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zur "Lieder aus aller Welt"




Dana Dana / Dona Dona     ページ公開 2001年11月24日


  この曲は 「ドナドナ」"Dona Dona"のタイトルで大変よく知られていますが、もとのタイトルは「ダナダナ」 "Dana Dana"でした。作曲者自筆譜にオーケストラスコアには"Dana ー " 、ヴォーカルスコアには"Da- na Da- na"、合唱楽譜には"Dana Dana"と書かれています。しかし有名になったタイトルは"Dona Dona" であったことから、本ページでは"Dana Dana / Dona Dona" と書くことにしました。MIDI演奏は個人研究用に編曲したものです。原曲はト短調ですが、MIDIはホ短調で演奏します。アルトゥーア・ケヴェス Arthur Kevess とテディ・シュワルツ Teddi Schwarzによる英語訳詞と、私の日本語訳詞は下に黄色い文字で書かれています。一緒にお楽しみください。演奏は前奏及び2節の後に前奏と同じ旋律の間奏がつきます。


1.原曲について

1) 詞、作曲 (注 綴りや読みは外国語につき、一定していない。)

 作詞、作曲者共ユダヤ人で、まさにナチ時代に作られました。詞はロシア生まれでポーランドに住んでいたアアロン・ザイトリンAaron Zeitlin (Ahron Tzeitlin とも綴られています。) (1889-1973)、(注) 曲はウクライナ生まれでアメリカで教育を受けたシャローム・セクンダShalom Secunda (1894-1974) (Sholom Secundaとも綴られています。)。

 作 詞者については特に国内サイトでYitzhak Katzenelsonを「ドナドナ」の作詞者であるとする人が多く、私もKatzenelsonについては、このページを開く前に、生涯や作品などを調べました。しかし私は「ドナドナ」の作者をAaron Zeitlinである、と判断したため、特に記述しませんでした。
 
 セクンダは1937年から1940年代初めまで
ユダヤ劇場のための作曲家でした。「ダナダナ」"Dana Dana" は彼の作曲したミュージカル「エステルケ」"Esterke"に含まれています。


2)自筆譜 (注 自筆譜は編曲数日後に発見しました。付け加えた言葉や歌い方など一致する点がいくつもありますが、全て偶然によるものです。)

草稿、自筆譜、パート譜などはhttp://www.yap.cat.nyu.edu/ の"Esterke"で見ることができます。スコアによって音符の棒の付け方などに差異があります。しかしビームの付け方や音部記号の書き方が酷似していることから、フルスコアも他のスコアは自筆譜、と私は判断しています。"D"の書き方も、英語風、ドイツ語風の2種使っていますがフルートパート譜などには両方書かれています。(http://www.yap.cat.nyu.edu/ は、ニューヨーク大学のデジタル博物館で、貴重なユダヤに関する資料が見られますが、残念なことに2003年5月8日現在休止中です。)

 原曲は4分の2拍子、ト短調で、オーケストラ付き。"He"、"She"と書かれたいわゆる男声と女声による二重唱と混声四部合唱楽譜があります。アルファベット綴りのイディッシュ語が付けられています。速めのテンポを感じさせられますが、合唱楽譜に「やや遅く"Andantino"」と書かれています。"Dana Dana" の最後の方に使われた「レラスィドスィッ ラッ」をオクターブ移動して2度繰り返すメロディーの前奏で始まり、「常にスタッカートで」"sempre staccato"(スタッカート=音を明瞭に分離して)と記されています。 繰り返しには「今までより速く」"più mosso"と書かれ、風を表すと思われる速いパッセージが使われています。

 二重唱はまず4小節女声がソロを歌い、次の4小節は男声がソロを歌い、繰り返しから一緒に歌います。"Dana Dana,,,"はまず女声が旋律を歌い、男声は3度重ねたり跳躍したりします。もう一度繰り返し、今度は男声が旋律、女声は "Dana"や"Ah"の歌詞で、高い音や跳躍した音程を含む技巧的な別の旋律を重ねます。したがって"Dana Dana,,,"は2回繰り返されています。「非常に、速度を次第に落として "molto rit."」で次の節へと旋律を繰り返します。ところどころ3度を充填する音がないなど、現在歌われている音と異なっています。

 合唱楽譜には、私が加えた言葉と同じ"ha ha ha "の笑い声が使われています。私は順次進行上行形で使いましたが、作曲者自筆譜は分散和音下行形で使用しています。ソプラノに半音階的下降形が使用され、二重唱と同じ旋律はところどころにみられます。

3) 原詞

原曲はイディッシュ語(ドイツ語、ヘブライ語、スラブ語の混合語でヘブライ文字で書かれ、ユダヤ人に用いられている語)です。以下はアルファベット綴りにした原詞です。ヘブライ文字による詞は前掲したhttp://www.yap.cat.nyu.edu/ で見ることができます。

 

"Dana Dana"

oyfn furl ligt dos kelbl,
ligt gebundn mit a shtrik.
hoykh in himl flit dos shvelbl,
freyt zikh, dreyt zikh hin un krik.

lakht der vint in korn,
lakht un lakht un lakht,
lakht er op a tog a gantsn
mit a halber nakht.
dana dana, dana, ...

shrayt dos kelbl, zogt der poyer:
ver zhe heyst dikh zayn a kalb?
volst gekert tsu zayn a foygl,
volst gekert tsu zayn a shvalb.

bidne kelber tut men bindn
un men shlept zey un men shekht,
ver s´hot fligl, flit aroyftsu,
iz bay keynem nit keyn knekht.

4)「ダナダナ」"Dana Dana" / 「ドナドナ」"Dona Dona"とは何か。

 1.「ラララ...」、2.「ドウ」、3.「牛」、4.「Dana=女性名」の4点のいくつか、またはその全てが含まれていると仮定し、多くの資料を調べ、次のように検証しました。

1.「ラララ・・・」のような繰り返しことば

 検証 : 作詞者アアロン・ザイトリンAaron Zeitlin がポーランドに住んでいたことと、ミュージカル「エステルケ」がおそらくポーランドを舞台にした内容であることに注目し、ポーランド語を調べました。"Dana Dana..." はポーランドでは「ラララ...」として使われているそうです。

2. 牛を追うことば
 
検証 : 下に推薦したユダヤ人歌手Chaba Alberstein の解説によると"Dana Dana / Dona Dona" は牛を追い立てる時に使用される言葉のようです。

3.「牛」ということば
 検証 : 
"Dana" はトルコ語で「牛」の意味です。

4.女性名
 検証 : ご存知の方も多いようですが、"Dana" はユダヤ女性によくある名前だそうです。(ドイツ人にもDanaさんがいますが、あるダナさんは、学校でトルコ系のクラスメートから"K
älbchen"(牛ちゃん) と呼ばれていたそうです。

 なお国内資料で、ある同一邦人からの引用により「原詞は"Donay"と綴られていて、アドナイ=主よ、が隠されている」という推論した記述をいくつか目にしましたが、私はそうは考えていません。
もし元の詞が"dona-"だったら「ドナイ」に近い発音であるらしく、「アドナイ」が隠されている可能性はありましたが、元は"Dana-"であったことを自筆譜から確証を得ました。


5)「ダナダナ」"Dana Dana" / 「ドナドナ」"Dona Dona"が表すのは何か。

 作詞者アアロン・ザイトリンAaron Zeitlinはゲットー(ユダヤ人を隔離して居住させた地域)を描いた詞を多く書いたようですが、ミュージカル「エステルケ」にはゲットーは描かれていないようです。しかし「ダナダナ」"Dana Dana" / 「ドナドナ」"Dona Dona" にはユダ
ヤ人をホロコースト(大量虐殺)に強制連行する内容が少なくとも隠されていることは、ほぼ間違いないと考えています。

6)「ダナダナ」"Dana Dana" が「ドナドナ」"Dona Dona" になった訳

 
上述したように"Dona Dona" はもともとは"Dana ー" だったのですが、1956年にアルトゥーア・ケヴェス Arthur Kevess とテディ・シュワルツ Teddi Schwartz の名で英語に訳された時、シュワルツが"Dana" から"Dona" に変更しました。シュワルツは
「ドナ」と歌われることを意図したわけではなく、「ダナ」のように発音されるように綴りを変更したと推測されています。("Dana"を「デイナ」のように発音されるのを忌避したのではないかと推測しています。 あるドイツ人Danaさんは、発音からアメリカ人は"Dana" を"Dona"と綴ると語ってくれました。作曲者Shalom Secunda がしばしばSholom Secundaと綴られているのも同じ理由ではないかと考えています。)また上の英語訳詞 "down"は英語の「ダウン=降りろ」ではなく、「ダン」または「ダ」に近く発音されることを期待して綴ったと考えられます。イディッシュ語自筆譜には"dana...da"と綴られています。(英語訳で"down"ではなく"don" と綴っているものもあります。下に書いた Joan Baez は"don" で歌っています。)。

こうして"Dona Dona" になった"Dana Dana" は、こうした事情を全く知らなかったと思われるJoan Baez が「ドナドナ」と歌ってヒットしたことから"Dona Dona" 「ドナドナ」と呼ばれるようになりました。

7)雰囲気


 時代的にも民族的にも「三文オペラ」の作曲者クルト・ヴァイルと共通しており、また旧東ドイツ国歌や、魅力的な「モルダウの歌」(スメタナの「モルダウ」の旋律を基にした歌)の作曲者アイスラーにも共通しますが、「激しく感情をぶつけるような」雰囲気が必要です。先に述べたように「ドナドナは」ユダヤ人を大量虐殺するために強制連行する模様を含み、当時代のユダヤ人によって作られた歌なので、ゆっくり悲しみに浸るようなテンポでは表現できないものがあります。このページのMIDI演奏は気軽に歌えるよう四分音符132にしていますが、152位がさらに良いです。

なおMIDI演奏は詞の内容を以下のもので表現しています。(ソプラノとバリトン二重唱ピアノ伴奏付き)

荷馬車の音 〜ピアノの左手
子牛の泣き声〜1、2節前半の右手
風の笑い声〜"hahaha!"(ハハハ!)の部分及び同じ音型のピアノ
          歌詞は嘲笑、音は苦しみと悲しみを表す。
 3節の"Dana dana..."に入る前のピアノ、オクターブで弾く三つの音〜屠殺
したがって当編曲において3節の"Dana,dana"ではもう子牛は殺されています。
3節の空高く飛ぶツバメ(ユダヤ人の自由な精神)〜ソプラノの高い音Ah! 


2.日本語訳 (訳 渡辺美奈子 2001年10月) 歌うための訳詞は下にあります。


「ダナ −」

1頭の子牛が荷馬車の上で縄をかけられ横たわっている。
ツバメは空高く嬉しそうに行ったり来たり飛び回っている。

穀物畑の間を吹く風は笑って笑って笑って笑う。
昼も夜も笑っているよ。

ダナダナ...

泣きわめいてるぜその子牛、と農夫が言った。
「誰がお前を子牛だと定めたんだ?何でお前は鳥であることができなかったんだい、ツバメであることができなかったんだい?」
哀れな子牛は縛られ、引かれて行って屠殺される。
翼を持つ者は高く飛んで決して奴隷にはならないよ。



3
. 日本語訳詞 (訳詞 渡辺美奈子 2001年11月)


「ダナダナ」


1.縛られた悲しみと
  子牛が揺れて行く。
  ツバメは大空
  スイスイ飛び回る。

(繰り返し)
  風は笑うよ
  一日中。
  力の限り
  笑っているよ。

  ダナダナダナダナ
  ダナダナダナダン
  ダナダナダナダナ
  ダナダナダナダン

2.「泣くな!」農夫が言った。
  「お前は子牛か?
  翼があったなら
  逃げて行けるのに!」

3.捕らえられむざむざと
  殺される子牛
  心の翼で
  自由を守るんだ!



4. 推薦CD

1) Chaba Alberstein "Yiddish Songs" Record Label EMD Distribution

Chaba Alberstein
 は、戦後すぐにポーランドで生まれ、イスラエルを経てアメリカで育った歌手。なかなか感動します。
ポーランド、ロシア、ルーマニアなどで作られたイディッシュ語の歌を集めたもので、ほとんどがナチ時代のホロコーストに関連している。
"Dana Dana / Dona Dona"はこのCDの中では例外的にアメリカで作られたもの。 CDはアマゾンなどでまだ買うことができます。(ご希望される方は急いだ方が良いと思います。)


2) "Dona, Dona "- The Zamir Chorale
合唱団 The Zamir Chorale による演奏 
http://jewishmusic.comにてCDの販売等。


5. 参考 英語訳詞

"Dona Dona"

1. On a wagon bound for market
There's a calf with a mournful eye.
High above him there's a swallow
Winging swiftly through the sky.

(refrain)
How the winds are laughing
They laugh with all their might.
Laugh and laugh the whole day through
And half the summer's night

Dona dona dona dona
Dona dona dona down (don).
Dona dona dona dona
Dona dona dona down (don).

2. "Stop complaining," said the farmer,
"Who told you a calf to be.
Why don't you have wings to fly away
Like the swallow so proud and free?"

3. Calves are easily bound and slaughtered
Never knowing the reason why.
But whoever treasures freedom,
Like the swallow must learn to fly


次は英語訳からの直訳です。イデッシュ語原詞の意味と英語訳で異なるところや解説が必要な箇所には注をつけました。)

1.荷馬車の上に、縛られた一頭の子牛がいるよ。(注 牛はユダヤ教の捧げものとの関連か)
目に悲しみをためて、売られていくんだね。
子牛の頭上には、迅速に空中飛び回るツバメが一羽。(注 原詞は 「空高くツバメが行ったり来たり喜んでいる。」)

(繰り返し)
風は何と笑うことか。(注 この風は穀物畑の間を吹く風。したがって風音が笑っているかのように聞こえる。)
力の限り笑っているよ。
夏の夜半にかけて一日中笑い続けている。(注 原詞には 「夏」は表されていないが、穀物畑の間を吹く風であることと、英語のリズムによると考える。)

ドナドナドナ・・・

2.「泣き言を言うんじゃねえ!」農夫が言った。(注 原詞では次からが子牛に語っている言葉)
「誰が、お前は子牛だ、と定めたんだい?」
翼を持った誇り高いツバメのように自由に飛んで逃げてったらどうかい?」(注 原詞は 「何でお前はツバメであることができなかったんだい?」

3.子牛たちは、訳も分からず、簡単に捕らえられて、大量に殺される。(注 原詞は「哀れな子牛は連れ去られ屠殺される。)
でも自由を守るにはツバメのように飛び方を習わなければならない。(注 原詞は 「翼を持つものは高く飛び、誰の奴隷にもならない。」)

それぞれの表す意味は次の通りと考えています。。
子牛=捕らえられたユダヤ人
1節のツバメ=迫害されない定めに生まれた人
農夫=ナチ、あるいはナチに共感する人
3節のツバメ=捕らえられたユダヤ人の自由な精神


歌詞の意味と位置がずれないよう、編曲にできるだけ合うよう、訳してみました。全部の言葉を入れることができず、残念ですが、 是非私の訳で「ダナダナ・・・」と歌ってくださいMIDIは4分の4拍子で4分音符132ですが、152位の方が良いです。速く歌うのではなく、フレーズのまとまりと言葉のまとまりを同時に感じながら歌ってください。


6.その他

 "Dona Dona"は1960年代半ば Joan Baez によって国際的にヒットしました。政治犯として多くの学生たちが連行された軍事政権下の韓国では、政治批判を表す「共産主義の歌」として禁止されました。私は2001年11月25日の編曲前には彼女の名前すら知らず、演奏は彼女を含めいかなるCDも聴きませんでした。伴奏付きの楽譜も一切目にせず、印象はドイツ語訳や英語訳詞から直接受けたものでした。2001年12月4日初めてJoan Baezの"Dona Dona" を聴き、 歌を広めた彼女の功績は大きいものの、歌の雰囲気はあまりに異なると思いました。彼女の歌を愛している多くの方々にとっては元の"Dana-"や私の編曲は違ったイメージと感じると思います。ギターを持って歌う彼女の歌は、フォークソングの流行した当時の歌い方でありまた感傷的で万民受けしそうな歌い方であると感じました。なお"Who told you a calf to me."歌詞のつき方が私の楽譜と異なっていました。彼女は高く強調される音に"you"を、私は"told"を付けました。

"Dana Dana / Dona Dona" のためにアルファベット言語を母国語とする諸外国の資料等をたくさん調べましたが、ミュージカル、曲の背景などに関しては推測が多く、研究の余地を多く残しています。幸い"Dana Dana"の自筆譜をインターネットを通して見ることができるため、音楽的観点に関しては、楽譜から直接感じ取ることができます。

 
以上2001年11月


追記    2004年2月18日記述
 後日、松山大学の黒田晴之氏が、
論文「『子牛』のまわりにいた人たち−ある歌の来歴をめぐるさまざまな問い」「港 ナマール 2003 第8号」(日本ユダヤ文化研究会発行)の注釈と謝辞に12行ほどに渡って、私の名、サイトアドレス、「ドナドナ」の内容について好意的に書いてくださいました。謹んで謝辞を申し上げます。


 黒田晴之氏の前掲論文には、Aaron Zeitlin とShalom Secundaについて、『子牛』(ドナドナ)の歌詞について、さらに『子牛』をめぐるさまざまな問いについての内容が、読みやすい文体で
詳細に書かれています。各行を移動させない詞の訳も名訳で、特に興味深いのは、「水平の動きと垂直のそれとの微妙な交錯」(前掲論文7ページ)に目をつけたことです。また、いろんなサイトで「ドナドナ」の詞がYitzhak Katzenelson のものである記事を目にしましたが、そ の点についても詳細に書かれています。(注)


(注) すでに述べたように、
Yitzhak Katzenelsonについては、特に国内サイトで「ドナドナ」の 作詞者であるとする あやまりが多く、私もKatzenelsonについて 、このページを開く前に生涯や作品などを調べました。しかし私は「ドナドナ」の作者をAaron Zeitlinである、と判断したため、特に記述しませんでした。黒田氏の論文には、Yitzhak Katzenelsonが「ドナドナ」作者とされた経緯などについて書かれています。


記述、 ページ公開 
2001年11月
追記以外は2001年です。

追記 2004年2月


無断でのご使用はご遠慮下さい。
MIDI演奏は個人で楽しむ以外の使用を固くお断りします。

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