名 称
獨行道(どっこうどう) 肖像拡大
員 数
1幅
形状等
形状:紙本墨書・掛幅装、寸法:縦16.8cm、横97.3cm
種 別
県指定重要文化財(書跡)
所在地
熊本県熊本市二の丸二番 熊本県立美術館内
所有者
熊本県立美術館 熊本県熊本市二の丸二番
概 要
 本書は、豊田正剛が記した『武公伝』に、「武公(武蔵)自誓ノ書ノ中ニ佛神ハ尊シ、佛神ヲ憑マズト在リ」と引用され、また「一 岩上鵜并自誓書軸 正保二年五月十二日トアリ、是皆豊田家ニ傳ワル」と記しているように、豊田正剛以降八代城下で兵法師範を勤め二天一流を広めた豊田家に伝わったものである。その後所有者を転々とし、鈴木猛氏の遺志で県立美術館に寄贈された。

 本書の体裁は、右端に「獨行道」と題され、以下に一ツ書き形式で21箇条を書く。各条は、一行に書き終わらない残りを二行目の下半分に収めるよう字配りされる。また、天地に余白が少なく、明らかに上部を切り詰めている。

 丸岡宗男氏らを始めとする研究者によると、武蔵の書で現存するもののうち自筆とみて間違いないと考えられるのが吉川英治記念館と八代市立博物館の所蔵する2通の書状であるとされる。筆跡を比較すると、本書と2通の書状で共通する文字である『事』『思』『共』『貴』は書体が酷似する。また全体的な筆癖として、(1)各字が左に傾斜すること、(2)筆の穂先を軽々と回転させて書き、文字が丸みを帯びることなどが共通している。更に決定的と思われることは本書の書体の独自性で、江戸時代の書で知られるものを通観したとき、類似の筆跡は見あたらず、類型的でない孤立した筆跡の特徴を持つと思われよう。以上から本書は写しである可能性は低く、武蔵自筆と考えられるものである。

 『武公伝』では自誓書と呼ばれているが、題の「獨行道」は「独りの行いの道」、即ち、ただ一人で行い来たった自らの生き方の規範を述べたものと考えられる。「我事におゐて後悔をせず」「道におゐては死をいとはず思う」「佛神は貴とし佛神をたのまず」など、克己的で強い自我意識が見てとれる独特な人生訓となっている。

 ところで、本書末尾には正保2年5月12日の日付と武蔵から寺尾孫之丞に与えた奥書を有する。しかし、題名および21箇条の本文と奥書部分は墨色が異なる。奥書の書体も、前述の宮本武蔵書状にある署名あるいは花押と比較したとき、相違する部分が大きい。更に「二天」の額印が押されるが、位置が不自然であり、これも後印と思われる。年月日以下を後の書き入れと考えたほうが自然であろう。日付は武蔵死去の7日前であり、宛名が寺尾孫之丞であることは『五輪書』の奥書と共通している。武蔵の直弟子、寺尾孫之丞の系統に本書が相伝されていったことを物語っている。

 以上この「獨行道」は、宮本武蔵の自筆と確認できる貴重な史料であると共に、武蔵の特異な人生観・武道観の直截な表白として、思想史上も注目されるものである。

<参考文献>
『熊本の美術II−武蔵とその周辺−』昭和52年 熊本県立美術館
『宮本武蔵名品集成』昭和52年 講談社
『武公伝』豊田正剛、豊田正脩 宝暦5年


熊本県立美術館