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【土曜訪問】

『図書館戦争』シリーズが話題 有川 浩さん(作家)

2007年8月18日

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 公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を取り締まる法律「メディア良化法」が昭和最終年度に成立、施行され、三十年が経過した「正化三十一年」。武器を所持して実力行使に出る検閲に対抗するために、国とは独立した図書館組織「図書隊」が立ち上がる−。

 あながちシャレにならないような設定で、主人公たちが、泣き笑い、悩み、戦う。検閲とは、表現の自由とは、の硬派な議論から恋も友情も笑いもぎっしりの『図書館戦争』は、本年度本屋大賞で五位となり、続く『図書館内乱』『図書館危機』のシリーズ三冊で三十五万部を超えた。十一月十日には最終巻『図書館革命』の発売を控える。

 有川浩(ひろ)さん(35)は、三作目を執筆中の二〇〇四年、夫から「図書館の自由に関する宣言」の存在を聞き、「平和的で温和な組織としか思えない図書館に、すごく勇ましい宣言がある、ギャップが面白い」と飛びついた。宣言が一番あり得ない状況で運用されたとしたら…。次はこれだと即断した。一冊ではもったいないとシリーズ化も決めていた。

 「最近、言葉が窮屈になってきているなあ」と少し気にもなっていたところだったという有川さん。記者が「マスコミがぼーっとしていると、こんな世界がやってくるよと尻をたたかれている気がします」と伝えると「そうならないよう頑張ってください」とニッコリ、くぎを刺してくれた。

 有川さんのデビューは、二〇〇三年にライトノベル界の登竜門、電撃小説大賞を受賞した『塩の街』の文庫作品。ライトノベルといえば、アニメ調イラストが表紙の文庫本が多い。しかし有川さんの二作目以降はすべてハードカバー。装丁も“一般文芸”の顔。アニメの表紙を敬遠する大人にも読んでもらえる作品を探していた出版社の狙いがあるが、有川さん自身も「大人向けのジュブナイル(児童文学)=ライトノベル」を書いているからだ。「私の若いころはライトノベルなんて言葉もなくてコバルト文庫とかソノラマ文庫など少年少女が純粋に楽しむ本があった。成長した彼らが感性を満足させるジャンルがなかったと思う。そんな大人たちにも届けたい思いが強くて」

 結果として、子どもたちから年配者まで幅広い読者を獲得することとなった。

 高知で生まれ育つ。物語作りは保育園から。高校、大学時代に応募を重ねたが、あと一歩で落選が続く。就職後は「自分は上には届かないんだ」とあきらめていた。〇一年に結婚し、退職後、再び筆を執ったのが『塩の街』。夫や友人に勧められ、応募したら大賞に。「あきらめていた分、書かなくちゃもったいない」

 岐阜・各務原の航空自衛隊岐阜基地の航空祭に通い詰めるほどの戦闘機好きから、自衛隊を勉強するきっかけにもなり、自衛隊三部作といわれる最初の三作が完成した。

 「気軽なエンターテインメント」を目指す有川さんだが、執筆前の取材、研究は気軽、ではない。「ほどほどにするために、膨大に調べて膨大に捨てる必要がある。物語でも、その中で現実を書くときにいいかげんに書いたら、特に大人の読者は離れてしまう」

 情報を押さえた後、大まかに性格づけた登場人物たちを舞台に放つ。自身はカメラとして彼らが走りだすのを待つ。走り始めるとどんどん文章がつながっていくという。

 有川作品には「ベタ甘で胸キュン」な恋が必ず織り交ぜられる。「書くなというのは死ねと同じ」。一方で正義とは何なのか、現実の厳しさなど硬派な記述も真正面勝負で詰め込まれている。「例えば映画『大脱走』の舞台は戦時中の捕虜収容所なんて重くてハードなのに、脱走を企てる登場人物たちは味があって皆すごく楽しそう。そんな作品を活字で書きたい」。漫画のように気軽にページがめくれる小説を目指す。「今や漫画はジャンルとして確立された。活字も追いついていきたい」

 兵庫・尼崎で阪神大震災を経験した。「被害はまだましな場所だったけど、人間のきれいなところも汚いところも全部一緒くたに同時に見せられた。意識はしていないけど、作品に影響を与えていると思います」

 『図書館戦争』は二冊の漫画雑誌で漫画化連載も始まる。完結編『図書館革命』でも図書隊は“正義の味方”として活躍するか−。

 「日和らない大人がかっこいいと思う。そのためにあがく大人。たとえ負けても。間違いを犯さないのが正しいのではないから。あがいている人はかっこいい。私もそうなりたい」。柔らかいたたずまいの中に、作中人物と同じ、気骨が見えた。 (野村由美子)

 

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