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悪忌の守護神

ジェフ・グラッブ
Translated by Yoshiya Shindo

 悪忌(あっき)のイクウクが呪われていたのは、実は瓶を見つけたそのときの話だったが、彼はそれに七日のもの間気がついていなかった。

 彼はその瓶を、数世紀にわたって様々な悪忌に占拠されては打ち捨てられてきた数々の洞穴がもつれ合った洞窟の入り口の、砂利だらけの坂道で見つけていた。その堆積は、それぞれの部族が悪忌流の伝統の方法で行ってきたことの名残だった――何でも戸口から放り出すのだ。その結果、谷は大量の屑で埋まり、悪忌の世代に並行するように地層の世代を重ねてきている。

 そしてイクウクは、地位が低い中でもさらに低く、屑の山の中から食えるものや取り引きできるものを漁りまわるのが常だった。

 イクウクはその技術にそれなりに長けていたし、自分の領域のこともよく分かっていた。そしてある夜、臭気が屑の山の奥深くで爆発し、青白い炎が空に向かって火柱となって立ち上ったとき、彼は屑山の底がひっくり返され、昔の失われた宝物が表に出てきていないかと考えたのだ。

 そして漆黒の瓶に手を置いて彼が自分の運命を決めたとき、自分が正しかったことを知った。

 瓶は首が細く、古い王朝風で、流暢な文字が漆黒の表面に刻まれていた。呪文様な刻印は炎で彫りこまれたかのように浮かび上がっていて、イクウクが見つめる目の前で踊り、溶け合うようだった。

 イクウクが人間だったなら、その瓶を安全な場所へと持っていっただろう。自分より知識ある者を探して教えを乞うたかもしれない。謎を解き明かす書物を持っていたかもしれない。用心していたかもしれない。

 しかしイクウクは悪忌で、物漁りや古いものに関する知識に関して、甲羅背負いで尖り肩の血族において最も賢いというわけではなかった。なので、彼は瓶を振ってみた。何か塊が中で音を立てた。彼はそれに気をよくして、口にはまっていた鉛の封を引き抜いた。

 その時、口から炎が噴き出した。イクウクがもっと躍起になっていれば、彼は爆発をもろに顔面に浴びて、その後に起こることにも遭わずにすんだだろう。しかし彼はそこまで幸運ではなかった(瓶の底を腹に据えて、両手で瓶の封を外していた)ので、噴き出した橙色の炎に、後ろに吹き飛ばされただけだった。
そしてその炎は、瓶を残したまま彼の目の前で空に渦巻いていた。

 イクウクは、彼の低い地位にもかかわらず多くのことを知っていた。例えば、火が燃えるには何かが必要で、そうでなければくすぶって消えてしまうとことだとか。木とか。布とか。肉とか。石だって十分熱くすれば燃える。しかしこの炎はそれらと違い、空中を漂っている。そしてイクウクが見つめる前で、炎の中に二つの黒い染みが生まれ、それはやがて目となって彼をじっと見つめていた。
イクウクはあわてて後ろに下がった。「あっち行け!」 彼は瓶をつかむと、棍棒のように振り回しながら早口で言った。

 目の間に新たな黒い染みが生まれた。「離れ居るとも。」とその炎は言った。それはイクウクの目の前で形を成し続けていた。炎は自ら折れ曲がり、ひらめいていた火ははっきりと分かる形になっていった。身体は悪忌の子供が描いた魚のようで、炎に覆われたごつごつした小さな胴体が、大きすぎる頭を支えている。上の方の二つの黒い染みは平らな銅貨となり、炎の表面に浮かび上がっている。実体の無い炎でできた小さな使えそうに無い腕だか鰭だかは、身体の横にぶら下がっている。

 その生き物は、悪忌の胎児の形をしたおたまじゃくしのようだった――というか、燃え盛る胎児の他に例えようが無かった。

 イクウクは低い地位にもかかわらず、昔話を色々と覚えていて、自分の目の前にあるものが神かどうかを判断することができた。神は精霊であり、別の世界の生き物だ――美しかったり、気持ち悪かったりするが、とにかくとんでもなく敵対的だ。そして、こいつは間違いなく神だろう。ただし、大きさからいって地位の高いものじゃない。

 ただ、どんなに地位が低かろうが、神なら悪忌ごとき念じただけで殺せるものだ。イクウクは屑山をあわてて後ずさりしたが、棍棒代わりの瓶は振り上げたままだった。
恐るるな。」とその生き物は言った。「我に命じることありや?

 イクウクは、逃げ出した時にどれだけ遠くまでいけるかを考えながら、一瞬立ち止まった。そんなに遠くには行けそうにない。
「おまえは神だ。」 彼が言葉を搾り出した。

 燃え盛るおたまじゃくしであるその生き物はうなずいた。できるのなら、その目で瞬いただろう。「かつては大いなるものの一部なれど、今は小さきもの。我に命じることありや?

 イクウクは下がるのをやめた。物漁りの悪忌は地位は低かったが、助けとなる神がいるという話も知っていた。特に彼の頭に浮かんでいたのは、火の神を助けたことで偉大なる力を手に入れたといわれている悪忌、笑うリコの話だった。笑うリコは悪忌の中でも偉大なる巫となったが、多くは彼はほとんど火の神の飼い犬みたいなもんだと考えていた。

 こいつは火の神に見えるし、友好的にも見える。偉大なる力という考えは実に魅力的だ。

 「どうしてまた、」と悪忌はゆっくり言いながら、考えをかき集めていた。「どうしてまた、瓶の中なんかにいたんだ?」

 「我は小さきもの。」と燃える胎児が答えた。「大いなるものより刈られしもの。我はある者に抗わんとせしが、その者によって囚われぬ。何を恐るるのか? 神は生あるものに良き精霊にあらずや?

 「昔はな。」とイクウクは言いながら、瓶をほんの少し下げた。「昔の、爺さんの時の話だ。今は神は生きてるやつらと戦ってて、呪文で縛り付けるとか、生け贄をよこせとか言ってるんだ。」
何ゆえに?」と瞬きせぬ精霊が尋ねた。

 悪忌は幅の広すぎる肩をすくめた。「知らないよ。でも悪いのは人間だろうさ。いつだってそうなんだから。」

 精霊はわずかにはぜる音をさせたかと思うと、イクウクの前まで空中を進んで来た。そして言った。「我は長い間離れており。かくも長くば、大いなるものも我を許し給う。
 「お前の大いなるものとやらはもういないだろうさ。」
「さもありなん。」 再び、実体の無い肉体のはぜる音がした。「いずれにせよ、我を解き放てしはおぬし。その労に報いん。我に命じることありや?

 イクウクは口を開いたが、何か言おうとしたときに屑山のはるか向こうから別な声が聞こえてきた――彼の耳に聞こえてきた重々しい、耳障りな声に、彼の魂は恐怖を覚えた。他の悪忌だ。朝に寝ていた他の物漁りが、今になって屑山に降りてきたのだ。それでも悪忌一体ならイクウクだって勝負になるだろうが、相手はどうやら徒党を組んでいるようだ。彼が見つけたものなどあっという間に取り上げられてしまうだろう。

 イクウクは屑山を越えてくる人影たちに向かって瓶を振り回した。「俺を守ってくれ!」と彼は叫んだ。できるだけ恐怖の声が口から漏れないようにしたつもりだ。

 「仰せのまま。」と燃え盛る精霊は言い、坂を上りきろうとしている人影の先頭めがけて動き始めた。

 先頭にいたのはフーフーと言う名の大柄でがっしりとした肩の乱暴者の悪忌だったが、彼の頭で赤く燃え盛る炎が爆発したとき、彼は叫び声を上げた。彼は自分の顔やら耳やらを大きな手で叩いていたが、あっという間に倒れこみ、地面でくすぶりの煙を上げた。悲鳴は泣き言となり、湿った雑音となり、最後にはまったく聞こえなくなった。

 他の悪忌は全部で四人いたが、突然起こった出来事に何も言えずに固まっていた。が、それも一瞬のことだった。二人は叫びながらイクウクのほうに駆け込み、もう二人は叫びながら洞窟の入り口に逃げ帰った。精霊は再び動きを見せ、四人の頭すべてに赤い炎がはじけた。彼らはみんな地面に倒れ、彼らの最期の呪いの言葉ははぜる炎の中に消えていった。
イクウクは口ごもりながら言った。「何をしたんだ?」

 「おぬしを守りたり。」と炎の雲に包まれたまだ生まれざるものは言った。「それを望まずや?

 「いや、その通りだけど。」とイクウクは言い、頭を振った。丸焦げになりたての物漁りは取り引きでは競争相手だが、彼らにも家族がいる。家族がいることや、今の事実(イクウクには新しい炎の友人がいる)やこの場の証拠(彼らの兄弟が黒焦げの死体で見つかる)を考え合わせれば、結論は明白だ。「そうじゃなくて、」と彼は再び頭を振った。「危ないことに遭わないようにしなくちゃいけないんだ。」
 「我はおぬしを守らん。」 精霊は微笑みながら言った。イクウクはその時になって初めて、その精霊には、炎の中に浮かぶ目のように、青銅の三角形のとんでもなく鋭い歯があることに気がついた。

 「守るんだよ、そうさ。」と悪忌は言った。「でも、そうしろって言うまで誰も傷つけちゃ駄目だ。いいか?」

 精霊は彼をぼんやりと見つめていた。イクウクは自分がこの生き物の理解の能力を超えてしまったんじゃないかと思ってしまった。神は強力だが、生あるものの世界のやり方とか考えをよくわかっているとは限らない。

 特にこの神は、他よりも長いことこの世界を離れてたみたいだ。しかし、それはうなずいて言った。「我はいかほどの間おぬしを守るや?

 イクウクは、その地位の低さにもかかわらず、こいつは駆け引きだと思った。永遠になんて言えば、神は憤慨するだろう。憤慨した精霊はろくでもない事態を巻き起こす。これがたとえ「自分の一生の間」なんてものだとしても、そんな一生はすぐ終わってしまうことだろう。そこで彼は代わりに「一年と一日の間だ。」と言った。

 そう、これがいいんだ。瓶の中に永遠と思える時間閉じ込められてたやつにとって、一年と一日ぐらい何だってんだ? 一年と一日あれば、彼にだってこの精霊の何たるかが十分わかるだろうし、憤慨した神からどの程度身を守れるかも理解できるだろう。

 「一年と一日。」と燃え盛る生き物は繰り返した。おたまじゃくしの尻尾は前後に揺れ、見た目上は満足しているようだった。「充分であろう。
「それともう一つ。」と悪忌は言った。「やつらにやったことだけど、」 彼は、かつては物漁りだった煙を上げる物を指した。「俺にはするな。絶対だぞ。」
思いもよらぬ。」と神は答えた。
「さて、」とイクウクは言った。「ここから離れなくちゃ。」
何処へ行かんと?」と精霊が尋ねた。
「離れるんだ。」 悪忌は繰り返した。「ここからだ。」 彼はもう一度考え直した。神を従わせるためには、何か強力な古代の道具が要るだろう。そう、それに違いない。彼は精霊に瓶を振り回しながら言った。「ずいぶん瓶に封じられてたんだろ?」
左様と見受ける。精霊が生あるものと戦せしとすなら。」と神は言った。
「それじゃ、昔の魔力のあった場所とか知ってるよな。」と物漁りが言った。
然り。しかれども、かの処すでに亡きものやも知れず。」と精霊が言った。

 「そうだろうな。」とイクウクが言った。「でも残骸ぐらいは残ってるだろうさ。そこに連れて行け。」

 それから八日の間、二人は西へ向かい、霜剣山の奥深くに入っていった。彼らはほとんど喋らなかったが、時折精霊が尋ねてくることがあった。
昨今の悪忌は如何にして生くるや?」と炎に包まれた生き物が言った。
「変わらないよ。」と悪忌は言った。「山で暮らすんだ。」
精霊を恐るるや?
「精霊はみんな怖いよ。」と悪忌は言った。
己が種の守護神でありとも恐るるや?」と神が尋ねた。
「守護神は特に怖いさ。」とイクウクが言った。

 精霊はしばらく黙っていたが、やがて言った。「守護の精霊は人々に対して良きもの。

 「たぶん、昔はね。」と悪忌は言った。「でも奴らはいかれちゃって、今じゃ大喰らいの化身さ。大蛇(おろち)の守護神は昔は美しかったけど、今は絡み合った蔦でできた緑色の長虫だ。鼠の守護神は昔は光り輝いていたけど、今は沼をうろつきまわる、すげえ顎に細い手足がついてるみたいなもんだ。空民(そらたみ)の守護神なんか言うに及ばずさ。」

 「おぬしの種の守護神は如何に?」とちらつく生き物が言った。「悪忌の守護神は?

 イクウクは肩をすくめて、そのことは考えないことにした。代わりに彼は言った。「他より良くも悪くもないだろうね。守護神とか、そういうすごい精霊は、今では猛獣よりも恐れられてるんだ。やつらは嫌われ、恐れられるものなのさ。」
燃え盛る悪忌の胎児のような神はそれには答えず、彼らは再び黙り込んだ。

 二日後、彼らはイクウクの知っている地を離れ、悪忌がほとんど踏み込んだことの無い荒野へと入っていった。精霊は炎を操り、まるで陽炎のように見せることで、周りの注意を惹かないようにしていた。
彼らは道中二度襲われた。一度は陽熊(ひぐま)に、一度は大峨(おおが)に。そのどちらでも、神は約束を果たして見せた。彼はイクウクの命を待って、襲撃者を念だけで屠ったのだ。イクウクは大峨から小刀を奪ったが、それは彼にとっては脇差になった。陽熊からは新鮮な肉が手に入った。

 そして彼らはようやく古代の山へとたどり着いた。山頂は洞窟で穴だらけになっていた。イクウクの目にはそれは様々な悪忌の文明のように見えたが、そこには伝統的に地面に積もっているはずの塵の山が無かった――このうち捨てられた居住地の住人は、塵を捨てるのにもっと適した場所を見つけたのだろうか?
「ここがその場所?」とイクウクが言った。
「然り。」と神は言った。その声はため息のようだった。

 「もうずっと昔に捨てられたみたいだな。」とイクウクは言った。彼はその中の宝物を夢見ていた。

 「然り。」と神が言った。今度はその声は間違いなくため息そのものだった。「その様子。
 しかし、大広間から数百()ほど入ったところで、イクウクは自分の推測が間違っていたことを知った。闇に包まれた人影が暗がりから姿を現し、細い指が強い力で彼の腕をつかみ、彼の膝の裏を靴を履いた足が蹴飛ばしてきたのだ。彼はそれに気づく間もなく後ろに投げ出され、神の守りを呼ぶこともできなかった。彼の目の前には、背の高い金色の頭飾りをつけた悪忌の姿が映ったが、すぐさま目の前に棍棒が向かってきて、その後しばらくは意識が真っ暗になってしまった。

 イクウクが目覚めたとき、彼は動くことができなかった。彼の手首と足首は、斜め十字の形の枠に強い紐で縛り付けられていた。彼が目を開いたとき、足元に大きな穴があることに気がついた。

 それは地の裂け目で、山の奥深くに続いている。山の原初の炎が彼の足元でちらつき、奥底からの長い影が上向きに伸びている。彼がいるのは、目下の深淵の端からはみ出すように危なっかしく伸びている岩の上だった。

 彼の上には太鼓の陣列があり、見上げると、洞の上の端から見下ろすように別な悪忌が並ぶ姿があった。下からの彼らはまるで大峨のように恐ろしく、その悪忌の多くが棍棒を持った悪忌と同様の派手な頭飾りをつけているのがイクウクには見えた。

 彼はあえぎ声を上げた。下からの熱にあおられ、喉がからからになっていた。「精霊!」
 「ここに。」 銅の目と歯の燃え盛るおたまじゃくしの姿が、彼の数(しゃく)前に浮かび上がった。
「何があったんだ?」
おぬしは襲われ気を失いたり。」 神は大きなまばたきせぬ眼差しで答えた。
「守ってくれるはずだろう!」 悪忌は声を荒げた。

 「然り。」と神は言った。「しかれども、おぬしの同胞屠りし時のおぬしの応じ悪しければ、此度はおぬしの命じ待ちたり。おぬしは気を失いて、我はおぬしの気づくを待ちたる。
「守ってくれるんだろう?」とイクウクはかみついた。

 「彼奴らはおぬしをただちに殺さんとせし。」と精霊は落ち着いた口調で語った。「しかれど、我姿を露とせし時、彼奴ら意を変えぬ。彼奴ら、おぬしをここに運びたり。かくして、然り、我おぬしを守りぬ。
 「じゃあ、今守れよ。」 囚われの悪忌は怒鳴り声を上げた。「俺をここから逃がして、やつらを皆殺しにしろ。すぐにだ!」

 神はイクウクの隣に浮かんだままだった。覗き込んでいる悪忌の一人も燃え上がることはなかった。金の頭飾りの一人とてもだ。
「おい?」とイクウクが催促した。

 「我にはあたわず。」と精霊が言った。その声には後悔の念があった。「我らの居りし処は偉大なる精霊の御許。我がおぬしに仕えるのと同様のはるか高みの神の御許。

 「危ないことに遭わせないって約束したろ!」とイクウクは叫んだ。声には恐怖が混じり始めていた。

 「然り。」と精霊が言った。「我は誓いを守らん。我は労に報いん。我は我が誓約を守るにかくも細心を払わん。我を信ぜよ。我はおぬしに仕えるもの。我はおぬしを危難より守る。
精霊はそう告げると、炎を傾け視界から消えた。

 イクウクは呪いの声を上げたが、そんなことをしても精霊は戻ってこず、彼はそれがいた空間に向かって喋り始めた。「戻って来いよ。ここから逃がしてくれないと、話が始まらないだろう。」
我は誓約を守らん。」とイクウクの頭の中に精霊の声がした。

 頭上で太鼓が再び鳴り始め、今回はそれに荒々しい角笛が音を合わせてきた。それはこの洞窟が最初に穿たれた時よりも前に絶滅した動物の骨を彫った物だ。詠唱がその音に重なり、さらにはすさまじい悪忌の叫び声や喚起の声が入り混じってきた。上段では、あちこちの突き出た黄金の頭飾りと赤黒の衣服をまとった悪忌の僧侶が、絶壁の縁で跳ね踊っている。
「何が … … 、」 イクウクの喉は焼け付くようだ。「何が起こってるんだ?」
おぬしの守護神の何を知るや?」 頭の中に慣れ親しんだ声が聞こえた。
「知らないよ!」 イクウクは哀れな声を上げた。頬には涙が流れている。

 「おぬしは他の守護神を語れども、自身のものは語らず。」と炎の胎児の声が言った。「おぬしの守護神の何を知るや?

 イクウクはあえいだ。「それは山ほど大きくて、雪崩ほど強くて、溶岩の爆発ほど熱いんだ。」 悪忌はだんだん熱くなってくる空気の恐怖を抑えこんでいた。「俺たちの守護神は物漁りの主で、最も偉大なる戦士で、最強の弱いものいじめだ。でも彼は倒され、今じゃ悪忌を嫌っていて、飢えの化身でしかなくなって… … 」 悪忌の目が大きく見開かれた。彼は状況を理解したのだ。「嘘だろ。」

 「左様。」と精霊は頭の中で言った。太鼓の音はいっそう大きくなっていた。「神は呪文にて囚われ、生け贄でなだめられる。
「危ないことに遭わせないって約束したろ!」
「かくさしめん」と神が答えた。

 穴の奥深く、何か大きな悪意あるものがうごめき、光と影の帯が地割れの壁を這い上がってきた。空気の熱は耐え難くなってきて、はるか下では轟音がとどろいている。

 轟音は激しさを増し、太鼓の響きと競い合い、また覆い隠すようだった。穴の壁にはさらに影が這い登ってきていた。それはより大きな何かが深みから訪れる前触れだった。

 イクウクは精霊の助けを求めて怒鳴り散らし、守りを願ったが、彼の声は地割れの奥深くから悪忌の守護神が現れるとともに巻き起こる不協和音にかき消されていった。

 それは巨体で恐ろしく、また美しい姿で、その身体は山そのものの心臓から鋳出されたようだった。その色は溶けた青銅で、やすりのような歯の並んだ内臓は血の色に光る柔肉だった。頭は巨大な甲頭亀の形で、曲がった嘴は大きく開き、捻じ曲がった不ぞろいの歯を見せている。尾の先は山の深みの先へと消えていた。開いた丸い口の周りには生命ある松明が踊り、神々しさを増している。獣の瞬きせぬ巨大な瞳は憎悪に満ち、その頭の周りにはちらつくかがり火が花輪のように取り巻いていた。
それはかの者たちの守護神であり、美しく恐ろしく、破壊的であった。

 イクウクは悲鳴を上げた。彼は意識の片隅で、守護神の周囲を巡っている炎の姿が、生まれる前の悪忌の姿のおたまじゃくしの様であり、燃え盛る胎児にも似ていることに気づいていた。

 守護神は囚われの悪忌の上に、蛇が鎌首をもたげるような姿で立ちはだかった。その瞬間、イクウクはすべての太鼓が鳴り止み、彼自身の枯れ果てた叫び声の他は何もかもが静寂の中にあることを感じていた。彼が叫んでいたのは呪いだったのか、嘆きだったのか、祈りだったのか、いずれにせよそれは無駄なことだった。

 その時、獣であり、偉大なる神であり、悪忌の民の精霊であるものが彼の上に覆いかぶさってきた。彼はいまや真剣に素早い慈悲ある死を祈っていた。

 守護神はイクウクを一呑みにし、彼は永遠の偉大なる精霊の腹の中に転げ落ちていった。彼は喉がひりひりになるまで叫び続けた。しかし彼が底に到達することはなく、彼はひたすら転げ落ちていくばかりだった。彼はその後も気絶と目覚めを何度か繰り返しながら、その神に関して覚えている知識をかき集めていた。自分が呼び出した、最初は炎の精霊で、次には大きな頭の人型の炎になったやつ。

 その声は頭の中に響き、その姿は血のように赤い闇を裂いて彼の隣に浮かんでいる。
イクウクは残った意識で彼を呪い、叫び声をぶつけた。「裏切り者!」 彼は罵りながら懇願の声を上げた。「助けてくれ!」
我は誓約を守らん。」 ちらつく姿の精霊が静かに言った。

 「獣なんかに食わせやがったくせに!」とイクウクは叫んだ。彼の正気は、いまや笊からこぼれる砂のように失われていった。

 「我はおぬしに安らかき処を与えん。」と神は言った。この小さき神。偉大なるものの最も小さき欠片。「我が胃の腑の他に、かくも安らかき処があろうか? おぬしを襲う悪忌も無く、不意打ちする大峨も無く、おぬしの財を奪う敵も居らぬ。おぬしをここに連れしことにて、我もまた大いなるものに許され、その一部に戻りぬ。おぬしはここにて一年と一日の間は安らかき。

 「しかして一年と一日過ぎしても、」と神は言った。「おぬしが焼かれる事はなし。我はそをおぬしと誓約す。我はおぬしの肉を骨より一片ずつ引き剥がせしも、おぬしを焼く事はなし。」 その時、守護神の欠片であるその神は、炎の胎児の姿に鋭い三角の青銅の歯を見せながら笑みを浮かべた。

 イクウクは意識の最後の一片で叫び声を上げ、己が守護神の腹の赤い闇の中へ落ちていった。その叫び声は、おそらく一年と一日は続くのであろう。


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