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国内プロ野球 コラム モノが違いますね

第15回 甲子園が生んだ新旧のスター

 夏の甲子園、劇的な形で幕を閉じましたね。佐賀北の諦めない姿勢が奇跡を起こし、私の地元・広島の広陵高校は惜しくも準優勝となりました。それでも、広陵のエース・野村祐輔くんのピッチングは素晴らしかったですね。春先にもこのコラムで野村くんを推薦させてもらいましたけど、センバツで負けてから、野村くんはものすごい練習をしていましたよ。プロ顔負けと言いますか、それはもう凄かった。それで、こんなに伸びたんですね。やはり若ければ、一年で信じられないほど伸びるものです。プロ野球を見ても、去年から今年にかけてとんでもない成長を遂げたピッチャーたちがいます。思えば彼らも、甲子園で名を馳せた高校球児でした。

 そのピッチャーたちは誰かと言いますと、日本ハムのダルビッシュ、西武の涌井秀章、そしてロッテの成瀬善久です。この3人、涌井を中心に非常に因縁がありますね。まず、成瀬と涌井は横浜高校のチームメイトです。成瀬が一年先輩で、高校時代は共に切磋琢磨しました。涌井とダルビッシュは同学年で、甲子園での対決はありませんでしたけど、お互いに意識しあうライバル同士です。プライベートでも仲がいいそうですよ。この3人が、今のパ・リーグを引っ張っています。いや、今の日本球界と言ってもいいかもしれませんね。

 ダルビッシュに関してはもう言うことはほとんどありませんね。素晴らしいピッチャーになりました。去年のオールスターの話ですけど、阪神の藤川球児がダルビッシュのストレートを見て「アイツには勝てん」と言っておりましたよ。あの藤川球児がですよ。それはつまり、日本球界で最高のストレートを投げるということです。そうかと思えば、ダルビッシュは楽天の田中マー君にスライダーを教わりに行った、なんていうこともありましてね。今年のダルビッシュは結構スライダーが増えていると思いますけど、あのスライダーはマー君に教えてもらったんですよ。

 涌井は全ての球種が素晴らしいですね。今年はシュートを覚えてピッチングが随分変わりました。松坂大輔が抜けて、ローテの柱になる意識が生まれたのも大きいでしょう。それに、横浜高校はとにかく練習量が違いますからね、基礎体力が素晴らしいですよ。毎試合のように完投していくスタミナこそが、涌井の最大の武器かもしれませんね。
 成瀬は前の2人に比べると地味ですけど、現在11勝1敗、防御率は1点台でリーグトップという物凄い成績を挙げています。彼の良さは、何と言ってもタイミングの外し方ですね。私がよく言います良いピッチャーの3つの条件は、重要な順にタイミングの取りづらさ、コントロール、スピードなんですが、成瀬はタイミングもコントロールも素晴らしい。右打者の内角を突くストレートは、スピードガン表示こそ出ていませんけど、威力充分です。

 この3人に共通していることは、甲子園で活躍したことだけではありません。技術的な話ですと、3人とも落ちるボールを持っていますね。全員チェンジアップを持っていて、ダルビッシュと涌井はフォークも持っています。やはり、今の野球は落ちるボールがないと苦しいです。それに、3人ともフォアボールが極端に少ないのも共通点ですね。中でも一番重要な共通点は、自分の試合は自分一人で投げきるんだという心意気です。自分が投げる時は、自分でケリをつける。リリーフを仰がない。涌井なんか、これまで登板した全試合で勝敗がついています。これは過去にも例がないんじゃないでしょうか?

 しかし、伸びてくる選手がいれば去って行く選手もいるわけで、寂しいニュースも入ってきていますね。桑田真澄がパイレーツを解雇され、引退が濃厚になっています。彼もまた、甲子園を大いに沸かせたスターでした。

 私が現役の頃に対戦したピッチャーも少なくなってきていまして、桑田もその一人でした。他にはもう、木田、高津、工藤、山本昌しか残っていません。

 桑田という選手は、本当に何でもできる選手でした。ピッチャーとしての能力は言うに及ばず、牽制はうまい、守備はうまい、打撃も野手顔負け。ただ、一つだけ苦手なものがあったんですね。何だと思いますか? 実はクイックが苦手だったんですよ。桑田からすると、「走られてもバッターを抑えればいい」という哲学があったんですけどね。

 それにしても桑田は、キャッチャーを大事にしますよ。ヒーローインタビューとかでも、「村田(真一)さんに助けられました」とか「(阿部)慎ちゃんのリードが良かった」とか、そういう言葉をよく聞きました。やはりキャッチャーを大事にしないピッチャーにいいピッチャーはおりません。確かに野手もピッチャーを守ってくれる存在ですけど、ピッチャーと常に向き直っているのはキャッチャーだけですからね。

 桑田がプロに入ってきたころ、私がいた広島が非常に強くて、桑田は広島戦で勝つことに執念を燃やしていました。その頃の思い出というと、円山球場で北別府学から3ランを打ったことですかね。桑田のバッティングは本当に凄くて、私もこんな経験があります。ピンチの時にバッターが8番の村田で、ピッチングコーチが村田を敬遠して桑田と勝負しろと言ってきたんです。私は「いやいや、村田より桑田の方がいいバッターだから、もう一度ベンチで考え直して下さい」と言いましたよ。結局桑田と勝負したんですけどね。

 ささやき戦術もよう使いました。「お前のことをピッチャーとは思ってないけんの、悪いけどシュート使わせてもらうぞ」とか言ったりね。中には桑田がひっくり返ってしまうようなボールを要求したこともありました。でも桑田は、何一つ文句は言いませんでしたね。

 桑田の中には、「グラウンド上で起こる全ての出来事が野球だ」という理解があるんです。この大らかさと言いますか、悟ったような部分が、多くのファンを惹きつけるんでしょうかね。全盛期、小フライに飛び込んだファインプレーの際に肘を大ケガした時も、メジャー挑戦中に審判と接触して捻挫した時も、何一つ恨み言は言いませんでした。この姿勢は凄いですよ。

 残念ながら、桑田が投げる姿はもう見られないかもしれません。でも、この素晴らしい選手が日本球界に与えてくれた財産は残っています。ダルビッシュ、涌井、成瀬。桑田に続いて甲子園から生まれた彼ら若いスターも、桑田の姿勢を見習って息の長い選手になってもらいたいですね。

2007年8月24日 12時15分 モノが違いますね

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