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インタビュー

取材者
大学受験の形態が様変わりしている。なかでも、大学の「教育・建学の理念」に見あった、目的意識の高い生徒に門戸を開く「AO入試」が注目されている。学習コーチングが目指す子どもたちの「目標力養成」と「AO入試」についての親和性について、そのヒントを得るため、日本の「AO入試」に深く関わってこられた一人、出光直樹氏にインタビューした。

<プロフィール紹介>
東京都出身。明星学園高等学校を卒業後、札幌学院大学を経て、桜美林大学大学院にて高等教育論を専攻。その間、アメリカのコミュニティーカレッジ(短期大学)やオーストラリアの大学院への留学経験も有する。桜美林大学では大学教育研究所の研究員の他、アドミッション・オフィサー(職員)主導型の本格的なAO入試(書類審査および面接)等の業務に従事。2005年9月より横浜市立大学に移り、現在アドミッションズセンターの専門職(学務准教授)。
【Webサイト】http://www.idemitsu.info

日本のAO入試は、3パターンに大別される

Q 日本でもAO入試を取り入れる大学が徐々に増えています。現在では全体の7〜8%という数字も紹介されていますが、その中身というものはどんなものか、AO入試について研究・実践されている出光さんに概観してもらえますでしょうか。

A 現在の日本のAO入試のパターンは、大きく3つに分けることができると思います。一つは「自己アピール型」。つまり、「わたしは高校時代に、こんなことをやってきました。御校の建学の理念にも合致します。だから、是非御校の学生にしてください」と、受験生が自己アピールするパターン。そして、二つ目は「模擬講義・実技型」。これは、受験生に実際の大学の授業を受けさせたり実技等を行わせ、それを踏まえたレポートの内容や受ける態度等を見て判断するものです。<削除> 最後が「エントリー面接型」。オープンキャンパスや入試説明会に来場した学生に対し、「入試相談」をしながら、そこから受験生の意欲や適性を判断するやり方です。


AO入試は人間性を育てる。
「メタレベル」で自己評価ができる生徒が強い


Q よくAOは、人数割れしている大学の「青田刈りの手段だ」という声が聞かれます。つまり、それらの大学には、なにもしなくても入れると。

A それはかなりの誤解があります。たしかに、学生ほしさにほとんど審査なしで通す学校があるのは事実です。しかし、常識的に考えて、志望動機書を白紙で出す生徒を受け入れるとは考えにくいですよね。それに、AO入試というのは、生徒に内省の機会を与えます。わたしは、この内省の機会が生徒を育てるのに非常に有効なのではないかと感じています。

Q AO入試が人間性を育てると?

A はい。もちろん、一般入試を合格するために勉強するプロセスでも、人間性は磨かれます。しかし、AO入試の場合は、生徒の全人格が表出されます。たとえば、野球をやっている生徒が、スポーツ技能をアピール材料としてAO入試に挑戦することがあります。彼が捕手のポジションを守っていたとします。わたしはこのようなとき、「捕手の面白さってどんなところ?」と聞きます。このような質問に答えられるか否か。そこを見るんです。

Q 答えられる人とそうでない人の違いはどんな点ですか?

A 一流の選手だと、「捕手は扇の要。自分の動きによって、チームが、そして試合が動くのは、とてもエキサイティングです」などと、答えることができます。野球に対する想いがあるからです。その言葉には重みがあり、面接者を引き込む力があります。それは、単によい成績を残したとか、残さないとかの問題ではなく、その生徒の人生観のようなものが伝わってくるんです。つまり、「メタレベルで自己評価できている」人です。こういう生徒は大学に入学後も、学問に対して自ら意味づけができるので、どこの大学でも欲しい人物です。逆に、かなりアピールの材料となるものを持っていながらも、単に「なぞっただけ」の説明になる人がいます。こういう人はいい大学に入ったとしても、伸びにくい。AO向きではありませんね。

Q なるほど。「メタレベルで自己評価」というのが、キーワードですね。一つ疑問に思うのが、たとえば文系を志望する学生は、高校で生徒会長をやったことが「メタレベルでの自己評価」につながり、将来それを法学や経営学で生かしてゆきたいという志望理由につなげることができると思うんですが、理系の場合は、そのような実績からは物理学を学びたいなどという理由に結び付けにくいような印象を受けます。

A おっしゃるとおりですね。実質的に、AO入試は理系の学部で採用するところはまだ比較的少ないです。ですから、先述したような「模擬講義・実技型」を採用するところがあるんです。

AO入試は、受験生と面接者の真剣勝負。
他人が書いたエントリーシートはすぐわかる


Q AO入試では、最初のエントリーシートでふるいにかけるところがありますが、それだと、親や教師など他人が書いたものを提出することもできるという見方もありますが。

A それはAO入試のことをご存知のない方がおっしゃることです。ほとんどの場合が、書類審査の後に面接が控えています。面接は数名の大人を相手にする真剣勝負。丸裸にされることを知っていながら、リスクのあるようなことは常識的にいって考えられません。書くプロセスで、他者に引き出してもらうことは大いに結構なことです。しかし、一部でも他者が手を入れると、そこは面接者もプロですから、突いてきます。自分の書いたことでさえ上手に説明できないのに、他人の書いたことなど説明できるわけありませんからね。(笑い)


問うているのは「文章力」ではなく、「人間力」。
自己の適性や強みを早く把握し、それらを伸ばす実績づくりを


Q お話を聞けば聞くこと、AO入試は、人生をかけた真剣勝負だということが伝わってきます。にもかかわらず、現在市販されているAO対策の書籍、および塾などがアピールしているのは、ほとんどが「論文対策」に焦点が当てられています。その点についてはいかがでしょうか。

A 「論文」は大切です。「論文」を書くことによって、ものごとを整理する力もつきますし、自己表現も上手になります。しかし、おっしゃるとおり、本来のAO入試の狙うところはそこではありません。われわれが見ているのは、「文章力」ではなく、「人間力」です。ですから、本来はAO入試対策は、高校3年になってあわててやることではなく、2年、1年、いやもっと言うと、中学生くらいから意識し始めるくらいでもいいかもしれませんね。わたしも長年「自己アピール型」のAO入試で生徒を見てきていますが、書類と一緒に高校時代の成果物や実績などが同封されてくることがあります。すると、開封した瞬間にわかるんですよ。この生徒は本気で高校時代をすごしたかどうかってことが。成果物が語るんですね。ですから、AO入試に臨まれるのであれば、早いうちから自己分析をはじめ、自身の強みや適性を活用してアピールできる実績を作ることをお勧めします。


<取材の感想>
かねてから、AO入試と学習コーチングの間には、きわめて高い親和性があるものと推察していましたが、今回の出光さんへの取材でそれが明確になりました。私たちはAO入試の生徒を何人もお客様に持っておりますが、彼らに志望理由を書かせるときに、過去と現在と未来をつなげる作業をさせます。その際、出光氏の言う「メタレベルの自己評価」が必要になるのです。過去と現在をちゃんと自己評価できない人間が、未来に向けて夢や目標を語ることはできません。それなしの志望理由は表層的なものになり、面接で突かれるともろく崩れます。私たちはそのような事例をたくさん見てきました。私たちの面接指導を受けた生徒は、徹底的に「メタレベルで内省し」、面接に臨みます。ですから、面接で予期せぬ質問が来ても、面接練習で出てきた内容の中に必ずヒントを見つけることができるので、決して動じることがないのです。さらに、高校1、2年生の生徒に対しては、目指す大学が求める生徒像に向けて、彼らの強みを生かした「物語作り」に取り組ませます。このプロセスで、学習コーチングにより「自己決定・自己責任」の態度が育まれますので、せますので、結果的に揺ぎ無い自己肯定感を持つことができるのです。その意味で、学習コーチングは、出光氏の言う「人間力」を育むものだと確信しました。