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■書 評

鉄の骨

鉄の骨

[著者]池井戸 潤

講談社 / 1890円


[評者]細谷 正充 (文芸評論家)

■談合は必要悪か 鋭く問う

 十月二十一日、「中小企業が助け合う『良い談合』を推奨する」と言っていた亀井静香金融担当相と、公正取引委員会の竹島一彦委員長が、金融庁で激論を交わした。周知の事実だが、談合とは公共事業などの競合入札を業者間の話し合いで決定することを指す。当然、独占禁止法違反の犯罪である。それなのに、なぜ金融担当相から、このような発言が出るのか。また、たび重なる摘発にもかかわらず、なぜ談合はなくならないのか。そんな疑問を抱いた人は本書を読んでみるといいだろう。談合をテーマにした骨太の物語である。

 中堅ゼネコン一松組の若手社員・富島平太は、建設現場から“花の談合課”こと業務課に異動となった。なれない仕事に戸惑う彼は、常務の命により、談合を仕切るフィクサーの三橋萬造の家に出入りするようになる。二千億円規模の地下鉄工事の受注を狙う一松組だが、入札をめぐる各ゼネコンの談合の動きを見て、平太の心は激しく揺れる。また、私生活でも、銀行員の恋人との間が、ぎくしゃくしてきた。公私ともに波乱に満ちた平太の人生は、どこに向かうのだろう。

 平太の見た談合の実態。それはゼネコンの生き残りと、深くかかわっていた。ならば談合は必要悪なのか。しかし一方で、フィクサー三橋に談合を否定させるなど、作者は談合を単純な善悪で割り切らない。だから平太の心の揺らぎが、そのまま読者の揺らぎとなり、談合について深く考えるようになるのだ。ここが本書の大きな読みどころといえよう。

 さらにラストに控えた、ミステリーの仕掛けも見逃せない。談合と密接に関係したサプライズが、テーマをより際立たせるのだ。あくまでもエンターテインメントとして読者を楽しませながら、現代の問題に鋭く切り込む。池井戸作品の中でも、ひときわ高く聳(そび)えた新たなる代表作が、ここに生まれたのだ。


いけいど・じゅん 1963年生まれ。作家。著書に『空飛ぶタイヤ』『オレたち花のバブル組』など。


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