ウィザーズ社公式サイトより、ローウィンプレビュー

  ローウィンの状況

by Mark Rosewater
Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru


 ローウィン・プレビューにようこそ! これから秘密を徐々に公開していくよ。今までのプレビューを注意深く読んだ人は気付いてると思うけど、私のプレビューには2種類あるんだ。一つはプレビュー・カードについて色々話したあとで、実際の画像を最後に見せるタイプ。もう一つは最初にプレビュー・カードを見せて、それからそれについて話すというタイプさ。今日は後者のほうでいこうと思う。まずはこのカードを見てもらうのが一番衝撃的に伝わると思うよ……部族とか、環境とか、「すっげぇ!」って驚きとかがね。

 さて、じゃあまずコイツを見てくれたまえ!

 まあ見たまえ。どうだい、「すっげぇ!」って思ったろ? これを最初のプレビュー・カードとして取り上げたわけが判るだろ(何が最初のプレビューかってのは重要だからね)。このカードは、私がこのコラムで取り上げたい、ローウィンの重要なことを全部含んでるのさ。つまり、さっきも言ったけど、部族、環境、それに驚きについて、今日のコラムで取り上げたいと思ってる(もちろんローウィンにはそれ以上のいろんな要素がたっぷり詰まってるけど、それについては次のプレビュー・コラムとか、発売後のコラムとかを見てくれたまえ)。

★あと6人

 ローウィンの珍味の山に飛び込む前に、デザインチームの紹介をさせてくれ(まあまあ、最初のプレビューだけなんだから、待っててくれよ)。

★アーロン・フォーサイス(リーダー) ─ マジックのデザインの仕方は次のようになってる。まず、デザインチームの一員になって、それからもう少し仕事して、やがて小型セットのデザインのリーダーになる。それが上手くいったら、もう一個の小型セットのリーダーを務める。充分な経験を積んだ、あるいは最初の小型セットがとても上手くいったら、大型セットのデザインのリーダーになれる機会を得るんだ。ローウィンはまさにそれで、アーロンが初めてリーダーに挑戦した大型セットなんだよ(彼はディセンションのリーダーで、それはもう素晴らしい出来栄えだったんだ)。アーロンはローウィンのデザインに関する特集記事を書くことになるだろうけど、その前にちょっとだけ。ともかく、ともかく疲れるんだ。大型セットのデザインは小型セットとは比べ物にならない。何故かっていうと、大型セットはブロック全体の計画、つまりその先1年の計画をたてなきゃいけないからね(ああ、まあ今回は半年だけどさ)。

 いろんなデザイナーと仕事してきたけれど、アーロンが見せてくれたような直感を見せてくれた人はあまりいないね。アーロンが最初に参加したのはフィフス・ドーンだったんだから、2年半で大型セットのリード・デザイナーになったわけだ。2年半というのは長いようにも聞こえるかもしれないけど、マジックのデザインにおける最短記録だよ。でも、アーロンはそれだけの腕を持っているし、彼にローウィンを任せることになったときには嬉しかったね。

★ポール・ソトサンティ ─ ここのコラムでは話題にあがらないけれど、ウィザーズの開発部にはマジック以外のゲームを担当している人たちもいる。実際のところ、開発部の大半は別のゲームを担当しているんだ(ツッコミを入れられる前に書いておくけど、TCGの開発部の大半はマジック関連の仕事をしてるよ。でも、ウィザーズではTCG以外のゲームも開発してるからね)。つまり、開発部にはマジックの仕事をしていない、才能に溢れたデザイナーがたくさんいるということだよ。で、私のヘッド・デザイナーとしての仕事の中には、そういう連中をマジックのデザインに関らせるってことも含まれてる。これってのはそう難しい話じゃないんだ。で、ポールは今まで他のゲームのデザインをしていた。ローウィン以前のマジックでの彼の寄与は(次元の混乱のデザイン・チームにいたこと以外では)、彼がまだ海外にいたときの、マジック・オンラインのヴァンガードでの、アバターの能力じゃないかな。モミール・ヴィグ(カードじゃなくてヴァンガードのアバターの方。オンラインでプレイするときに使う奴)のデザインをしたのが彼なんだ。ポールが次元の混乱のデザインでいい仕事をしたと思ったから、私はもう一回マジックで使おう(上記のデザイン上の出世経路を見てくれ)と思って、ローウィンで仕事させるのが妥当だと思ったんだ。ポールはやっぱりいい仕事をしたよ。次のモーニングタイドでも、彼の名前をデザインチームの中に見ることができるはずさ。

★ブラディ・ドマーモス ─ ブラディについてはこれ以上説明の必要はないと思うね。彼はもう何年にも渡ってワールド・デザイナー(つまり各ワールドがどう独創的であるかを作る人だ。これについては前にコラムで書いたことがあるね)を務めている。で、ローウィンのデザインチームに彼を入れることになった理由は、時のらせんブロックの混乱について考えたときに、次の世界はもっと直接的で確固たるモノ、つまりこってりした時のらせんブロックの後に続くさっぱりしたシャーベットが欲しいということになった。そうするために、出発点としてワールド・デザイナーの力が必要になったのさ。ブラディや他のクリエイティブ・チームがわざわざ後で世界を拡張するのではなく、世界を構築する時点で機械的に選択できるようにとね。その決定は、機構と雰囲気が巧い具合に絡み合うといういい結果をもたらしてくれたと信じてるよ。

★アンドリュー・フィンチ ─ このデザインチームを組む時点では、アンドリューは新しいゲームのディレクターだった(彼は今は電源系ゲームの初期開発とGleemax.comにどっぷり腰まで浸かってるからね)。でも、彼はいつでもマジックのデザインチームに入りたいと言っていて、今回のローウィンに関してはわざわざ私のところまで来て入れないかって聞いてきたんだ。アンドリューとはマジック以外のデザインチームで何度も組んでるし(例えばデュエル・マスターズの初期デザインチームには2人とも所属してたんだよ)、彼は充分な実力を持ってると知っていた。だから受け入れたわけだ。デザインの途中で、彼は別の仕事、つまり他の新しいゲーム、のためにチームを離れることになったけれど、それでも彼の協力は有意義だったよ。

★ネイト・ハイス ─ アンドリューが去った後(ブラディは、デザインが彼の目指していたところからどんどん離れていると判断し、時計の針を戻すことにした)、新しいチームメンバーが必要だということになった。さっきも言ったとおり、私は他のウィザーズのゲームからデザイナーを引っ張ってくることも仕事のうちなんだ。で、ネイトはそういったメンバーの一人だった。ネイトには元プロプレイヤー(で、magicthegathering.comで記事を書いたこともある)という大きなアドバンテージがあり、マジックを知らないわけじゃない。今回初めてデザインチームに入った彼は、割り当てられた大仕事に最初から最後まで全力で取り組み、そして立派な結果を残した。それだけじゃなく、強烈な……おっと、これは「Jelly」に回ったんだった(これについてはまだ話すことはできないね)。真面目な話、ネイトは素晴らしい仕事をして、彼の足跡はセットのそこかしこに見受けることができるよ(その靴を洗う必要はあるかもね)。

★マーク・ローズウォーター ─ 最後になったけど、どのチームにもチームメンバーに自信を持たせる5つ目の車輪が必要なんだ。私のデザインチームの勢いを殺さない(それに、アーロンの初めての大型セットのデザインを助けることも必要だ)ために、時間を取れるかどうか考えてから、私は私自身をチームのメンバーとして加えることに決めたんだ。1枚か2枚はカードのデザインもしたから、それについてはまた次のコラムで話すこともあるかもね。

★私の『タイプ』

 紹介はこれぐらいにして、本題に入ろう。まだ聞いたことがない人のために説明しておくと、ローウィンは部族セットなんて言われてる。部族セットというのは、つまりクリーチャー・タイプ(ゴブリン、エルフ……)に関連して作られたセットということだ。一番最近の部族をテーマにしたブロックは、それは最初でもあったんだけど、オンスロート(フォールン・エンパイアだという話もあるけど)だ。オンスロートは人気があったから、そのブロックの最後にはいつかまたやろう、というメモがつけられたんだ。実際、このブロックにあたって最初に決めたのは部族をテーマにしようということだった。他の色んなことを思い付くよりもずっとずっと前の話だよ。ブロックが4つのセットからなるという話もまだなかった。実際、コードネームが公開されるよりまだ前に部族セットにしようという話は進んでたんじゃなかったかな。

 それから、4セット・ブロックの話が来て、2つの小型ブロックということを考えついたんだ。まだ公開できないある理由(「Jelly」の最初のコラムまで待ってね)によって、部族は1つめの小型ブロックのテーマに相応しいんじゃないかと思ったんだ。このセットをアーロンに渡す時(つまりデザインチームのミーティングが始まった時)に、いくつかの注意を与えたんだ。

1.このセットは部族をテーマとしている。

2.このセットでテーマに挑む手法は、オンスロート・ブロックのものと違うものにすること。ラヴニカをインベイジョンに例えると、ローウィンはオンスロートに当たる。これに関するいくつかの考えをそこで開示したよ(内容は次のコラムをお楽しみに)。

3.1つめの小型ブロックは、大型ブロック全体でも働かなければならない。(アーロンには2つめの小型ブロックをどうするべきかという考えを教えたよ。私がリードだけど、その時点ではまだ始まっていなかった)

 セットごとのリード・デザイナーとマジックのヘッド・デザイナーとの通常の関係通り、アーロンと私はどの領域を掘り進めるのがいいかについて議論を重ねた。最後に、数回のミーティングを経てローウィンで焦点を当てる8つの部族を選びあげたんだ。(どうやって選んだかについては多分アーロンがコラムにすると思うよ)

ゴブリン
エルフ
キスキン
エレメンタル
マーフォーク
フェアリー
巨人
ツリーフォーク

 主流の種族5つは最初に書かれている5つで、主流じゃないのが残りの3つだ(あ、リミテッドでも構築でもそれを主軸にしたデッキを組むことが出来る程度にはカードが入ってるから安心して)。これらの部族がどうローウィンの世界と絡んでくるのかは、レイ・ナカザワのコラムを参照してほしい。

 次は質疑応答といこうか。

・前のコラム(Small Change未訳)で、マーフォクは死んだって言ってたじゃない。

 あー。より良くなったってことさ。マーフォークを使わないという決定に対して、みんなからの反発がすごかったんだ。それで、決定は間違っていたと判断したんだ(信じるか信じないかはともかく、ユーザーの意見で決定が覆ったってことさ)。でも、マーフォークが昔のマーフォークと同じく、各セットにおける青の主力になるということじゃないよ。マーフォークは、タイミングを見はからって投入されるツールに位置づけられたってことさ。幸いにして、ローウィン・ブロックには大量のマーフォークが帰ってきた(なんで《アトランティスの王》が時のらせんの「タイムシフト」カードにあったのか、謎は解けたかい?)。

・フェアリーやツリーフォークはほとんど入っていないみたいだけど。

 環境によっては、フェアリーが群れをなして飛んだり、ツリーフォークが群生してるのが似合わないこともあるってことさ。ローウィンもそうなんだ。

・エレメンタル? このセットのビーストはエレメンタルなの?

 そうだとも言えるし、そうでないとも言えるね。確かに、オンスロート・ブロックでは大きなクリーチャーの多くはビーストに分類されてた。でも、人間型のエレメンタル、炎の血族とかもいるから、そうだとは言い切れない。部族・エレメンタル・カードの多くはこういった人間型で、ビースト型じゃないんだ。

・ゴブリンはオンスロートでも大勢力だったのに、今回はゴブリン入れないって判断はなかったの?

 そういう議論はあったけど、ゴブリン抜きで部族ってあり得ると思う? オンスロートとの差別化には、他の方法を使うことにしたんだ。(来週に続く。この話は長くなるからね)

・人間は?

 人間はいないんだ。うん。プレインズウォーカーは人間かもしれないけど、クリーチャーには人間はいない。これはデザインの初期に決まったことで、人間・部族はいろいろ変なことになるからね。(例えば「人間1つを生け贄にする」ってヤバいだろ?)

・他の種族はいるの?

 いいや。ああ、多相の戦士を考慮するなら、いることになるね。

 8つの部族はそれぞれの定義と、それぞれの生き方と、それぞれの戦い方があるんだ。デザイン(や開発)の間に、ラヴニカのギルドごとの色づけには苦心したから、今回のローウィンではそれぞれの部族ごとにある個性に焦点を当てたんだ。個性が何かってことについては、ここでは話さないよ。もちろん話すことがないからじゃなく、プレビューってのは全部晒しちゃうことじゃなく、中身への足がかりを見せることだと信じてるからなんだ。実際にローウィンで遊んでみて、自分で部族ごとの特徴を見つけてほしいね。今度のコラムで、ローウィンが部族というテーマをどう扱ってるかに関する重大な一面を紹介するよ。

★次元、次元

 ローウィンのデザインが完了したら、次はクリエイティブチームの出番だ。金属の世界、日本っぽい世界、都市の世界、破滅後の世界──色々な環境があって独特の色があるけれど、どれも古典的ファンタジーにはなかった世界だった。時のらせんブロックの、あまりにも混沌とした世界から振り子を戻す必要があるということも考え合わせると、クリエイティブチームが目指すべき方向は判ると思う。そして彼らはより古典的なファンタジーにどっぷりつかった世界を作ることにしたわけだ。平穏で単純な、ここ何年もマジックにはなかったような世界をね。もちろん、戦闘は存在するよ、マジックなんだから。でも、色々なセットであったような世界中を巻き込んだ戦争ではなく、近隣の諍いといったものが中心になってるんだ。

 発想を助けるために、クリエイティブチームはケルトの伝承を調べることにした。今日一般に広まっているファンタジーの原形を作ったのは、古典的な御伽話だからね。それで、フェアリーやツリーフォークのようなクリーチャーがそう醜くないということになったんだ(ああ、ツリーフォークの中では醜いかもしれないよ。吠えてる顔は噛み付いてる顔よりヒドイものだからね)。レイの記事で仄めかされていたけど、通常のマジックにも出てくる種族でさえローウィンでは別の顔を見せているんだ。

 ここで言いたいことは、ローウィンの環境は今まで何年もマジックの世界になかった雰囲気を取り戻してくれる、新鮮な風になってくれるってことさ。

★『すっげぇ!』話

 全部をあげちゃうわけにはいかないから、さわりだけを紹介しておくよ。ローウィンには、次にあげるような色々な驚くべきことが含まれてるんだ。

★プレインズウォーカー ─ プレインズウォーカー・ミニサイトを見てないなら、まずは見てみたほうがいいね。プレインズウォーカーがどう働くのかなどの色々な情報が公開されてるよ。セット毎に、そのセットで導入される新しい内容について大袈裟に言うものだけど、これほど特殊なものはまずないと思うよ。プレインズウォーカーは本当に新しい何かなんだ。実際、使ってみるまではプレインズウォーカーについて理解できないと思う。今までのマジックに無かったものだからね。

★部族 ─ 新しいカード・タイプ(ああ、未来予知に部族カードあったから新しくすらない?)ってだけじゃないかって? 部族テーマを扱う新しい方法として、部族というカード・タイプは最適のものなんだ。非クリーチャー呪文がゴブリンだったらどうなるんだって? それは見てのお楽しみさ。

★新しいキーワード5つ ─ カード・タイプ2つだけじゃ足りないよね。

★いろんなスゴイカード ─ そろそろ、マロー印の秘密の情報をお見せするときかな。こんなカードがあるんだ。

・ミラージュから登場していた、人気サイクルの新しい進化
{3}{R}の10/2クリーチャー(ま、別のコストがあるんだろうけど)
・緑のエンチャントで、10/2クリーチャーにダメージを受けなくするもの
・アングルードで登場したリソースを使えるようにする、クリーチャーのサイクル
・あなたのツリーフォークすべてを破壊されなくするカード(もう知ってるかもね)
・多相の戦士のロード
・タダで呪文をプレイできるようにするアーティファクト
・アンタップで場に出すことのできる、2色のマナを出せる土地
・ヤギに関係するカード

 今日のところはこんなところかな。このわくわくする大型セットの中身が気になる?

 次回は部族のデザインについての話題をお届けするよ。

 それまで、あなたのツリーフォークがノコギリで切られませんように。

マーク・ローズウォーター


 マーク・ローズウォーターはマジックのヘッド・デザイナーとして、マジックのデザインの責任者である。彼は大量のメールを受け取って(そして読んで)いる。マジックを破壊して再構築している以外の時間は、彼は家族と一緒に過ごし、よくあるオタクな趣味(ゲームをしたり、マンガを読んだり、SFを見たり)に励み、また彼自身について三人称で表現している。

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