2009年04月13日
田中 早苗 | 弁護士 | 経歴はこちら>> |
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京都府舞鶴市の高1殺害事件で3月7日、容疑者が逮捕された。翌8日の日本経済新聞に掲載された、元最高検検事の土本武司筑波大名誉教授(刑事法)のコメントに興味を引かれた。
「明らかになっている範囲では、これまで京都府警が示したのは防犯カメラの映像ぐらいで、有力な証拠がない。状況証拠のみで、1998年の和歌山のカレー事件より質、量ともに劣っているのではないか。昨年11月の容疑者宅の捜査で有力な証拠が見つかっていればすぐにでも逮捕していたはず。この時期の逮捕は5月から始まる裁判員裁判の対象にしたくないとの考えがあったのではないか」
このコメントは、捜査機関が裁判員裁判にしたくないのは、職業裁判官であれば状況証拠でも有罪とするが、裁判員だと、状況証拠では無罪にするからだと言いたげである。
本来、刑事裁判は、「無罪推定の原則」、「疑わしきは被告人の利益に」、「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜(むこ)を罰するなかれ」などといわれ、検察官に対し、厳格な証明を求めている。
それは、「合理的疑いを超える証明」、つまり、「通常人であれば誰でも疑いを差しはさまない程度に真実らしいとの確信を得る程度の証明」といわれている。
○裁判官の方が素人より判断が甘い?
そうすると、厳格な証明が必要なのだから、職業裁判官のほうが証拠の評価が厳しく無罪にする傾向があり、他方、素人の裁判員はテレビのワイドショーなどに影響され、安易に証拠の評価をし、有罪にする傾向があると一般には考えられる。
しかし、土本元検事は、そうではなく、刑事裁判官は、判断が甘いと考えているようである。
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