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教室から

  小池教授の紙上特別講義
                 
キャラクター誕生3
  言いたいことは
      人物に託して描く
           必要があるんです。
        

(2005.11.30更新) 

 

 問:親しみのわく主人公と、人を畏怖させるライバルが登場するストーリーを考えなさい。

 どうすれば自分のキャラクターを生み出せるか。10〜50代の多くの方が悩んでくれました。まず自分で気に入らないとダメですし、独りよがりの一方通行でもいけない。小池教授のちょっと辛口の採点で、「さらに磨けばもっと光る作品」を選んでもらいました。小池教授が選んだ3通を紹介します。また、このホームページでさらに10通分を掲載します。

   
  
●小池教授の講評
 「キャラクターがよく起っているなあ」「あと一歩こうすれば」と思う作品を選びました。
 《今里さん》 昔の少女マンガにありがちなパターンですが、主人公と
ライバル、憧れの男性という3人のキャラクターそれぞれに持ち味があり、うまくキャラが起っています。とくに主人公・山田利子。不器用が高じてとんでもないものを作ってしまう、という「ボケ」のキャラクターが光っています
 《松本さん》 おもしろいねえ。老人アイドルと、それをねたむ若いアイ
ドルという2人のキャラクターの対比が鮮やかです。「老川ハナ」「若野桜」という名前もふるっています。もう少し掘り下げれば、読者を楽しませながら「高齢化社会」というテーマを深く考えさせる、いい作品になるでしょう。
 《清水さん》 ファンタジーを描こうという人に多いのですが、この作品
も世界観や設定が複雑で、個々のキャラクターが生かしきれていません。もっとシンプルにわかりやすく、まず等身大のキャラクターの目を通して、彼らの感情や行動を描くようにしてはどうでしょう。
 キャラクターを起たせるのは難しかったでしょうか。エンターテインメントと
しての漫画やアニメの場合、キャラクターを客観的・視覚的に描かねばなりません。自分の言いたいこと、描きたいことはキャラクターに託して描く必要があるんです。   

  【記者から】
 難問なのに、神戸市立葺合高校は選択授業の課題として取り組んでくれました。公園の人気者だったワン太郎の鳴き声が消えた話。オーナーが交代して売られそうになる動物園のパンダの話。落ちはともかくなかなかの題材でした。
 講義で印象に残った教えは、一度キャラクターを消してその存在感を確
かめること。たとえば、自分を消すと……。うーん。いかに無力で小さい器かが分かります。
 

  文化祭舞台に揺れる3人の心模様

 今里美和さん(33)=主婦、兵庫県加古川市
 山田利子、17歳。中津大輔、18歳。藤田ひとみ、18歳。3人はクラスメート。高校最後の文化祭の出しものは、演劇「ロミオとジュリエット」。中津と藤田はクラス公認の仲。役はもちろん、ヒーローとヒロインだ。
 山田は大道具の担当になった。でも、大の不器用。何をするにもものすごい物を作る。横で芝居の稽古をしている中津も、あまりのすごさに引いてしまう。要領の悪さと不器用さにいても立ってもいられなくなり、つい口を出し、テキパキと手伝ってしまう。そして天然な姿にイライラしながらも、山田にひかれていく自分に気づく。
 文化祭の前夜、藤田は学校に忍び込み、山田たちが作った芝居のセットを壊す。朝、学校に来ただれもがガク然。中津も劇を中止しようと言うが、山田はあきらめない。使える物や人間をセットに見立てればいい。そんなギリギリの提案が成功した。
 中津は分かっていた。壊れたセットにつく血、それが藤田の傷と一致することを。文化祭が終わり、中津は藤田を呼び出した。

   
  老人VS14歳 アイドル対決の行方
 松本美加さん(32)=主婦、神戸市灘区
 20××年。日本は未曽有の高年齢化社会に突入した。老人のせいで自分は多額の税金を払わねばならないと、老人を襲う若者が増えた。
 そんな若者の増加を防ぐため、政府はある計画を実行した。70歳以上の老人アイドルグループ「エルダーズ」の結成である。
 リーダーの老川ハナは親しみのある人柄で若者の人気を徐々に勝ち得ていったが、彼女をねたむ者も少なくなかった。
 それが14歳のぴちぴちアイドル、若野桜である。桜は楽屋でことごとくイビるが、ハナはボケたフリをしてかわす。いつも気づかないそぶり。バラエティーで2人が絡んでも、ボケた答えのせいで、ハナばかりがウケをとる。桜はほかの芸能人に悪口をばらまいて、ハナを嫌わせようと仕組む。
 だが、それでもめげないハナを見て、桜は尋ねる。「どうして私を憎いと思わないの?」「だって、老い先短い人生、あんたを憎んでる暇なんてないもんねえ」。ハナの答えに圧倒され、桜はハナを尊敬するようになるのであった。

   
   国と王女かけ勝負する国王タキ
 清水沙矢加さん(19)=大学生、大阪府寝屋川市
 街も人もにぎやかな国サクラギ、美しく鮮やかな女政国パッフェル、そして主人公タキが亡き父に代わり王を務める国クライス。この三つの国で大陸は構成されている。
 ある日、サクラギの王子リョウガが、合併話を持ち込んでくる。断るタキを、うまく丸め込んで話を進めてしまう。話の流れでタキはリョウガと勝負して、どちらが合併した国の王になるのかを決めることに。王になれば三国の統制権、パッフェルの王女との婚姻権を得ることができる。
 リョウガが王になると自国クライスをそのままの形で守れなくなると知ったタキは、リョウガに向かっていく……。
  


         ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
 小宮山 菜摘さん(19)=大阪芸術大学1回生
  「ダメオヤジ脂汗と涙と感動の物語」
 典型的なダメオヤジ、内田正太郎(39)は常に息子の誠一(小学3年生)にバカにされている。そんな息子を見返すため、1ケ月後に開かれる小学校の運動会の保護者参加リレー(200m走)に出場し、1位をとることを約束する。しかし中年太りはどうにもできない、足も短い。しかも小学校時代からのライバル、吉村健之助(39)も出場するなどと言い出してうっとうしいことこの上ない。果たして内田はたった1ケ月の特訓で1位をとることができるのか。ダメオヤジ内田の、脂汗と涙と感動の物語。

 青野 麻美さん=神戸市立葺合高校3年 
  「あの子のようになりたい」
 彼女がボールを打つたび歓声があがった。私は単純に憧れた。あの子のようになりたいと。私は別にテニスが下手というわけではなかったが、彼女とはレベルが、世界が全く違っていたのだ。追いつけるようがんばった。一生懸命練習した。それでも、あまりにも大きな差だった。しだいに私は部活をさぼりがちになった。練習しても彼女には到底追いつくことなんてできないのだから。
 そんなある日、偶然駅で彼女、宮本ゆみに会った。目があい、気まずくなって私はゆみに話しかけた。段々話題がなくなり、私は「宮本さんってすごくテニスうまいよね」と言った。それに対してゆみは「ありがとう。あなたもうまいよ」と言った。そんなこと、思っているわけがない、ゆみは気をつかってくれている、そう思った。けれど、その言葉は、とても嬉しかった。ゆみは私なんかに目もくれてないと思っていたから。
 ゆみと別れ、闘心が燃えた。私が勝手にライバル視しているだけで、ゆみは何とも思っていないだろう。けれど、あの時、確かに宮本ゆみは私を見てくれた。もっとがんばれる。ゆみが本当に私を見てくれるのを目標にして。

 出田 雅之さん=神戸市立葺合高校3年 
  「パンダ」
 今日も客のいない動物園でパンダにエサをやる太田伸夫の姿があった。数年前に近くに遊園地ができてからというもの、この動物園は赤字続きだった。伸夫は給料が下がっていく中で、転職のことなど一切考えず、パンダの世話を続けていた。のんびり屋の彼はパンダと息が合い、パンダも彼になついていた。
 ある日、フェラーリが動物園内を走ってきた。分厚いドアが開いたと思ったら、そこに1人の男が立っていた。この動物園の新しい経営者、堀口商事の堀口社長だ。彼は38歳という若さで資産100億円の億万長者だった。
 「本当に客がいないんだな・・・」
 「あのぅ」
 伸夫が声をかける。
 「君は確か飼育係の太田伸夫君だね? 私は今日からここの経営者になった堀口だ。僕がこの動物園を変えてあげよう!」
 「お客さんが入るように!?」
 「あぁそうだ。客は昔のようにたくさんくるぞ。小動物だけ残して後は遊園地にすればいい。ここのパンダも売れば金になる」
 「え!? こ、ここのパンダは人気者で・・・」
 「残念だが生き残るための決断だ」
 「そ、そんな・・・」

 藤田 純己さん=神戸市立葺合高校3年 
  「あの人」
 あの人は、私の安らげる居場所。つややかな漆黒の長髪、私を見下ろす銀色の瞳、そして心の震える彼の詩(ことば)。私の支えであったすべては、今はない。私は彼の元へ行く。支えが欲しいわけじゃない。それが悪い事だとも思わない。ただ、あなたの支えになりたいだけ。それはおせっかいに見えるかもしれないけど、私はそれでも行く。「道が見えないなら、お前色の道を創ればいい」。そう言ったのはあなただもの。だから文句は言わせない。・・・ううん、やっぱりあなたの言い分も聞いてあげる。聞いてあげるから、今度こそ名前を教えてね、死神さん。
 あいつは、俺にとっての鏡。あいつを見ていると自分の心がはっきりと見えた。そして、いつしかあいつは俺を変えた。俺は毎日、あの場所であいつを待った。日々、自分の中で何かが変わるのが分かった。その感覚は、悪くなかった。だが周りの者はそれを許さなかった。だから俺は前の俺に戻った。あの場所に最後の詩(ことば)を残して。俺は前の俺へと戻ってしまったけど、俺は「俺」を忘れない。そして出来るなら、叶うのなら、「ありがとう」と俺はあいつに伝えたい。それだけを伝えたい。それで充分だ・・・。 
 
 柏原 久美子さん(23)=広島市中区
  「復讐(しゅう)」
 
魔法を使える富裕層『魔血』が、魔法を使えない貧困層『非魔血』を差別する魔法帝国。俺はそんな醜い国に両方の血を引いて生まれた、中途半端でちっぽけな存在だった。
 あの日、彼は言った。
 君は最強の暗殺者になれる――と。
 俺は今、その暗殺者となって彼の前に立っていた。
 魔法を教えられる側と教える側という関係ではなく、殺す側と殺される側という関係で。
 「とうとうこの日が来てしまったね」
 彼は恐ろしいほど穏やかな笑顔を浮かべながら俺に語りかけた。
 「僕も光栄だよ。自分の作った最高傑作の殺人マシーンに刃向かわれるのだからね」
 「――と言うことは、飼い犬に手を噛まれた気分?」
 俺は彼を睨み付けペロッと指を舐めた。
 「いいや。恩を仇で返された気分だね」
 そう言うと彼は口元に余裕綽々の笑みを浮かべながら、俺を睨み返した。
 見る人全てを怯えさせる、緑と青のオッドアイ。
 彼に睨まれた瞬間、俺は身体中の血液が凍り付いたような悪寒を覚えた。
 「君が僕の前に現れたのは10年前だったっけ。ちょうど君が魔血の手によって母親を失った頃だったかな」
 彼は時折含み笑いを浮かべながら、ほじ返されたくない俺の過去を語り出した。
 「君の持っている魔血に対する憎しみや恨みは相当なものだったよ。そりゃ、母親を殺したのは、魔血で、しかもその魔血の血が自分に流れている。君が魔血に復讐したいと思うのも解らない感情じゃない」
 「でも、あんたは俺の復讐心をうまく利用した」
 俺は声を震わせながら低くそう唸った。
 「利用だって?」
 そう言うと彼はアハハと笑った。
 「馬鹿らしい、僕は君の復讐の手伝いをしただけなのに」
 「あんたの嘘にはもううんざりだ」
 俺は怒りに震えたため息をついた。
 「この10年間、俺はただあんたの言われたとおりに魔血を殺してきた。でも、それは、あんたにとって都合の悪い魔血であって、俺が復讐したい相手なんかじゃないって気付いたんだ」
 「ふうん。そうなんだ」
 彼は冷たく蔑んだ目で俺を見た。
 「僕はてっきり君が暗殺者になる前にそれは覚悟していると思っていたよ」
 「ただ、あの時の俺が復讐する相手がわからなかっただけ。あんたはそんな俺をうまい具合に利用したんだ」
 そう言うと、俺は腰からすっと1対の鈍く黒光りする刃を抜いた。
 「でも、今の俺は違うよ」
 俺はそれを言うと黒い刃を彼に向けた。
 それを見て、彼の口元が一瞬緩んだようにつり上がる。
 「なるほど、君は本当に復讐したいのは育ての親である僕だって言いたいのか」
 彼は俺の言葉をそう代弁すると、ゆっくりと席を立った。
 「全く君は恩知らずな『武器』だな。忠誠を誓ったはずの主人に刃向かうなんて」
 「ばかいえ、『武器』であるから主人でも敵でも傷つけられるんだろ」
 「まあいい。どちらにしろ今の君の利用価値は消え失せたよ」
 そう言うと彼は俺に向かい挑発的に手を差し出し、凍り付くような緑と青の目で俺を睨んだ。
 「どこからでもかかって来なよ」

 濱口 周子さん(41)=大阪府枚方市
  「町医者」
 
近未来の日本。死亡率の高い伝染病が大流行し、ある地方都市の片隅に暮らす町医者も、苦しむ患者に胸を痛めている。
 政府は高名な医学博士に対策を要請する。博士は、カプセル型隔離病室(内部に全自動看護装置付き)を考案し、伝染に感染したものは皆、隔離病室に入るように義務付ける。国民は大歓迎。他人に病気をうつされる恐怖からも、いざ病気になった時に忌み嫌われ手当てされない不安からも、解放されるから。
 しかし、苦悩する人々もいる。
 「ひとりぼっちで、狭い所に閉じ込められて死ぬのだろうか」
 だが、そんなことを口にしたら社会からつまはじきにされる恐れがあった。
 町医者は決意する。
 「自分が、普通の病棟で他人に看取られての死を願う人を引き受けよう」
 町医者は密かに隠れ家を造り、カプセル病室を拒む患者を受け容れる。
 その動きを察知した政府は、医学博士に相談する。博士は、町医者と隠れ家に住む患者を皆殺しにするよう暗に指示する。政府が放った刺客がいよいよ潜入しようかという時、奇跡が起こる。複数の患者と接していた町医者に、強力な免疫抗体が出来ていて、特効薬を開発する元となると分かったのだ。

 久保 典子さん(53)=広島県廿日市市
   「都城家の生活」 
 実際は42才だが、生来の美貌と日頃、筋トレで鍛えた足腰のしなやかさは30代前半に見える母親の都城亜美。女性誌のモデルをしている。娘の波美は15歳で女子高校1年生。おっとりとした性格と平凡な顔立ちが母親と真反対で何かとカンにさわり、いつもこの娘を見ているとイライラさせられてしまう。
 日曜の午後、のんびりと買い物から帰った波美は買い物袋からクリームチーズ、玉子、レモン等を出し、エプロンをつけた。台所にさしこむ光がほおに当たり健康そうな横顔は輝いて見えた。「波美、明日から期末テストだっていうのに何のんびりと料理なんか作っているの。そんな時間があるんだったら単語の一つでも覚えなさい」。母の叱責がとぶ。「何もかも平凡を絵にかいたようなあなたは勉強していい大学へ行き、いい所へ就職するしか道はないの。それを放棄したら、あなたに何が残るの。料理なんてものは、大人になったらやりたくなくてもやらなくてはいけないのよ。なんでわざわざ若いときからする必要があるの。ケーキなんて有名ケーキ店で買ってくりゃあいいの。時間がもったいない」。「お母さんは私にあれこれ言うけど、自分で真心をこめて私にチーズケーキを作ってくれたことがある? 百の干渉より自分で作ったひと切れのチーズケーキを私の前に出してみなさいよ」。心の中で叫んだけれど、その言葉はのみこんだ。

 安藤 知明さん(63)=大阪府豊中市
  「峠の茶屋」
 
ミンがやっている峠の茶屋は流行っている。そんなに美人ではないけれど、なんとも愛嬌があるし愛想もいい。疲れた旅人には一服の清涼剤である。旅をしているわけでもないのに、麓の里からわざわざやってくる者もいる。流行り過ぎるってのも困りもので、席がなくてしばらく待ってもらうことになる。
 それでミンは増設することを考えた。あと10席も増やせば迷惑をかけないで済む。大工のヤスさんに頼めば、そりゃもうミンのためなら大勉強してくれよう。一大決心をしてミンはお上のカンに出向いた。
 「峠の茶屋の増設なんて前例がないね。待たしておきゃいいんだよ。一軒茶屋なのだから、他に奪われることはないし」
 カンは全然わかっていない。ミンは旅人の立場で考えている。峠越えの旅人に一度たりとも会ったことのないカンに、分かってくれと言う方が無理なのかも知れない。じゃ峠の茶屋を視察してもらえばいい。
 歩いてくるわけがない。駕籠を差し回した。もう何人かの旅人が待っていたが、カンはそこ退けそこ退けと登場。お茶の代わりに熱燗と肴。
 「時々視察も必要じゃのう。陳情は前向きに検討しよう」

 
 岡沢 達也さん(27)=大阪市西淀川区
  「素人と玄人」
 
俺はこの前の考査も最悪だった。そんな最低の俺を励ましてくれた中学からの友達の女子に、今、俺は告白しようと考えている。しかし困った問題が起きた。土田という学級委員長が、同じ相手に告白をすると宣言したのだ。奴の行動は絶対だ。成績は常にトップであり、つい先日も他校のワルを言葉のみでねじ伏せ、泣かせて帰らせた。奴の校内での評価は上がる一方だ。そんな相手に、どう対抗すればいい? 俺はとりあえず、環境に優しい携帯用ソーラー充電器を告白の言葉と共に渡す事とした。きっと喜んでもらえるはずだ。だが、土田は違った。お前が好きだ、付き合ってくれたら勉強を教えてお前を学年上位の成績にしてやる、と言い出したのだ。何か考えている事が違う。俺は先制攻撃に出た。ところが土田は波状攻撃に出てしまった。奴は独自のカリスマ性を生かし、女の子のとりまきを自身の味方とした。周りの人間は土田を選べという。当の女子も、「当然じゃん」といった。俺は負けるべくして敗北した。頭を丸めてやろうかと思ったが、恥ずかしいのでやめた。そして1週間、俺は学校を休んだのだった。

 中嶋 伊吹さん(ペンネーム)=京都府八幡市
   「正義は我にあり」
 
「どけよ」
 肩を小突かれて、明紘はよろめいた。滑り台の手すりから落ちそうになるが、何とか踏み止まり、相手を睨みつける。「やだ」。「オレが滑るんだ」。祐一は睨み返し、拳を振り回した。その手が顔に当たって、明紘の目に涙がにじむ。
 「祐一くんが、明ちゃん泣かしたあ!」。周りがわっとはやし立て、うちひとりは飛び降りて教室へと駆けていった。おそらく3年2組へ駆け込んで、担任の環に注進する気だろう――そう思いながら、祐一は知らぬふりで台から滑り降りた。
 「で?」。環は腕組みしたまま、明紘と取り巻きにきいた。「どうしたいの、明紘くん。はっきり言いなさい」
 「列に割り込んだこと、謝ってほしい」。明紘は涙声のまま答えた。「何べん言っても、祐一くん直さないし」。
 「代表委員失格やで」。取り巻きのひとりが呟いた。「だから明ちゃんにしようって言ったのに・・・」。
 環はその先を読んで、苦笑を噛み殺した。最前列には祐一がふてくされて座っている。泣きつつもりりしい顔をした明紘との対照が見事だ。  

 
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