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教室から

小池教授の紙上特別講義 モバイル漫画2
  読む時の目線は
     下の方が楽なんです。
        移動性も重視されます。                             

(2005.11.30更新) 

 

 この夏、「2007年世界陸上大阪大会のマスコットをつくってほしい」と大阪芸術大に依頼がきました。年内に学内で選考し、年明けに最終決定するでしょう。
 100メートル走でコンマ1秒縮めるのにどれだけ年数がかかったかを調べ、「コンマ1秒の物語」とかいったドラマをつけてキャラクターを動かせばいい。学生が生んだキャラクターが世界に羽ばたくチャンスです。
 1日1時間、机の前に座りなさい。白い紙をにらみなさい。その間、コーヒーを飲んだり、テレビを見たりしてはいけないよ。
 学生らに教えるのは、技術よりこういうことです。
 毎日、口や目、鼻をいじるうちに一人前のキャラクターに育ちます。そして話しかけるんです。一緒に生活していると思えるぐらい感情移入しないと、キャラクターが何を考え、どう動くのかなど分かりません。
 あるいは一度、キャラクターを消してみます。たとえば、キリストがいなければ教会も宗教戦争もないはず。消せば存在の大きさが分かります。悪魔を、仏陀を、ヒトラーを、小泉首相を、と試してください。
 架空の世界に限りません。現実社会もキャラクター化して考えたらいい。ホテルマンのようなサービス業の人は、このお客様は玄関先でいつも何かする癖があるとか、相手のキャラクター(性格)を見抜けば適切な対応ができます。   
          
          
                   ●画面全体が1コマになるはず。
          ○表現し切る方がいい。
 
 
 若い皆さんには、モバイル(携帯電話)漫画=(1)=の将来性を考えてほしい。漫画はインターネットでの有料配信=(2)=より、モバイルに移るはずです。読む時の目線は下の方が楽なんです。漫画はトイレや電車でも読める移動性も重視されます。
 移動性だけなら出版物も優れています。ただ、漫画雑誌や単行本の部数は、1990年代半ばのピークより減っています。とくに雑誌は激減です=(3)。人気連載が終わったこともありますが、5年ほど先に本格的に来る「モバイル時代」への移行期なのでしょう。
 それは日本だけではない。各国の企業がソフトを買い集める競争です。韓国からは、僕の全作品を買いたいと言ってきています。
 コマ割りも変わり、モバイルの画面全体が1コマになるはずです。十分に字も入ります。殴るシーンも、倒れるシーンも、1コマで表現し切る方がいい。
   
 キャラクタービジネスはさらに、ロボット業界=(4)=にも及ぶでしょう。
 トヨタ自動車は2010年をめどに育児や介護、接客を手伝うロボットを発売するといいます。家庭に次世代ロボットが入ってきます。となれば、デザインは私たち、製造はメーカーや工業大という流れができないか。実は、ある工業大と企画が進んでいて、そうした時代は目前なのです。                    (大阪芸術大教授・小池一夫)                                      


 《記者から》
 漫画が本から携帯に移っていく。小池教授はこう予測します。寝転んで漫画本を広げる至福の時が、画面をのぞき込み、ボタンを押してコマを送るしぐさに変わるかもしれません。しかも画面全体が1コマの新スタイル。寂しい気もする一方で、紙媒体と違うどんなキャラクターが生まれるか楽しみです。古本屋で入手困難だったレトロ漫画がモバイルで復刻され、親子で同じ漫画に夢中になる。そんな光景もあったらいいですね。 

 ◇キーワード
 (1)携帯電話の漫画配信 愛用者は「パケ・ホーダイ」などパケット定額サービスの利用者が多いという。凸版印刷の子会社が運営する「まんが稲妻大革命」(FOMA)などが有名。同社の10月の月間ダウンロード数はau、NTTドコモ、ボーダフォンを合わせ50万件。ちなみに携帯電話の10月現在の契約数は8936万件。
 
 (2)インターネットの漫画配信 「eBook Japan」(蔵書1万冊の6割が漫画)、「電子書店パピレス」などが有名。「北斗の拳」「沈黙の艦隊」などが人気を集める。「eBook Japan」の9月のダウンロード件数は14万で大半が漫画だった。
 
 (3)漫画雑誌の部数 出版科学研究所(東京)の調べによると、週刊・月刊漫画雑誌の推定販売額のピークは1995年の3357億円(推定販売数13億4301万部)。2004年は2549億円(8億6100万部)まで落ち込んだ。
 
 (4)ロボット業界 国が2004年に出した「新産業創造戦略」の重点分野の一つ。戦略では、2003年に5千億円だった国内市場(大半が産業用ロボット)が、25年には6.2兆円(産業用ロボット1.4兆円、サービスロボット4.8兆円)になり、産業用ロボットとサービスロボットが逆転すると見込んだ。三菱重工は今年9月、留守番やスケジュール管理をする家庭用ヒト型ロボット「wakamaru」を発売した。 

 
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