大きなテーマだし、昔も今も変わらないと思うんですよ。 ただ、その曲はまったりしたテンポで、しかも、自分のなかで大事な曲だったし、消耗されちゃうのがイヤだったんです。だからといって、この「修羅場」が “こういうことを言っておけばいいんじゃない?”っていう気持ちで書いたわけではないし、正直な気持ちを書いたつもりなんだけど、テレビに流れた感じはこの「修羅場」が合うかもしれないと思って、歌詞をきゅっと引き締めたんです。それはなんでかっていうと、『大奥』の世界が展開された後、エンディングで流して頂くなら、昨日のことを悔やんでいる女性像だと重いんじゃないかなって思ったんですよ。だから、“あなた、泣いてくれますか”っていう部分はそう言わず、“男というのは女が泣いても知らぬふり”っていう感じで、もうちょっと置いてくるっていう語り口に直したんです」

──なるほどね。
「夏はあんなに笑っていたのに、秋が来たら、あれはなんだったんだろうってことがあったりするじゃないですか。だけど、自分の中にはすごく真面目なものがあって、賑わいのなかで誤魔化されてしまったこととか、自分の真面目なものまでおざなりにされちゃったことに対する……だから、この曲で書いてるのは 女心ですよ」

──はははは。そして、カップリングの2曲は伊澤氏がアレンジを手掛けているということですけど、2曲目のカヴァーはアダルト・オリエンテッド・ロック の名曲、ネッド・ドヒニーの「恋は幻」。渋くて、いい曲を選びましたね。
「この曲はどうしてもやりたかったんです。伊澤にぴったりだと思って、ああいうコードのピアノ・リフと足踏みオルガンと歌からなるデモを渡して、“これ、伊澤のイメージだから、これをバンドで発展させたいんだよね”って言ったら、“ちょっと、どこか行ってて”って言われて、アレンジを始めたんです。 で、ある日、書いた譜面を渡されたら、全パート全指定されてあって(笑)。で、また、みんな人の意見を聞かないんですよ。 “すごいね、ありがとう”って言いつつ、“そこ、ブレイクするはずじゃなかったっけ?”って言うと、“あ、うん、叩いちゃった”って。まぁ、そんなこともありつつ、最終的には伊澤のアレンジで、こういう風に落ち着いたっていう」

──この曲は1曲目のスパニッシュなギターから一転して、浮雲氏はリバーブがかったサーフ・ギターを聴かせてますね。
「それはね、浮雲にデモでギターを弾いてもらう時に、(原由子が歌っているサザンオールスターズの)「そんなヒロシに騙されて」みたいに弾いてってお願いしたんです。そうしたら本番の時に“原坊でいいんだよね”って言って弾いてくれたんです」

──なるほど。「そんなヒロシに騙されて」も確かにサーフギターですもんね。全体的には原曲がぐっと東京事変に引き寄せられたアレンジになっていて。
「そうですね。リズムも刄田のイメージだし、コード付けも私の手癖だし。大体、原曲はワン・コードですからね。原曲の良さが全部なくなっちゃってる感じはするんですけど(笑)」

──でも、原曲からの変換具合が事変らしさだったりするわけで。
「これまでカヴァーをずっとやってきたのも、サウンドのアプローチの遊び加減を探るのに誰でも知ってる曲なら、オリジナルをやる時も自由になれるかなと思ってやってきたし、新たなメンバーになっても、またやりたいなとは思っていたんです。」

──そして、3曲目の「落日」は再びオリジナルで。色んな要素が盛り込まれた「修羅場」に対して、こちらは音数少なく、ピアノと歌で始まるっていう。
「この曲は最初、アコギでデモを録っていて、あとは普通にドラムとベースって感じだったんですけど、でも、伊澤のピアノが入って、結果的にはデモより全然良くなりましたね」

──伊澤氏はデモのどの部分が納得いってなかったんですか?
「あの人の基準が時々分からないんです。確かに彼の言った通りにすると、絶対に良くなるんですけど、彼が言ってる段階では何が違ってるか分からないっていう。だって、作った本人としてはアコギの音が鳴ってると思ってるから、それを入れてるわけで、違うと言われてもこちらにはさっぱり分からない。 だから、それを具現化する装置は彼の中にしかないと思うんですよ。しかも、彼にはそうじゃなきゃいけないっていうどんぴしゃな答えしかなくて、浮雲も”それがすごいよね”って言っていて。この曲はしかも、最初はピアノ一本にトランペット、それから歌で録ったんですけど、刄田がどうしてもドラムを叩きたいって言って。叩いてるのをみて、私と伊澤は違うかなって思っていたんですけど、雨迩さんの音処理を経て、ありだねってことになったという」

──なるほど、シンプルな曲だけど、そういう紆余曲折を経ているんですね。
「しかも、この曲はラスト1行を変えたんですよ。そうしたら、伊澤が“ちょっと待ってよ。それだったら、こんなエンディングにしない”って言ってきて。 歌詞のことを大事に考えているらしく、それがアレンジにすごく影響しているんですって。あと、“恋は幻”に関しても、録音が終わって、トラック・ダウン の作業の時に“この歌詞って、どういう意味なの?”って訊いてきたから、“がんばれっていう曲なんじゃないの?”って答えたら、“え? 恋は?”って。 だから、私は“恋愛ソングではないんじゃないかな”って言ったんですけど、そうしたら“ちょっと待ってよ。恋をイメージしたのに、相当間違えた〜”って 言い出して。知らないよ、先に言ってよっていう(笑)」

──この曲はアルバムの最後にするつもりだったけど、変更して、このシングルに収録しているわけですよね。アルバムの流れを踏まえた何かしらの意味合いが この曲には含まれているんですか。
「そうですね。それはすごくありますね。事変に起こった変化と、自分の私的な気持ちが自分の中ではリンクしていて、メンバー2人が一気にいなくなったことで、どうあるべきかっていうこととか、もっとプライベートなこととか、そういうことが書かれているんですけど、アルバムの最後は“これからどうして行こうか”っていう部分をポジティヴに、かつ、リスナーの方にも伝わるくらい分かりやすくなければいけないと思っていて。で、ある時期までこの曲が相応しいと思っていたんですけど、伊澤との作業がどんどん充実してきて、「落日」のエンディングだけでは足りないというか、もっと笑ってる状態で終われるはず だし、そっちの方がいいなと思ったんですね。そう思ったのは、伊澤が曲をくれたからなんですけど、アルバムのラストは彼の曲に変えて、「落日」はシングルが出る頃見ている未来、これからの在り方を書いたっていう位置づけにしました。」

──以上の3曲からなる今回のシングルですけど、新たにメンバーが加入したことで、それ以前に書かれていた曲やアルバムのイメージにも変化があって、第 2期東京事変は面白くなりそうですね。
「このメンバーになってからはアルバムの曲も書き換えましたし、曲の作り方も変わっていくでしょうね。まだまだ未知数な部分もありつつ、みんな曲を書くので、役割がその都度変わっていくことになると思います。実行はしていないんですけど、メンバー同士では“俺が曲書いたら、お前がアレンジし ろよ”って話があったりするので、多分、そういう風になるんじゃないか、と。私個人としても、やっても許されるだろうなっていうキャパシティも広がって いて、それは許してくれるメンバーがいるからなんですけど、そうですね、今後もより広がっていくんじゃないかと思います」


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