陸地の80%以上が氷河と万年雪に覆われる世界最大の島、デンマーク領グリーンランド。温暖化の影響は、先住民族・イヌイットの生活文化さえ「水没」させかねない。第46次南極地域観測隊員で、極地探検家の山崎哲秀氏が毎日新聞社へ寄稿した。
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06年から、北極圏環境調査「AVANGNAQ -アバンナット-」プロジェクトをスタートさせた。15年までの長期プロジェクトである。地球温暖化の要因の一つであると言われるCO2排出量の増加を始めとする、私達が意識を持って取り組んでいかなければならない環境問題、また変わりゆく北極圏イヌイットの人たちの生活環境がテーマだ。これまでに関わってきた北極を通じて、何か一つでも環境への取り組みに参加したいという想いから、個人的ではあったが活動を計画した。極地研究者の方々から各観測課題を頂き、北極圏広域での環境にまつわるデータ収集や、各地に住むイヌイットたちの現在の生活環境を伝えていきたいと思っている。
北極圏は環境汚染や温暖化の影響が目に見えて現れやすいと言われており、極地研究者の観測課題は、その環境の汚染や温暖化にまつわるデータ収集がメインとなる。現在騒がれている北極海の氷が融けているという報告は、あくまでも人工衛星から見た報告である。冬の海氷がどのように成長、発達するか、現場での実際の海氷データを収集などを通して、温暖化の事実をさらに正確なものとしていく。
すでに06年から08年の冬季にかけて取り組んだ、グリーンランド北部地域での調査では、近年の温暖化の影響を目の当たりにした。特に感じたのは、真冬の海氷の不安定さであった。凍りつく時期が遅く、また融けるのも早い。風が吹けばすぐに壊れて流されてしまうなど、これまで20年間にわたって見てきた、現地の自然環境とは確かに違ったものだった。そして09年の冬からは、舞台をカナダ北極圏へと移して活動を続けている。
移動手段はグリーンランド北部地域のイヌイットから伝承された、環境にやさしいエコカー「犬ぞり」だ。イヌイットの人たちは、はるばるアラスカからカナダ沿岸地域を経て、グリーンランドへと生活範囲を広げていったと言われている。何千年も昔から、彼らの生活の中で使われてきた、極地の自然の中では利にかなった乗り物だ。犬達はグリーンランド出身。生活環境の変化から、カナダとアラスカではイヌイットスタイルの犬ぞり文化が崩壊し、スノーモービルへと移行した。そりをひくイヌイット犬も姿を消していった。グリーンランドでは他国から、犬を持ち込むのを法律上禁止しており、純粋なイヌイット犬は唯一グリーンランドに生存するといっていいほど貴重な犬種である。絶えつつある純粋なイヌイット犬を守る、ということも多くの人々に伝えていきたいテーマである。
◇プロフィル
1967年兵庫県生まれ。第46次日本南極地域観測隊(越冬)を始め、北極圏での数々の観測調査遠征にも参加し、現在は犬ぞりによる「アバンナット北極圏環境調査プロジェクト」10年計画に取り組んでいる。
◇著作権
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2009年1月30日