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安倍首相の外交手腕
専門家集め北朝鮮会議開催を
FujiSankei Business i. 2006/10/26

 安倍晋三政権成立後1カ月だが、日本外交が輝きを取り戻している。東京にいる外国人情報専門家たちは「率直にいって、小泉前政権と同一国家の外交か、にわかには信じられない」と感想を述べている。筆者は「その秘訣(ひけつ)は安倍官邸が外務官僚の能力を十二分に引き出しているからです。キーパーソンは谷内正太郎外務事務次官です」と答えている。

 外部からは見えにくいが、日本外交を下支えするのは外務省課長クラスの官僚だ。課長がしっかりした人物だと、首相や外相の政策を外交の「ゲームのルール」に従った言葉に転換し、国益を実現することが可能になる。外務省の中国課長には中国語を専攻したキャリアの外交官(いわゆるチャイナスクール)が就任することが不文律とされていた。だが、専門家は視野が狭くなり、特にチャイナスクールの場合は中国当局者と腐れ縁があるので、いざけんかというときに毅然(きぜん)たる対応がとれない。

 その辺の事情もあって、夏の人事で英語研修の秋葉剛男氏が中国課長に就任した。チャイナスクールは猛反発したが、谷内次官が押し切ったという。その結果、チャイナスクール内部にも危機感が走り、中国との「なれ合い外交」を続けているとスクール(派閥)が崩壊してしまうと考え、緊張感をもって今回の日中首脳会談を準備した。

 派閥を守ろうとするのは自己保身に過ぎないが、官僚を動かすには国益と自己保身の上手な連立方程式を立てることが不可欠だ。谷内・秋葉ラインは見事にそれを実行した。例えば、温家宝首相との晩餐(ばんさん)会で安倍首相が行うスピーチに対し事前に中国側が変更を求める事態があった。安倍氏は中国側の要請を拒み、スピーチを中止した。従来のチャイナスクール主導外交では首相に頼み込み何とかスピーチを行う体裁を整えただろう。秋葉課長だからこそ対応が変わった。

 その結果、日中関係が悪化したわけではない。むしろ9日に「中国政府より在中国日本国大使館に対し、北朝鮮が間もなく核実験を行うであろう旨の事前の情報伝達が行われた」(20日付内閣答弁書)という成果をもたらしている。中国による理不尽な要求を安倍首相が拒絶したので、むしろ中国は日本に対して一目置き、情報協力を深化させたのだ。

 秋葉中国課長と比較すると、北朝鮮を担当する山田重夫北東アジア課長は少し線が細いので心配だ。鈴木宗男氏が官房副長官をつとめていたころ、山田氏は鈴木氏の覚えをめでたくしようとして、手書きの手紙を持参したりした。しかし、02年に宗男バッシングが始まると、その流れを作るのに陰でいろいろ画策した。このような外務官僚に金正日を相手に的確な戦略を立て、また腹を据えた毅然たる交渉ができるのか実に不安だ。

 これからは官邸主導で組み立てた戦略を外務省がきちんと遂行するか監督することが重要になる。日本人はインテリジェンスについて自信喪失に陥っているが、世界の情報のプロたちが北朝鮮の核実験後、東京を訪れ、精力的に情報収集活動をしている。民間部門に北朝鮮に関する貴重な情報がたくさんあるので、それを拾い集めているのだ。

 そこで提案がある。北朝鮮に関する日本の専門家100人を集め、4日間、ホテル付きの会議場に缶詰めにして、北朝鮮の政治情勢、拉致問題解決の展望、金正日の内在論理、経済状態、軍の動向、核実験に対する国内報道の状況、日本の取るべき政策などについて徹底討論するのだ。この会議には、政治的立場がどうであれ、アカデミズム、論壇などで認知されている専門家すべてに声をかける。

 佐藤勝巳現代コリア研究所長、重村智計早大教授、西岡力国際基督教大教授、高崎宗司津田塾大教授、和田春樹東大名誉教授など普段は顔を合わせない人々を集めるのだ。最初の3日間はマスコミには遠慮してもらい全体会合と分科会で率直な意見交換をする。そして4日目に報告を行い、そこには産経新聞から朝日新聞、『正論』『諸君!』『世界』『週刊金曜日』まであらゆる政治潮流のメディアに門戸を開く。わずか4日間の会議で、日朝研究を政策に反映させるための基礎が整う。ここには秘密情報は何もないし、予算も数千万円で済む。現時点でわれわれが持っているカードを少し組み替え、国益のために使うというのがインテリジェンスの定石だ。

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 同志社大学大学院神学研究科修了。外務省入省。ソ連崩壊を挟む1988年から95年まで在モスクワ日本大使館勤務の後、本省国際情報局分析第一課へ。主任分析官として活躍したが、2002年5月、背任などで逮捕。05年2月に執行猶予付き有罪判決を受けて控訴中。著書に「国家の自縛」(産経新聞社)など。46歳。東京都出身。


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