運命 - 第2話

第1話・第2話・第3話

by マイケル・G・ライアン
Translated/Compiled by YONEMURA "Pao" Kaoru


 救出任務を終え、彼らはウェザーライト号に戻った。要塞上空に浮かんでいるウェザーライト号に敵の戦艦プレデターが気付いたため、早急に離脱する必要があったのだった。ジェラードはデッキで命令し、犠牲を少なく押さえられたことに満足げな表情を見せていた。やり残しは、今でなくても解決できることだった。彼らの班には、ほとんど被害はなく、傷はあったが、いずれ癒えるものだった。

 デッキの下に設けられた負傷者を収容するための寝台では、彼のもっとも古くからの友人であったミリーが死を迎えていた。

 子供のころの悪友たちとの思い出が走馬灯のようによぎった後、クロウヴァクスが橋の上で彼の運命を受け入れようとしたときのように目を閉じた。その後、ミリーの耳に聞こえてきたのは、彼女の喉が静かに鳴る優しい音と、誰か──おそらくはオアリム──が彼女の状態を確かめに来る音と──そして、ゆっくりと動きを止めていく彼女の心音と──。

 ミリーは生命の綱に掴まるのをやめ、静かで長い自由への落下を始めたのだった。

 「ミリー?」

 数時間後、クロウヴァクスは、ミリーの眠る寝台の陰りに近づいた。彼の黒い肌は闇に溶け込んでいるようにも見えた。しかし、ミリーの呼吸が聞こえなかったため、クロウヴァクスはもう一度闇に声を投げかける。

 「ミリー、いますか?」

 「……いるわ」

 ミリーは静かに囁き、ゆっくりと目を開いた。

 彼女の瞳はすでになく、彼女の顔にある2つの白い穴が彼を見つめていた。クロウヴァクスはその穴に見覚えがあった。それらは暗闇のなかで赤く光っていた。クロウヴァクスは飛びのき、手を剣に伸ばす。

 「ああ、セレニア……一体、なにが……」

 「私ができたことをしただけよ」

 ミリーは答えて言った。

 「あなたが愛したのは私なの、それとも私の入れ物なの? 私の魂がどこにあろうと、あなたとともにあるわ」

 ウェザーライト号は突然、大揺れに襲われた。エンジンが火を噴き、船が大きく回転する。猫戦士の身体に取りついた死せる者のいる部屋も大きく傾く。寝台が大きく揺れ、上層のどこかで砲台が轟いた。

 クロウヴァクスはもう一歩飛びすさり、「あなたが何であれ、嘘はやめなさい。セレニアは魂について話したことはありません。彼女は魂など持っていないのです。もちろん、あなたはミリーでもない。……一体、何者ですか」

 猫戦士は溜め息をつき、伸びをして、身体に巻かれている包帯に手を伸ばす。傷を負っていることそのものが快適だと言わんばかりだった。

 「あなたのモノよ」

 「意味がわかりませんね」

 「わかっているくせに」

 ミリーはクロウヴァクスに向かって牙を剥き、クロウヴァクスは恐怖に顔を引きつらせる。

 「私はあなたが手に入れられなかったモノ。つまり、死と呪いよ。あなたは彼女の最後の祝福が何をもたらすか、彼女があなたを殺せばあなたが彼女を殺すよりもいい結果になることを直感していたのね。でも、ミリーにその問題を引き受けさせてしまった。彼女が今あなたのことをどう呼ぶかわかる? 恥、よ」

 クロウヴァクスは、以前、同じ目をした死の天使に相対した時よりも遥かに安定した姿勢で刃を抜いた。

 「彼女を今すぐ放しなさい」

 「どうして彼女の後を追おうと思わないの」

 ミリーは立ち上がり、そして内臓のダメージに耐えかねたように俯いた。その瞬間、船は、砲撃を受けて揺れる。

 「もしこの呪いをあなたのものとして受け入れるなら、あなたは彼女の後を追えるわ。ミリーを吸血鬼にしてしまったとジェラードに言って、船から身を投げなさい。そうすれば、あなたは混乱で気が狂ったと思われるわ。その後、セレニアはあなたの魂を分け、昔の約束通りにあなたのものであることを選ぶでしょうね」

 彼女──あるいは『それ』は、クロウヴァクスの返事がどうであるか、予測できていたに違いない。それは、クロウヴァクスの目を見てわかったのかもしれないし、あるいは暗き天使、猫戦士、そしてそれらの合わさった、より強大な存在による洞察でわかっていたのかもしれない。いずれにせよ、船が突然降下して揺れた瞬間に、ミリーであった存在は爪を伸ばし、毛皮を広げ、牙を剥いた。ミリーの攻撃がクロウヴァクスを流血させ、その生命のある血の匂いがミリーの姿を変えたようだった。彼女の色は濃くなり、薄明かりの中に単一色に見えた。顎はゆるみ、顔は古い洞穴で見つけられた屍体のように窪みこんだ。クロウヴァクスは叫び、このバケモノに太刀打ちしようという考えを投げ棄てた。デッキからのときの声に導かれて逃げる彼を、『それ』は四つんばいで、階段を飛び越え、床に穴を開けながら追いかける。

 デッキにたどり着くと、ジェラードがあざのようだと評した赤と黒の空の下で、クロウヴァクスは救いを見出すことができた。柵際にジェラードが、そのすぐ後ろにはミノタウルスのターンガースが立っていた。ジェラードの意志の力で救出されたシッセイは、ウェザーライトの反対側で指揮を取っていた。しかし、その上には、ハサミのような形の巨大な敵の艦船、プレデターがそびえ立っていた。強気で自信家のジェラードでさえ、ヴォルラスの船の予期せぬ接近に打ち負かされているようだった。彼らに駆け込んだクロウヴァクスのすぐ後ろから、ミリーだったモノの呼吸が聞こえてきていた。プレデターの衝突攻撃のような突撃に急降下したのを受け、ジェラードは怒鳴り声をあげた。

 「気をつけろ―」

 クロウヴァクスがその声に反応できたのは、背後から攻撃を受けながら柵を蹴り越えたときだった。ジェラードはクロウヴァクスに手を伸ばし、一方でターンガースはミリーに手を伸ばす。しかし二人の手は届かず、クロウヴァクスと猫戦士は一緒に、眼下の庭にはびこる緑の中に落ちていったのだった。


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