WEB本の雑誌これまでのログ倉庫400字書評バックナンバー

400字書評
[2001年10月]
掲載日 ペンネーム 本のタイトル 著者名
出版社名
注目
10/23 さとみ 僕は結婚しない
【恋愛小説】
石原慎太郎
文芸春秋
 
 えっ!なんでこうくるの?慎太郎さんは、独身の息子さんについて『(結婚)しねえんだよなあ…』とテレビでコメントされていたじゃありませんか!
なのに、このタイトル。『石原家の人びと』に対する親の宣戦布告小説かと思ってドキドキしながら読んでみたら普通の小説でありました。ちぇっ。
 唯一登場する子供・理香のおしゃまな性格描写が妙にリアルで、一体どこで子供を観察しているのか不思議。


10/23 どらどら
ダメな女
【その他】
村上 龍
光文社
 
  普段エッセイは読まないのに、タイトルを見てドキッ。”それってもしかして、私のこと?。”思わず本に手が伸びてしまった。
 巻頭から、村上氏が出会った女性達が、○○な女という表現で登場します。経済的&精神的に自立していない女、ダメな男に従属する女、感度の鈍い女、等々。これは当っている、これは違うななどと、一つ一つを自分に当てはめて読んで見た。読み終わって、それで私はどこをどう直したらダメから脱出できるのだろう、と考えてしまった。
 ダメという表現は、あまりにも主観的で、客観的に判断がしづらい。だからこそ私は作者に、ダメ女の定義付けと、こうさえすれば完璧オッケー、という処方箋を出して欲しかったのだと思う。
 でも残念ながら、自分に効く処方箋は見つからなかった。村上氏曰く、自分がダメな女であると自覚していない女こそが、ダメ女なのだそうだが、そのお言葉は慰めにこそなれ、私のダメ女改善の糸口は何処に、である。
 どこにあるんだろう、私用の処方箋。また悩み出してしまう私って、やっぱりダメな女なんだな。


10/23 おれは鉄兵
【その他】
ちばてつや
講談社漫画文庫
じたばた....
   懐かしの明朗快活少年剣道マンガ。文庫版の刊行が始まったのをきっかけに買い始め、部屋の隅に積み上げといたら、ふだんはマンガを読まないウチの奥さんが珍しく手にとった。今では、買ったオレよりもよっぽどハマッていて、月に2冊ずつの刊行を首を長くして待っている。主人公の上杉鉄兵は山奥で育った超自然児で、中学まで学校に通ったことがなかったので、満足に読み書きもできない。先生に「自分の名前を黒板に書いてみろ」と言われると、「…えーとえーと」なんて言いながら、やっとこさ書いたのが「てぺい」。そんなところがウチの奥さんにはたまらなくカワイイらしく、読み終わったそばから「ねえねえ『てぺい』の続き、まだ出ないの」とうるさい。「次は一カ月後だよ」と答えると「早く続き読みたいよう!」と仰向けになってダダッ子のようにジタバタ(実話)。100%男の子向けだと思っていたこのマンガ、意外に女の人でも楽しめるみたいです。

>>> 『てぺい』をねだる奥さんがたまらなくかわいいんだろうなあ。いいなあ

10/23 むら医 『Sudden Fiction』&『Sudden Fiction2』
【その他小説】
R・シャパード、J・トーマス編/村上春樹・小川高義・柴田元幸 訳
文春文庫
 
 ショート・ショートという分野は星新一亡きあと、ほんとうに低空飛行を続けている。短編好きが高じてさらに短かいものを探し求める私としては、大いに不満であったのだ。それが、だ。なんと七年も前に刊行された本書の存在を知らなかったとは、何たる不覚、よくぞ絶版にならずにいてくれたものよと手元にやってきたときには感無量だった。
 前者に70篇、後者に60篇の「超短編小説」がおさめられたアンソロジーで、内容・スタイルは様々だが、共通するのはどれも作者自身が楽しんで書いているように思えることか。やはりこの種の作品は商業ベースに乗りにくく、作家の余技として趣味的に書かれることが多いのだろう。北村薫さんも絶賛するスペンサー・ホルストが収載されているのも嬉しいし、スワヴォーミル・ムロージェクの「象」では笑い死にしそうになり彼の最新刊『所長』(未知谷)まで買ってしまった。これも本書の効用のひとつと言えるだろう。


掲載日 ペンネーム 本のタイトル 著者名
出版社名
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10/18 空麦
ザ・ベストセラー(上・下)
【その他小説】
オリヴィア・ゴールドスミス
文春文庫
 
   日本の出版界は不況続きで特に今や小説は売れないというのが定説になっているらしいが、これはアメリカの出版界の楽屋ネタのようなストーリーである。作家側、編集側の幾人もの人間たちが交錯しながら、それぞれ一つの作品をなんとか売れる本にしようと奮闘する。章ごとに違う登場人物の視点で書かれてるが、読みにくいことは全くなく、彼らが平行して背負う一つ一つのドラマはスラスラ飲みこめていける。だけどアメリカのこの手の小説ってなんでいつも安っぽいハッピーエンドなんだ?持ち込みをつっ返され絶望した女が自殺後、娘の没原稿を世に出そうと画策する母、なにげに書いた小説がなにげに大手の編集者の兄の目にとまり、本人はなんも努力することなく作家の地位と恋を手にいれる女、レズビアンの編集者が恋人のエージェントに利用されてるだけか?と悩むが結局それは深き愛で結ばれてたよん、てな本人の努力ナシのシンデレラストーリーにはげっぷが出るほど。その中で苦労と悲惨を舐めつくすのは男の登場人物たち。この作者はよほど男に痛い目に遭わされたのか?と思うくらい男達を苛めてる。一見勧善懲悪に徹したように見える登場人物達のそれぞれの結末まで読み進めた時、「悪者」に回された人の方に魅力を感じてしまう読者の方が圧倒的に多い筈だ。悪に魅力があるのではない。この手の作者よ、努力もしない善意の塊の人間の成功には少しもトキメかない、人の心理をもっと知ってからサクセスストーリーを書けな。


10/18 さとうひろしげ
食う寝る坐る永平寺修行記
【ノンフィクション 】
野々村馨
新潮文庫
 
  人間誰しも、何かをしようと突然思いつくことがあるでしょう。この人の場合、それは「出家」だったのです。何で、とその理由を問われても「自分でもよくわからない」らしいのですがー。とにかく,彼はそのことを実行してしまいました。30才になりたての、夏の終わる頃のことでした。そして,翌年の桜花満開の日、此処を去ることになるのです。此処とは、あの道元の開山した曹洞宗大本山「永平寺」のことです。初日、修行するべく寺に到着した者たちの、あらんかぎりの大声で叫ぶ名乗りに、現れた雲水は即座に「聞こえね」と怒鳴り返す、のです。さあ、これからどうなるのか。四季の美しい自然のあやなす永平寺での体験を、けれんみなくまとめ上げた一冊です。およそ世間では考えられないような修行空間、そこで繰り広げられるヒューマンドラマが良質のノンフィクションとして完成したといってよいでしょう。修行を終えて山門を出る、そのシーンには不覚にも感動の「熱い涙が、一粒ポロリと」こぼれてしまいました。

掲載日 ペンネーム 本のタイトル 著者名
出版社名
注目
10/11 しょうどう
ドバラダ乱入帖
【その他】
山下洋輔
集英社文庫
 
   あの傑作「ドバラダ門」の後日談が本書「ドバラダ乱入帖」なのですが、山下さんの筆は相変わらず冴えわたり、ちょっとでも隙を見せると、ハインラインも真っ青の鮮やかな手腕であれよあれよという間に読者を異世界に連れていってしまいます。
 今回の本線は山下家に残された作者未詳の西郷隆盛像のルーツ追跡にあるのですが、そこは気の多い山下さんのこと、話は気持ちいいほどに脱線と途中下車をくり返し、語り手もお馴染み御先祖様から飼い猫ククまで次々登場。愉快に読者を翻弄する軽妙な文章はさながらアバンギャルドなピアノソロのようにページの上で踊っています。
 読了してから振り返ってみれば俎上に乗った話題は音楽、歴史、建築、美術と多岐にわたり、語りの手法もエッセイ、ミステリ、SFに手記まで多種多彩。どんな趣向の読書人をも満足させてしまうこと請け合いの、まったく驚きの一冊です。これぞ寄書!


10/11 東風
裸の眼
【ノンフィクション 】
デズモンド・モリス
東洋書林
 
  イギリスの動物学者かつ映像作家として有名なモリス氏の抱腹絶倒エッセイ。彼が訪れた世界各地の奇妙な人間行動記録である。1960年代後半のマルタ島滞在記録から1998年の世界一周旅行まで、まるで「兼高かおるの世界の旅」をモリスが英訳してそれを更に和訳したような感じである。
  1982年に日本のテレビ局の取材要請に応じて来日したときのエピソードはすでに多くの外国人による日本人論の先鞭か。まるでBBCやCNNの取り上げる「日本人」を見たときと同じ印象を読後に受けた。来日から20年がたつ。モリス氏には元気なうちにもう一度来日してもらい、もう日本人は「おじぎ」なんかしない、いやできないのを見て欲しい。みんな独り言(携帯)の世界に入り込んでいるのだ。


10/11 命売ります
【その他小説】
三島由紀夫
ちくま書房
 
  ちょっとあやしげなタイトルで、買うのにちょっと躊躇してた一冊。このテーマは重そうだなあ、でも読みたいなあ、と思っていた葛藤が、読みはじめの数秒でふっとんだ。ポップな表現で、表面的にはかなり読みやすい。生きてる人は不安でたまらない。生きたいと思う人は、それと表裏一体の形で死の恐怖を持っている。主人公は自殺しそこなった男で、どうせいらないからと命を売ろうと考える。ところが、いつしか死ぬことへの恐怖におののき始める。古典的なテーマながら次々でてくるストーリーのアイディアが面白い。堅いテーマだが、笑えるところもしんみりしてしまうところもあって、読者に頭で考えずに気持ちで考えさせる。三島は本当に不思議な人だと思う。私が生まれる前に書かれた小説なのに、同じ時代を生きている人が書いているような錯覚を感じさせる新鮮な小説だった。

10/11 馬場常和 Fuckin` Blue Film
【ノンフィクション】
藤森直子
ヒヨコ舎
 
   藤森直子著「Fuckin Blue Film」はSM女王という姿で鎧われた非日常とバイセクシャルの日常をネットで綴った日記をまとめたもの。
 日々のことだけではなく、様々な過去の思い出をからめて描かれる彼女の姿はもはや日記の範疇には収まらない、ひとつの物語だ。
 ネット日記を読んでいるだけの人には彼女が本当にSM嬢なのかどうか確かめる術がないことを彼女自身も言及している。「SMクラブで働いていることを妄想する精神病患者」かもしれないし、「生意気な頭のいい小学生」かもしれない。
 読んでいる我々にはそれが妄想であろうと、フィクションであろうと関係ないのではないだろうか。
 「言葉・文章・物語…そういったものに私はなりたい」と日記の中で願った彼女はすでにその願いを叶えてしまったのではないか。そう思わないでいられないのである。


掲載日 ペンネーム 本のタイトル 著者名
出版社名
注目
10/3 長老みさわ
翼はいつまでも
【青春小説】
川上健一
集英社
ツバサ...
  まさしく青春小説<中学生小説>の王道。
 異性に対する「ときめき」があり、初恋があり、友情がある。そして教師との確執があり、父親との葛藤がある。
 東北の中学に通う神山久志の中学2年の夏から中学3年の夏までの物語。であるが、これはやはり「一夏の物語」と言いきってしまいたい。
 重要な場面で極度に緊張してしまってヘマをやらかす主人公がビートルズの音楽に出会って自己を主張できる性格に成長していく。
 青春小説の王道であり、世代を超えた名作と呼ぶことに抵抗はないのだが団塊世代に強い憧れとコンプレックスを持つ「世代なき世代」または「Mの世代」な私には一歩引いてしまう事があった。同世代の書評子が絶賛しているので世代で切り捨てることは乱暴かも知れないが、それを差しい引いても共感できない「何か」があったのは事実。

>>> 恋愛小説談話室でも話題の『翼はいつまでも』。共感できない「何か」がなんだっ たのか気になるところだが、21世紀ナンバー1の青春小説として本誌編集部もおすすめだ。未読の方はぜひどうぞ。
※恋愛小説談話室はこちら...

10/3 さとうひろしげ
情報,官邸に達せず
【ノンフィクション 】
麻生幾
新潮社
 
  平成13年5月1日、成田空港。とてつもない大物外国人が偽造旅券を使って不正入国しようとして拘束された。この人物とは、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金正日総書記の長男金正男とみられた。小泉内閣が国民の圧倒的喝采を浴びて成立、一週間もたたない時期であった。麻生幾は,今回の本書の文庫本化に当りこの事件を,巻頭にぶつけてきた。この事件が一体どうなったのか。結局,入国させず<このままかえせ>となったのである。しかも、<キム・ジョンナムかどうか一切の詮議をするな、確認作業もやめろ>だったという。数々の疑問を残して,主役の人物は中国へと退去し,一件落着した。「こんなことでいいのか」と思うのは当り前だろう。しかも、小泉総理はほとんど情報の空白に置かれていたというのだ。危うし,日本。ーと,いった具合の過去の事件をとり上げた七章はそれぞれに読み応えがある。ニューヨーク同時多発テロの勃発した今こそ、本書の真価が問われるときだ。官邸などの当局者にも一読を勧めたい。


10/3 野沢菜子 中国庶民生活図引
【その他 】
島尾伸三・
潮田登久子
弘文堂
 
  中国庶民生活を長年見てきている写真家、島尾、潮田ご夫妻による、写真と説明のすてきな本。どこがすてきかって、写真の細部に番号が振ってあって、細かく説明がついているのです。現地に詳しいご夫妻が、あれこれと指さしながら気さくに案内してくださっているような具合。その目線がまたすばらしい。何気ない街角の風景、写真家はこういうところに目をつけて撮っているのだな、というのもわかる。「街の歩き方」指南でもあります。こんなふうに見ながら歩いたら、きっと楽しい!ふうわりした文章も魅力。なんどめくっても飽きません。


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