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超高齢化社会を生きる シリーズ1

成年後見制度

 判断能力、低下した時に--生きるための安全網

  成年後見制度は、介護保険とともに、高齢者が、安心して生活をしていくためにはなくてはならないものだ。認知症などで判断能力が低下した時、後見人が、本人に代わって、財産管理や介護サービスの契約、生活支援などを行ってくれる。【岩石隆光】

金銭問題の解決が最多

 成年後見制度には、判断能力がなくなった人に、家庭裁判所が後見人を審判によってつける法定後見人と、判断力のあるうちに、自分で誰に何を頼むかを決め、公正証書にして登記する任意後見人制度がある。前者は、いわば社会の責任で判断能力を欠く人を支えるもの、後者は、個人の責任で将来の判断能力の低下に備えるものだ。


 成年後見制度は、預貯金、金融商品や不動産の処分、相続や遺産分割など、いわゆる金銭問題を解決する手段として用いられることが一番多い。次に、ケアプランへの同意や異議の申し立て、住居の賃貸契約など、利用者の生活を幅広く支えるための身上監護、すなわち日常生活を支えるために後見人がつけられる。

 
問題重なる時にも有用

 日本社会福祉士会専務理事の金川洋さんは、「成年後見制度は、いつまでも人間らしく生きていくためのセーフティーネットであり、家族にいくつもの問題が重なっている時や福祉制度の谷間の人々への支援策として有効だ」と語る。

 80歳代の女性Aは夫が残したマンションのオーナーで、同じく80歳を超えた認知症の妹Bと精神障害の50歳代の娘Cとその賃貸収入で暮らしていた。B、Cは重篤ではなく、Aの指示があれば買い物や日常生活には支障がなかった。ただ地域との関係は希薄だった。異常事態が判明した時に、Aは既に死亡、枕元には、いつもの通りB、Cが買ったコンビニ弁当が置かれていた。死因は餓死だった。Aは病に倒れ自力で食事を取れない状況だったが、BとCはそのことを理解できず、またAの死亡後も寝ているのか、死んでいるのかの区別もできなかった。

 まず後見人に選定された弁護士が、不動産管理会社とマンションの管理契約を結んで収入を安定化させた。B、Cは相互依存が強く、別々に処遇するのは無理と考えられた。一緒に生活できる福祉施設が見つからなかったので、在宅生活を継続するため、新たに社会福祉士が後見人に加わり、ペアを組んで対応した。

 
利用12万人、低い認知度
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講習会で成年後見人制度について学ぶ人々

 成年後見制度への認知度は、まだ低い。この制度がスタートした2000年4月から2007年3月までの7年間累計の法定後見利用者は、12万人でしかない。同時に導入された介護保険の利用者は年間400万人を超えている。また認知症の患者が170万人であると推定されていることを考えると、あまりにも少ない数字だ。

 高齢化とともに少子化が進んでいる現在、成年後見制度の必要性は増している。また後見人の80%は親族が占めている。しかし、日常生活を支えることに加えて、財産管理を親族が行うことは負担が大きいうえ、ほかの親族からその適切性を疑われるケースもある。親族による後見は、財産が絡んだ問題では限界がある。また、かかわりを期待できる親族がいない人も増えている。

 70歳代のD夫婦には、日常生活は何とかできるが、金銭管理ができない40歳代後半の知的障害の子Eがおり、自分たち亡き後のことが心配だった。生活支援については成年後見制度を利用するとしても、特に経済的なことが気になった。Dたちは、どちらかが死亡した場合は生存配偶者に全財産を与え、Eの面倒を見ることとし、さらに夫婦とも亡くなった後は、Eの終生の生活費・療養費などを管理・交付する方法として、金融機関に相談して信託を設定する遺言書を作成した。これによって、Eの成年後見人は、生活費の管理と支援に専念できるようになった。

 超高齢社会を迎え、成年後見人制度は、専門家と市民後見人が連携して後見にあたる時代になろうとしている。

 その対策の一つとして、東京都やさわやか福祉財団などが、養成講座を開き、市民後見人の育成に乗り出している。弁護士、司法書士、社会福祉士など専門職により後見人の不足を補い、複雑な法律問題などが絡まない日常生活の支援役をつくろうというものだ。

 独立型社会福祉士の池田恵利子さんは、「成年後見制度は、判断力が落ちてきた人の権利を擁護するものであること。支援を必要とする人たちは、自分を強く主張したり、手続きをすることが苦手な人たちであることをまず理解していてほしい」と言う。「自分自身が援助を必要とするようになった時、まず何をしてもらいたいかを考え、後見人の役割を果たしてほしい」と続ける。

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法人による試みに期待

 法人による成年後見の一つの試みとして注目されているのが、多摩南部成年後見センターだ。調布、日野、狛江、多摩、稲城の5市により共同設立・運営されている非営利法人で、03年に設立された。所長と4人の支援員(社会福祉士)、それにサポート隊ともいえる非常勤の地域支援員7人などで構成され、現在40人の後見業務を行っている。

 5市の人口をあわせると70万人、成年後見を必要とする対象者は人口の1%といわれているので、まだ十分に機能しているとはいえないが、個人後見にはないメリットがある。

 「総合的な生活支援を目指している」と語るのは所長の竹市啓二さん。「法人後見として、法律、福祉両方の問題に偏りなく対応でき、弁護士、司法書士、社会福祉士とも協働している」と強調する。しかも行政がかかわっていることから、各市が行っている見守りネットワークと連携、相談業務も、1次は市役所、2次は同センターとすみ分けができている。

 同センターの試みには、解決しなければならない点もあるが、都市部で、成年後見制度を機能させる方法として期待されている。

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堀田力 弁護士

能力の社会還元は義務
堀田力
弁護士・さわやか福祉財団理事長

 人生90年の時代を迎えた。私たちは、寿命の伸びにあわせて、身体的能力も伸ばすことができた。

 その結果、私たちは、定年後20~30年にわたって、社会性をもって生きることを求められるようになった。自分の意思で、自分の能力を最大限に生かし、それを社会に還元する義務ともいえる。社会に役立ち、人が喜び、人から認められて、幸せになりたいと誰もが思う。生きがいを持つことができなければ、精神的に孤立していく。

 一人ひとりが幸せになるために個人として生きる。個性を大切にすることだ。その方法として、一度、思春期に抱いていた夢を思い出してみよう。そして、それを実現するためにチャレンジしてみよう。非営利組織(NPO)やボランティア団体が、すでに同様な活動をしていれば、積極的に参加をすることだ。一般的に女性には抵抗がある人は少ないが、男性、ことに大企業や役所勤めの人たちは、人見知りをするのか、なかなか仲間に入れない。まず企業人間であることを忘れることだ。

 親の介護が必要になると、企業人間といわれる人は、介護を仕事としてとらえ、一生懸命になる。しかし、経済的な成果を求めるのと同じ発想で介護にのめり込むと、する方も、される方も不幸になる。結局は、加齢に伴う親の能力の低下を認めることができず、自分から転んでしまい、虐待を引き起こしてしまうというケースもある。親を可能な限り自立させ、その人らしく生きてもらうためには、親が何をしたいかを理解し、そのために何が必要かを考え、社会資源を有効利用することだ。自分にしかできない、親との心のつながりを忘れないことだ。精神的に親を支えることが、子どもの第一の役割だ。

 自助、共助の精神を忘れずに、主体的に生きていくとは何かを問い続けながら、社会参加をしていく時代になろうとしている。

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