バイオというのは生物、テクノロジーというのは技術、つまり、バイオテクノロジーとは、生物に関する技術の総称と考えてもらえばいいと思います。さて、そのバイオテクノロジーの中には、(1)遺伝子操作に関するもの。(2)細胞培養に関するもの。(3)酵素利用に関するもの。と三つの大きな柱があり、さらに(1)の中には、遺伝子組換え、細胞融合、染色体操作などの技術、(2)の中には、プロトプラスト培養、組織培養、器官培養などの技術、(3)には、バイオリアクターなどの技術があります。
食用きのこの場合には、育種(品種改良)についてバイオテクノロジーが、その中でもプロトプラスト培養、細胞融合、遺伝子組換えが役立つとされています。具体的には、きのこ栽培の大きな障害となっている害菌に対して抵抗性を示す品種の開発とか、針葉樹に生えるきのこの開発とか、マツタケの香りをシイタケに移すとか、あるきのこにはない色を他のきのこから移すとか、まるで夢のような話ですが、いろいろな点でバイオテクノロジーの利用が期待されています。以下では、食用きのことバイオテクノロジーの手法について話を進めたいと思います。
★ プロトプラストの培養
プロトプラストとは、きのこを培養した菌糸(糸状菌糸)を、きのこの細胞壁を溶かす酵素液(トリコデルマやカタツムリなどからも抽出できます)の中で処理して裸にした細胞(単細胞)のことをいいます。大きさは、1/200mmくらいのごく小さなものです。このプロトプラストを養分の十分入った容器の中で、無菌的に培養してやると、やがて数%の割合で生きかえって(再生)きます。再生したプロトプラストは、以前とは多少異なった性質を持っている(変異)場合があり、これを品種改良に応用しようとするものです。また、プロトプラストの培養技術は、細胞融合や遣伝子組換えの基礎となるもので、すでにかなりのきのこで可能となっています。
★ 遺伝子組換え
遺伝子組換えの技術は、理論的には最も進んでいますが、食用きのこについては、研究が始まったばかりで、遣伝子を運ぶベクタ−の開発や遺伝子ライプラリーの作成など、問題が数多く残っています。技術が一応でき上がって実現化するまでには、まだ数年を必要とすると思われています。
技術が最も進んでいる細胞融合については、次号で報告します。
日本の食用きのこに関するバイオテクノロジーの研究は、やっと始まったばかりで、基礎的な技術でさえも確立されたものが少ないのが現状です。しかし、これからの研究は日進月歩の勢いで進むことが予想され、近い将来、みなさんのあっと驚くようなきのこが品種として登場するかもしれません。
(特用林産科・野上)
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