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編集部・・・まずこの「藍より青し」(以下、藍青)を描くことになったきっかけを教えてください。
文月先生・・・そうですね、当時いろんなオファーが来ていたんですけど、そのなかでいまの担当さんが、開口一番に、「文月くんの漫画、最近読めるようになってきたよね」って話をされて(笑)、それがすごく面白かったんですよね。
誉められるのは好きですし、嬉しいんですけど、当時は自分の中で「まだ成長したい、どうしたら成長できるんだろう」って考えていた時期でもあったんで、この編集さんなら鍛えてくれるかなって気がしましたね。
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「藍青」で言うと、縁(えにし)ですね(笑)。
ところではじめての青年誌ということで何か気遣うことはありましたか?
うーん…、以前は描きたいものを比較的、自由に描かせてもらったんですけど、そこから移って、…やっぱりプレッシャーは強かったですね。
いろんな先輩方が、マイナー誌からメジャー誌に移っていきますけど、やっぱり成功する、軌道に乗るヒトは少ないですよね。
美少女系でデビューしたら、美少女系のまましかいられないみたいな変ないわれをなんとか打ち破りたいというのはありましたね。
隔週というペースについては、編集さんにうまく調整してもらいました。
実際、時間はかかりましたけど、幸いにも「藍青」って、はじめはアパートに男女二人だけという、それほど広くない世界観でしたので、そういった意味では作画ペースは楽でしたね。
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キャラクターについてですが、ヒロインの葵の設定にはだいぶ苦労されたみたいですね。
最初、葵はヤンキーの設定でネームを出したんですけど、「つまんない」って突っ返されて(笑)、まぁ、要点としては恋愛ものということはまずあったんですよ。
ただキャラ設定で、ヤンキーだったり、人間でなかったりとか、色々考えたんですけど、結局、要素が付きすぎちゃって、情報が整理しきれないということになったんですよ。
そこで極力そういう情報を軽くしようということから始まって、それで和服の女性、古風な感じ、許嫁、というキーワードがネームを繰り返していくうちに出てきましたね。
まぁ、和服は記号として、ちょっと純な感じが出せるという点で非常に良い道具ですね。それでも葵というキャラは心理描写の部分がすごく強いですし、どうしてもあんまり動いてくれない子なので、いまだに手探りというのが正直なところですね。
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確かに葵が突然騒ぎ始めたら、我々もビックリしちゃいますね。
その場その場で面白く動いてくれないんで、「どうしようか?」って戸惑うときがよくありますね。
でも逆に葵と薫以外は比較的、自由に動いてくれるんですよ。それだから、その動きの中からいくつか良いものを取り揃えていくという感じですね。
でもやっぱり葵と薫については、無意味な行動をしないキャラなんで(笑)、だから毎回なにかの条件、情報を与えないといけないんで、すごく悩みますね。
実際「こんな風に動いてくれるといいなぁ」って思って、ネームを始めるんですけど、キャラクターらしさが出ない時なんかは、全然動きませんから、そのための仕込みを用意するのが一番難しいです。
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他のハーレムラブコメと違って、薫を好きになっていく過程に積み重ねが多く、「引っ張るなぁ」という印象なんですが、その辺は考えているのですか?
やっぱりアニマルという雑誌の対象年齢が18歳以上ぐらいの分別のある大人が読むので、ただ記号として出すだけでなく、なにか理由や情報を出さないと読者が納得してくれないんで、キャラクターを立たせるという意味でも、単行本1冊分使うようになっちゃいますね。
逆に低年齢の読者が対象の雑誌で連載だったら、もっと単純な、わかりやすいものにしたでしょうね。
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タイトルは和服のイメージからですか?
そうですね。イメージタイトルですね。あと「藍青」と4文字で略せるというのと、色のイメージがなにかついたほうがいいかなって思いましたね。
コトバの意味も引っかかっていますし、「〜し」で終わるのもなんとなく古風なイメージがあって気に入っています。
実は第1話のネームが出来た段階では、まだタイトルが決まっていなくて、予告を掲載するときに、やっと決まったんですけど(笑)。
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各話のタイトルについて聞きたいんですが、大変じゃありません?
大変ですね(笑)、実際「横恋慕」(71話)というタイトルを付ける際、うっかり「恋慕」(37話)って同じのを使いそうになったこともありますから。
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ところで作品を見て、ちかがお気に入りのような感じがしたんですが?
たしかに、ちかは面白いですね。彼女だけ唯一「ウラを取っていない」というか、他のキャラのように経験を基にした行動原理を気にせず動かせるんですよね。
でもそれだけに、彼女については見ているだけで楽しませないといけないキャラなんで、描く側も楽しんで描かないと、読者に伝わらないんで、楽しもうとしていますよね。
それとアニメのちかが登場する回は楽しいですよ、ぜひそれも見て欲しいですね。
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そのアニメですが、アニメになった感想について教えてください。
「続けて良かったな」(笑)って思いましたね。
でも結構他人事として見ていますね、「自分が良く知っている漫画のアニメが始まったんだ」というような感じで、あまり現実味はないですね。
ある意味じゃ、ファンと同じ感覚ですね
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変な質問なんですが、ご友人でもある「まほろまてぃっく」のぢたま先生と流れが似ていますよね。
美少女誌から一般誌に、そしてアニメになって、実は声優とプロデューサーも同じという(笑)、やっぱりなにか意識されますか?
そうですね・・・。仲が良いように見えて、あんまり連絡を取っていないんですけど、しかもこの間の電話の時も、すぐ終わったし(笑)。
う〜ん、そうだなぁ・・・、一緒に同人誌もやっていましたし、比較的近い存在が同じように成長してくれているのは、ボクにとってはありがたいですね。
彼はどう思っているか知らないけど、ボクはボクなりに彼に対してコンプレックスを持っているので、それが非常にプラスになりますね。
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やっぱり相手が成功したら、「良かったね」と思う同時に「オレも頑張るぞ」って感じですか?
やっぱり相手の仕事ぶりは気になりますし、外で、「まほろ」の立て看とか見ると、「畜生、オレも作るぞ!」(笑)とか思いますね。
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漫画の内容に戻りますけど、この作品を描く際に気遣っている点はなんですか?
そうですね・・・、葵を描く際は気を遣いますね。彼女は表の顔と裏の顔の二面性がとても強いんですよ。
例えば、すごい辛いときでも、みんなの前では「大丈夫です」と言っている彼女の心の中にある涙を読者に理解させないといけないんですよ、その気持ちを出す表情が難しいですね。
葵役の川澄さんからもその点が難しいって言われましたね。声のトーンで表の気持ちと裏の気持ちを表現する、「すごい至難の業だったのかな」って思いますね
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もう一つ内容で伺いたかったのが、大ゴマの使い方があるんですけど、アレって、まるで必殺技みたいですよね、「リングにかけろ」(車田正美先生)でいうギャラクティカ・マグナムみたいな(笑)。
ハハハ(笑)、そうですね。その辺は担当さんにだいぶ鍛えられました、「ページとはこう使うんじゃあ!」みたいな(笑)。
それとテンポというか、ページの「見開き」と次への「めくり」は気にしていますね。
この点、実はボクがすごくインスパイアされた作品がありまして、「エルフを狩るモノたち」(矢上裕先生)なんですけど、すごくうまくて、わかりやすいなぁって思いましたね。
ボク自身も見せたいところ、伝えたいセリフをわかりやすく、これが基本ですね。
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結構肝心なコトを聞いちゃうんですが、ティナの今後の展開が気になるんですが・・・。
他のキャラも含めて、最後はどんな感じに考えているんですか?
ティナは9巻で一気に人気が出ましたねぇ(笑)。涙も始めて見せましたし。
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オトコは単純ですからねぇ。
しかも2ページ見開きですからねぇ、必殺技の破壊力も2倍ですね(笑)。
あと「藍青」の面白さの一つとして、「泣き漫画」であることがあると思うんですよ。
葵の「泣き」から全ての面白さが始まっていて、ここまで膨らんでいる作品ですから、やっぱり「泣き」で始まった以上は、悲しい涙や笑い泣きみたいなものも含めていろんな「泣き」で締めるのが一番いいのかなぁって思ったりはしますね。
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キャラもはじめからこれだけ出すつもりだったんですか?
はい。1巻と2巻以降からのテイストが違うことは見ての通りなんですが、ぶっちゃけて言うと、この漫画はアニメにしたかったんですよ、最終目標として。
実は「藍青」のファンの中には、「藍青」は葵と薫の二人の積み重ねが全てというヒトもいるので、時々ある、ドタバタハーレムラブコメな話や、ちかのようなキャラが暴れる話が馴染めないという方も実際いらっしゃいますね。
でも暗い話ばかりが人生じゃないし、例のティナの件も、72話のノリで続けていくと物語が暗くなっていくので、73話のテニスのように全くノリの違うドタバタものを入れてみたんです。
でもそこにはティナの薫に対する感情が既に情報として入っていますし、そうしたことの積み重ねで微妙な三角関係が浮き出せれば、キャラクターに深みが出せればと思いますね。
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そう言った意味では「藍青」は2巻以降の漫画だけど、それも1巻での積み重ねがあったから生きているんですね。
それでは最後にファンの方にメッセージをお願いします。
そうですね・・・、ファンの方にはベースとなるストーリーはもちろん、ドタバタなノリも楽しんでもらいたいですね、これからも頑張ります。