山本直樹/最終的には「死」が僕のテーマなんだと思う
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 山本直樹は、たぶん、いまの日本のマンガ界において、もっともちからのある描き手と思う。いや、マンガに限らず、小説や映画を含めたフィクション表現の中でも、現在を生きている、ふつーの人間の「壊れていてむしろふつー」な心象風景を、山本直樹ほどきちんと、娯楽性も兼ね備えて、描けている表現者はそんなにいないんじゃないか?
 山本直樹が描くのは、時代の最先端に蔓延する気分ではなくて、もうすこし広いスパン――高度成長期が終わって以降の日本、というようなスパン――で共有されている人間の内側の有り様であり、それはさらにもっと普遍的な人間の悲しさ、無常観にも繋がっている。彼の興味は常に人間にあり、そのあまりの存在のしょーもなさにニヒリスティックな眼差しを向けるのだが、それでもやはり人間に興味をいだいてしまう。この「しょーもないヒューマニズム」が濃縮されたものが、山本直樹の描く、あの素晴らしいエロ・シーンになっている。
(のだが同時に、ただ単純にスケベは楽しい、というのも山本直樹の本質であって、楽しいがしょーもない、しょーもないが楽しいという、アンビバレンツが山本直樹のマンガにはある。だから彼のマンガからテーマだけ読み取るのは読み方としては本道ではない。スケベにグッと来なくてくてはならない。余計なお世話だが)

 『HotWired Japan』でも『武蔵野緑地帯潜入記』を連載中の山本直樹が、なんと4年ぶりに、週刊連載を始めた。ビッグコミック・スピリッツの『ビリーバーズ』だ。無人島で、2人の男と1人の女が、共同生活を送っている。どうやらこの3人はなんらかの信仰集団のメンバーであって、無人島である種の修行を行っているようだ。外部との通信手段はノートPCとインターネットだけ……。彼はなぜいま、再び、週刊連載に踏み切ったのか? なにが描きたいのか?そして、未だ登場していない『ビリーバーズ』のエロの行方は?

 ひとりでやれるようになってから、
マンガを描くのが楽しい

――『ありがとう』が終わって以降、作風がすこし変化したような気がするんですが、どうですか。『フラグメンツ』はまさにそうですが、日常と非日常が融け合ったような幻想的なものが多くなったよう思えるんですが。

 自分ではあんまり意識していないんですけどね。『ありがとう』のあとは読み切りのものばかり描いていたんですね。そのせいじゃないかな? 僕は自分では読み切りの方が得意だと思ってるんですよ。『BLUE』に収録されているような作品。読み切りだと失敗しても、失敗だーっ!ていって一回で終りだから(笑)。
 ……あとは、ひとりで描きはじめたっていうのも関係あるのかも知れないけど。



ありがとう
(小学館)

――ひとりだとまったくノイズが入ってこない状態ですよね。

 家族のノイズは思いっ切り入りますけどね(笑)。ま、でもそうですよ、ネーム考えているときに脇に誰もいないっていうのはね、いいんですよ。いつもドタバタでやるから、アシスタントに来てもらっていたときは、アシスタントが来てもまだネームができていないというような状態で。いまから思うと、すごくそれが精神衛生上よくなかったですね。



――ひとりでやるようになって作品の質が変わった自覚はないですか。

 自分ではストーリーとかはそんなに変わったとは思わないんですけどね。でも、絵は当然変わりましたね。



僕らはみんな生きている
(小学館)

――Macを使い始めて……。

 そうですね。ペンで描くのをいっさい止めて、タブレットで全部描くようになったから。そのタブレットももう、ペンタッチとか出すとめんどくさいから、タッチの出ない、要するにロットリングの細いので描くような、均一のタッチで全部やってる。ドットが1の線で全部描いているんです。よーく虫眼鏡で見ると、線がギザギザになっている。



――そういうタッチが気に入った。

 うん、細い固い線っていうのが前から好きだったから。



BLUE
(弓立社)

――最近はMacで描く漫画家の方も増えてきたようですが、むしろ、高解像度でまったりとした絵の人が多いですね。山本さんの手法はまさにその対極にある。

 うん、300dpiぐらいの線のギザギザなほうが気持いい。それ以上細かくすると、作業するときに全体が見渡せなくなるし。すごくでっかいディスプレイがあればいいんだろうけど。



――Macで描くのは楽しいですか?

 楽しい。というか、ひとりで全部やるのが楽しいんですね。ひとりでぜんぶやるための道具ですからね、Macは。……漫画を描くのはね、楽しいですよ、やっぱり。ひとりで描くようになってからですけどね。



あさってDance
(弓立社)

――細部まですべて自分の手で作れる。

 マンガ家を始めてすぐに急に仕事が増えたから、それ以来ずーーーっと。最初の頃は友だちに手伝ってもらったりして、必ず誰かに頼って描いてたからね。でもほんとはベタもひとりで塗りたかった。いいかげんでもいいから背景も自分で描きたかった。それができて今は幸せですね(笑)。



――じゃあ、念願の環境ということなんですね。

 はっきり意識し出したのは、『ありがとう』のちょっと前ぐらいからかな。ひとりでやるためには、Macがいい道具になるなと思って計画練ってたんです。
 そのときはまた週刊連載やろうなんて、全然思ってなかったから。週刊はもう二度とやらないって思ってたから(笑)、Mac使ってひとりでやっていけるだろうと。


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フラグメンツ
(小学館)








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