9.必殺シリーズ
(2003/06/03)
現代性取り入れ常識覆す
「今しか、それに、これしかないんや」。一九七二年夏。朝日放送プロデューサー山内久司=当時(40)、尼崎市=は、受話器を手に言い張った。「こんな時代劇をつくってはいけない」という当時の系列キー局・TBS側の猛烈なクレームにがんとして譲らない。
当時、土曜夜九時台は時代劇「木枯し紋次郎」(フジテレビ)の独壇場。が、主演の中村敦夫のけがで同年四月から半年間、代役となっていた。
「紋次郎より新しい時代劇をつくり視聴者を奪うチャンスなんや」。TBSを強引に説き伏せた山内は、三話を同時に撮影させ、わずか二カ月で放送開始にこぎ着ける。その後二十年にわたって続く「必殺シリーズ」の誕生である。
抵抗にあったのも無理はない。それまでの時代劇といえば、悪人を倒すのは善人で、金はつねに悪人に付いて回るというパターン。ところが今度の主人公たちは金をもらって悪人を殺す。殺し方も、指で骨を折るは、かんざしで首を突くは、の奇想天外さ。さらにはそのさまをエックス線写真風に映しだし…。
しかし、視聴率は、シリーズ第一弾から「木枯し紋次郎」を抜いた。そして第二弾で登場した中村主水(藤田まこと)を巡る家族模様が人気に拍車をかける。主水は剣の達人だが、仕事ぶりはさえず、しゅうとめや妻は彼をいびる。ホームドラマさながらの展開に、視聴者は登場人物に自らを重ね、平均視聴率は30パーセント(関西地区)を超えた。
斬新な演出も衝撃的で、「影の軍団シリーズ」(関西テレビ)など荒唐無けいな作品を生み出す契機となった。
「水戸黄門」(TBS)はじめ、勧善懲悪が当たり前だった時代劇。藤田(70)が振り返る。
「普通の時代劇なら断っていた。主水に魅せられ、何やよう分からんけど、おもろうてたまらんかった」
現代性を取り入れた枠にはまらない傑作は、時代劇に新しい世界を切り開いた。(敬称略)
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