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新世代の赤外線天体カタログ、日本から世界に公開へ

平成22年3月30日

宇宙航空研究開発機構
東京大学大学院理学系研究科

 赤外線天文衛星「あかり」が観測した約130万天体にも及ぶ赤外線で輝く天体の情報を集めた「赤外線天体カタログ」が、本日、世界の研究者に向けて公開されました。これは今後の天文学の進展に大きく寄与する日本発のデータベースとなります。

 このような赤外線天体カタログは、20年以上前にIRAS(アイラス)衛星1 によって初めて作られ、これまで広く天文学者に使われ続けてきました。今回公開された「あかり」のカタログは、全天の96%以上をカバーし、近・中間赤外線カメラ(IRC)によって検出された約 87万天体のカタログと遠赤外線サーベイヤー(FIS)が観測した約43万天体のカタログから構成されています。天体総数は約130万となり、IRASのものに比べて5倍もの大規模なカタログとなります。またIRASに比べてより高い解像度、より高い感度、より広い波長域の情報が含まれています。
 なおこのカタログの初版は2008年11月に完成し、プロジェクトチーム内での試用開始を宇宙開発委員会に報告しましたが、その後の改良により遠赤外線カタログの天体数は6倍以上、全体では1.6倍に増加し、また天体の明るさの精度向上も達成したため、いよいよ世界の研究者に向けて一般公開を行うものです。
 今回の一般公開により日本発のカタログが、赤外線天文分野のみならず、電波からX線にいたる広範な天文研究者によって多種多様な天体の研究に使われ、また地上望遠鏡から天文衛星まで、さまざまな天文台で観測計画のもとになるカタログとしても使われることになります。

 カタログの公開URL: http://darts.isas.jaxa.jp/astro/akari/ (研究者向け)


図1: 「あかり」が検出した天体の天球面上の分布。青: 9 マイクロメートル2 、緑: 18 マイクロメートル、赤: 90 マイクロメートル。中央横に拡がるのが銀河面(天の川)。青く見える天体の多くは銀河系内の星、赤く見えるのは、主に生まれたての星や、遠方の銀河である。

  1. IRAS(アイラス): アメリカ・イギリス・オランダが共同で開発した世界初の赤外天文衛星。
    1983年打ち上げ。
  2. 1マイクロメートルは1000分の1ミリメートルに相当。

 赤外線はエネルギーが低いため、比較的低温の星や、塵(固体微粒子)を含む暗黒星雲、あるいはそれらの集合体である銀河などからも放射されます。また、光よりも透過力が高いため、光では見えない領域を観測するのにも適しています。このような利点を生かし、「あかり」赤外線天体カタログからは、すでにプロジェクトチームメンバーによる研究により、星を活発に作っている銀河の詳細な性質を明らかにして、宇宙が生まれて以来、いつどのくらい、どのように星が生まれてきたのかを調べる研究や、太陽以外の星のまわりで惑星が作られつつある場所を見つけ出すなど、いくつかの初期成果が得られています。これらの初期成果については、
 http://www.ir.isas.jaxa.jp/ASTRO-F/Outreach/results/results.html
をご覧下さい。

 赤外線天体カタログの制作は、JAXA宇宙科学研究本部の山村一誠、片坐宏一、巻内慎一郎、大薮進喜、山内千里、池田紀夫、瀧田怜、中川貴雄、名古屋大学の石原大助らを中心に、JAXA、東京大学、名古屋大学、ESAヨーロッパスペース天文学センター、英国 Imperial College London、University of Sussex、The Open Univerisity、オランダ University of Groningen/SRON、韓国 Seoul National University 等の協力で行われています。



参考


赤外線天文衛星「あかり」について


 「あかり」は2006年2月22日に打ち上げられた日本で初めての本格的な赤外線天文衛星で、空全体(全天)にわたって星や銀河などすべての赤外線源を観測する「サーベイ観測」を主な目的としています。「あかり」には、口径 68.5 cm の赤外線専用の望遠鏡と、2種類の観測装置が搭載されています。近・中間赤外線カメラ(IRC)を用いて波長9マイクロメートルと18マイクロメートルの観測を行い、遠赤外線サーベイヤー(FIS)では波長65、90、140、160マイクロメートルの観測を行います。異なる波長で観測することで、天体の温度や特徴をより詳しく知ることができます。
 「あかり」は2006年5月から2007年8月までの約16か月間にわたって液体ヘリウム冷却による観測を実現しました。主目的であるFISによる遠赤外線、IRCによる中間赤外線での全天サーベイ観測では、過去の同種の観測よりも高解像度・高感度のデータを取得して、赤外線天体カタログを作成しました。これに加え、IRCやFISによる分光観測や撮像観測も達成しました。
 その後も、望遠鏡を冷却する液体ヘリウムを予定どおり使い切り、衛星設計の目標寿命を超えての観測を続け、さらなる成果をあげるなど、順調に衛星運用を行って成功基準を満たしてきました。しかし、機械式冷凍機の設計の目標寿命をすでに超えていることから十分な冷却性能が出ない状況となっており、復旧に向けて対応を取っているとともに、観測装置の性能が低下した場合に観測にどの程度の影響が出るのかを見極めつつ、慎重な運用を行っているところです。


赤外線天文衛星「あかり」イメージ図

 「あかり」は宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロジェクトで、名古屋大学、東京大学、自然科学研究機構・国立天文台、欧州宇宙機関(ESA)、英国 Imperial College London、University of Sussex、The Open Univerisity、オランダ University of Groningen/SRON、韓国 Seoul National University 等の協力で進められています。遠赤外線検出器開発では情報通信研究機構の協力を得ています。

[IRASカタログと「あかり」カタログの比較]
  「あかり」カタログ IRASカタログ
天体数 870,973 (IRC)、427,071 (FIS) 245,889
観測波長 9、18マイクロメートル (IRC)
65、90、140、160マイクロメートル (FIS)
12、25、60、100マイクロメートル
感度 0.05ジャンスキー(9マイクロメートル)〜0.55ジャンスキー(90マイクロメートル) 0.5ジャンスキー(12、25、60マイクロメートル)、1.5ジャンスキー(100マイクロメートル)
解像度 5秒角 (IRC) 〜40秒角 (FIS) 30〜120秒角

ジャンスキーは天文学で用いられる明るさの単位で、10-26 W/m2/Hz。
1秒角は1度の1/3600に相当。