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義務の縛め

エド・スターク
Translated by Yoshiya Shindo

 扉が開いて武野宗継(たけのむねつぐ)が大広間に大股で入るやいなや、廷臣達の囁きはぴたっと止んだ。頑健たる砦の内側、永岩城(えいがんじょう)の中心にいて、大名に最も忠実な衛兵に守られているときですら、武野は常に鎧甲冑を着込んでいる。揃いで正守(まさもり)と名づけられた刀と脇差は彼の脇に据えられ、精巧に飾り付けられた胴丸と大名の衛兵の兜とがその身につけられていた。白と黒の文様は部屋の優雅さに反して質素なものだったが、武野の険しい顔や黒い髪と髭は、最も豪華に飾られた衣服などよりも、侍の大将たる者が身につけるべきものを語っていた。

 武野は一人でこの間に入ってきたわけではなかった。兜を除いては同じ装いの二人の大柄な侍が、長い薙刀(なぎなた)を抱えて彼の後についてきていた。公式には、彼らは大名の旗本たちで、あらゆる危険より君主を守り、彼の政を推し進めること誓っている。そして裏では、彼ら二人にさらに別の四人を加えた面々は、武野の個人的な護衛の任務についている。大名は武野をあらゆる面で気に入っていて、この護衛もその証左に過ぎない。

 廷臣たちもそのことを理解していて、武野が広間を進む間、誰も何もしゃべらなかった。大名の大座は空だったが、この侍はその右に進み、この時にもなお彼の君主を守っているかのようにそこに立った。武野の護衛はその傍らに並び、静かにその光景を見張っている。

 「武野殿?」

 武野は誰もいない大座の向こうを見やり、かろうじて冷笑を抑え込んだ。自分が侍として大名の側近から一人気に入りを選ばなければいけないとしたら、伏見敦盛(ふしみあつもり)は最初に切り捨てられるだろう。彼はこの地位に達したのは血筋によるものだけで、それ以外では廷臣とはなりえなかったはずだ。事実、君主今田(こんだ)が彼をこの場に呼ぶこともまれだった。大名は伏見を蛇と呼び、あるいは地虫と呼び、時にはさらにひどいことも言ったが、公の場で彼が非難されたことはなかった。彼がこの場にいて、なおかつ武野に話しかけるという大胆な行為に出ている事実は、大名が今日は広間に姿を現されないだろうということだと武野は悟った。

 しかし武野が伏見をどう思っていようと、侍としての自分は大名の家来であって、それ以外の何者でもない。「何かな?」 彼はできるだけ品格を保って答えた。

 「殿、古平(こだいら)の村より使者が着いております。何や厄介事が起こったように見えまする。村人は助けを求めておるようで。」

 「古平と?」 武野はきれいに剃り上げた顎を撫でた。「そこには我が軍の張りの者がおるはずでは?」

 伏見はうなずいた。「さようで、殿。」と彼は言った。その声は世辞に満ち、武野が嫌悪感に思わずたじろぐには十分だった。「確かに、わずかではありますが。二十はおらぬかと存じます。ほとんど飛脚の継ぎ場程度。」

 「着いたのはいつじゃ?」

 その脂ぎった小男の廷臣はしばし考え、言った。「明け方かと存じます、殿。あるいはその直後か。その姿のすさまじきこと! 全身泥まみれで、さらに――」

 「明け方じゃと?!」 武野はうなった。広間は再び小声が満ち始めたが、それも突然止んだ。「明け方とな?! 二刻も前ではないか、この痴れ者め!」

伏見は縮み上がり、武野から退いた。彼の姿があまりにも恐ろしげだったために、武野の後ろに控えた二人の護衛が一歩前に進みだした。それはまるで何らかの暴力沙汰が起きる寸前のようだった。武野はこのでたらめさを呪い、苦労しながら声を静かに落ち着かせようとしていた。

 「何故誰もただちに知らせぬ?」と彼は尋ねた。その声は静かではあったが、まるで馬車の車輪が砂利道を行くような音でもあった。

 「それは……単なる張り場にてございます、殿。お手を煩わすまでもなく。」 伏見は早口でしゃべりまくった。そして彼は、広間の右手の扉を指差した。「殿、彼は控えの間におります。お望みとあらばご自身でお目にかかられては。」

 「もちろん、自分の目で確認するわ!」 武野は縮み上がっている小男を押しのけ、その後に護衛が続いた。彼の心の内は怒りでかんかんだった。世の中には追うべき手順なり、従うべき命令なりがある。伏見が己の命に従うのであれば、真っ先にそっ首叩き落してくれようものを。

 だがしかし、彼に命を下すは己ではないのだ、この愚か者めが! 武野は自分に念を押した。命令なり手順なりはこの馬鹿な廷臣にとってはわずかなものに過ぎないのだろうが、それらは武野にとっては生きる源であった。彼は城周りでの規律の無さに怒りを覚えながら、扉をぐっと押し開けた。この事を君主今田に伝えねば。伝えなければ――。

 大名の大広間の脇には、個人的な協議のための控えの間が数多くあった。そのうちいくつかには、城の他の場所に通じている秘密の通路があり、この部屋もそんな一つだった。確かこの部屋の通路は、厨房に直接続いているはずだ。その記憶は確かに正しかったようで、その先に見たのは、乾いた泥にまみれた田舎の装いの若い男が疲れた様子で握り飯を噛みしめている光景だった。

 武野はその場に思わず立ち止まり、怒りで目の前が赤く染まり始めた。若い兵士は兵糧から目を上げ、そこに武野の眼差しを見つけると、彼の突然の登場に椅子を蹴倒して慌てて立ち上がった。彼の顔は真っ赤になり、一瞬椅子を直そうかと動いたものの、大名の護衛の鎧を着込んだ人物の前に、ここから退散したほうが無難だと思いなおした。彼は立った姿勢で硬直したまま、頬に詰め込んだままの飯を飲み込もうとすらしていなかった。

 武野は部屋に入り込むと、まっすぐ若い兵士の方に向かった。

 「これが目上の者に対する態度か、若造?」 彼は危険な低い声で尋ねた。

 少年は見る影も無かった。よく見ると、彼の顔と手はきれいになっていた。彼は答えようとしたが、いささか喉が詰まっているようだった。

 「まず飲み込め。」と武野は器に入った水を手渡しながら、落ち着いて語った。 その少年は水を取り、慌てて飯と一緒に飲み込んだが、硬直した身体が緩む様子は無かった。

 「で、貴様は上の者に顔見せするよりも、飯の方が大事だと抜かしよるのだな? 答えろ、小僧!」

 「いえ、違います。決してそのような……」

 「黙らんか!」 武野は激怒して言った。

 少年は躊躇して武野を見やったが、やがて前に一歩出た。「殿、私は報告にまいり、ここに連れられました。しかしここに来たのはこの飯と水を持ってきた女中だけです。少しはきれいにしようと思ったのですが……」 少年は証拠に手を上げて見せたが、武野のしかめ面は険しさを増した。

 しかし、顔からは赤みは消えていた。少年が着ている服は飛脚の物だ――軽い鎧に補強された縫い目の皮の下穿き、飾り帯には普通は騎馬弓かおそらく槍がつくのだろう。しかし、城の内側では大名の護衛以外は武器を持つことはできない。いずれにせよ、少年の武具は泥まみれではあるがきちんとしていた。武野は文句をつけた。

 「よかろう。ただし、身につけるものには気を使わなくてはいかんぞ、小僧。鎧にも自分にも気を使うのだ。さあ、そこに座って、古平で何が起こったのかを伝えよ。」

 若者は一瞬戸惑ったが、武野が丸椅子に腰掛けた時、彼も自分の椅子を直してそこに座った。彼はまだ緊張していて卓からは離れていた。一瞬前にはあれだけ夢中になっていた味気ない食べ物のことはまったく忘れているようだった。

 「昨夜、凶悪な(ねずみ)の軍勢が村を襲いました。」と若者は報告を始めた。武野は彼の護衛の一人が息を飲む音を聞いた。彼には後で一言言わねばいかん。護衛の役目は守ることであって、会話を盗み聞きすることではない。それがどれほど衝撃的であってもだ。「やつらは徒党を組んでやってきましたが、我々はまったく気付きませんでした。我々が武器を取るより早く、彼らは村を占領し、多くの民を殺したのです。」

 「貴様らの斥候の目をどう逃れたのだ?」 武野は何気に尋ねた。

 彼は若い兵士が疲れて自己防衛的な口調で語っているように思った。「存じませぬ、殿。松田(まつだ)隊長は十分な数の見張りを立てていましたが、その目に止まらなかったか、あるいはあっという間に殺されてしまったのかと思われます。隊長は何らかの魔術が関わっているのではないかということを報告するよう私に言いました。ただ、隊長にも何の証拠も無いようです。」

 武野は注意深く聞きながらうなずいた。「よかろう。何か良からぬことが起きた時に魔術のせいにするのは容易きことじゃ。鼠人(ねずみびと)は元々潜み隠れるものだ。彼らが川のほうから忍び込んだとすれば、一番近い見張りが他に警告を発する前にこれを倒すも可能であろう。続けよ。」と彼は命じた。

 「松田隊長は三つの国に向けて助けを求めました。私は……私は他がどうなったかは知りません。しかし、私はここまで四刻でたどり着いたのです。」

 武野は感銘を覚えた。古平は荒場(あらば)から馬で一日ほどの距離だ。それも夜中に、夜目が利く――あるいは鼻が利く――鼠に追われながらとあれば、その倍はかかるだろう。この若者は特別なようだ。

 しかし、それはまた別な話だ。武野は状況を思案した。「我々が今から馬で向かえば、全力で行って午後には着くであろう。」と彼は言った。「村を救うには間に合わぬかも知れぬが、それでも……」

 「殿、」と、若い兵士が割り込んできた。「殿、何とかなるかもしれません。松田隊長は村人に、宿営地に入るよう命じました。ほとんどは鼠が町を制圧する前にそこに入ったようです。」

 「何と?!」 武野は立ち上がった。若者が答えるよりも早く武野は振り返り、護衛に指を立てて命じた。「衛兵を集めよ! 馬をもて! 一刻で出発するぞ!」

* * *

 武野は二十四人の大名の旗本の先陣を切って馬を駆った。その後には二十五人目が続いていた。疲れにも関わらず、その若い兵士――名を四郎(しろう)と言った――は部隊に加わることを強く求めた。武野はこの若者の熱意を認め、彼に新しい馬ときれいな鎧を与えたのだ。

 四郎の報告によれば、村を襲った鼠は少なくとも八十はいるだろう。夜であればさらにいることも考えられるが、武野は以前に鼠人と戦ったことがあった。彼らがわざわざ襲撃をかける場合、彼らは全力で村に襲い掛かり、砦を乗っ取ろうとするだろう。攻撃に参加したのが八十であれば、鼠は八十で全てのはずだ。

 大名の最強の侍が二十四人もいれば、戦うには十分過ぎるほどだ。

 彼らが古平の近くに来たところで、武野は指示をもう一度頭で繰り返した。六名の兵士は、かつては侍に嘲笑された長めの半弓(はんきゅう)を携えていた。それは近接戦でも威力を発揮できる武器として、武野が採用したのだ。半弓から放たれた矢は最強の胴丸を貫くことができたし、彼の射手が外すこともないだろう。

 残りの兵が持っているのは、長めの矛か薙刀だった。彼らは村に突撃して、見つけた鼠を片っ端から貫き、最後は刀で止めを刺すのだ。

 武野自身は大名の護衛の幌をまとっていた。彼らは兵士の先陣を切っていた。彼の前に兵士が立つことは無いだろうし、前に立つ鼠も無事ではないだろう。素晴らしい計略とは言いがたいが、話は早い。

 突撃は町の門の前から始まった。鼠は闇を好むが、大名の護衛が訪れたのは日中の明かりと暑さの下だった。彼らは森を抜け、川沿いを駆け抜けてきた。ここに至ってようやく鼠の護衛も何が起こったかを把握したが、その瞬間に彼らの胸には矢の花が咲いていた。 大名の護衛は、何も声を上げずに村に突っ込んでいった。武野は遥か昔に、気合の入った叫び声は戦いの最中に個人として集中する分には役に立つものの、長い突撃はむしろ静かであるべきで、そうすることで敵の気力がくじけていくということに気付いていた。今回の場合、ときの声を上げないことで、壁の上の鼠の見張りは矢の攻撃に直面するまで何も聞くことはなく、それはまさに二重の利点があった。たとえ柔らかい村の道を駆ける二十四騎の馬の蹄の音がしたとしても、それは小さな砦を罵り、叫びながら攻め落とそうとしている鼠人には聞こえないだろう。

 鼠は最後の瞬間に気がついたが、武野がそこに見たのは光る赤い目が恐怖に(鼠として目いっぱい開けるだけ)開いている表情だった。彼はすかさず刀を彼の首に深く叩き込んだ。鼠が倒れるとともに血しぶきが高く上がった。歴戦の侍は刃をひねって抜くと、泥に埋もれた黒い身体を馬で踏みつけていった。

 彼の兵士もあちらこちらで戦っていた。射手は馬を降り、鼠の隊列に向かって矢継ぎ早に射掛けている。射手は六人しかいないにもかかわらず、それはまるで兵団が混乱している鼠人たちに矢の雨を降らせているかのようだ。

 武野の護衛は彼に並び、類まれなる馬術の腕を見せていた。彼らは馬を左右に操ると、長い薙刀で敵を切り刻み叩き伏せている。馬上で使うのに適しているのは槍ばかりではない。武野の下で鍛えられている者たちは、その武器に関わらず馬を操りながら戦う術を心得ているのだ。

 ここに来て、武野はときの声を上げ、彼の兵に気合の叫びを送った。ほとんどは刀で敵を切り伏せていたが、中には背が低くてすばしっこい鼠に合わせて馬を降りて戦っているものもいた。彼らは武野の指示通りに二人組み、あるいは四人組で戦っていた。それを見ていた武野は突然の誇りが胸を覆った。

 しかしその誇りも、何かが後から彼の兜を撃ったことで痛みへと変わってしまった。彼の頭は兜が守ってくれたが、身体はしびれ、彼はうめき声を上げて鞍から落ちた。彼は柔らかい地面でしたたかに身体を打った。彼は起き上がろうとしたが足元が滑ってしまった。その時、彼の胸元に固くて毛だらけのものがのしかかった。

 「くたばれ!」とその生き物はつばを吐きかけ、鎖鎌(くさりがま)を振り上げた。武野は意識の中で、分銅が着いた鎖につなげられた刃が彼に突き立てられるであろう光景を見ていた。刃が彼の顔面めがけて振り下ろされた。

 しかし、その切先が届くことは無かった。茶色い何かが左側から鼠に襲い掛かり、横に跳ね飛ばしたのだ。その体当たりで生き物は武野の上から追いやられ、彼は肘をついて起き上がった。彼の右では四郎がほこりにまみれ、鼠の暴漢と争っていた。

 武野はまだめまいがしていたが、何とか立ち上がった。彼は脇差を抜くと――刀は別な場所に飛んでいた――前に進んだ。少年と鼠人は泥の中で絡み合い、噛み付き、殴り、つかみ合っていた。武野は少年を傷つけずにこの毛だらけの生き物に刃を突き刺す術を探した。

 彼が上を向いたとき、そこに宿営地の門が上がるのが見えた。武器を構えた男女の集団が、丘を下って姿を現した。その数は二十にも満たなかったが、大名の護衛の奇襲に加えれば、それで十分だった。まだ動ける鼠は川に向けて走り出し、逃げ出していった。

 しかし、武野が振り返ったとき、彼はその兵が遅すぎたことを知った。鼠の刃は四郎の胸を貫き、彼は息絶えていたのだ。彼は敵と相打ちになっていた――若い兵士は敵を捕まえ、鼠の顎から脳天に向けて刃を突き刺していたのだ。武野はひざを着いた。

 「殿!」

 武野は顔を上げ、前を見た。髪を戦士風に切り、きれいにひげを剃った色黒い男が、彼のもとに大股で歩いてきた。彼の刀には血糊がついていたが、それをぼろ布でぬぐうと、歩きながら器用にその武器をしまった。

 「武野殿ではありませぬか?」 彼は尋ねた。

 「いかにも」と彼は答えた。

 その男は深く頭を下げた。「殿、拙者が古平の張りを指揮しております隊長の松田にございます。」 彼はそこに絡みつく二つの身体を見て言った。「四郎は……四郎は殿のもとに着いたのですな。」 彼はつっかえながら言った。

 「彼はようやったわ、隊長よ。」 武野はそっけなく言った。「彼は義務を果たした。それだけ言えば十分じゃろう。」

 隊長は驚いて目を上げた。「殿――」

 「隊長よ。」武野は厳しい声でさえぎった。その声には怒りが混じっていた。「おぬしは今田様の見張り番としての任をもってここに就いておる。この砦は大名の領地じゃ。誰が村人をこの中に入れて構わぬと言ったのじゃ?」

 「殿? 拙者は村人を守ろうと、殿……」 彼は信じられないように口ごもった。

 武野は周りを見た。村の小屋は無傷の物もそこそこあったが、さらに多くが焼け落ちていた。その全てが略奪されていた。「法は存じておるな、隊長よ。こやつを縛り上げよ。」 武野の護衛は前に進み出て、凍りついた男の腕を取ると砦の中に引き立てていった。

 武野は地面に横たわった身体をまたぐと、鼠人の身体を四郎の上から蹴り出した。彼は少年を横たえると、その姿を整えた。「そう。」と彼は一人つぶやいた。「それが法なのじゃよ。」


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