アジア・オセアニア

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転換期の安保2010:海をゆく巨龍 中国、武装艦で威嚇 拿捕の漁船、解放迫る

 ◇安保・資源、南シナ海は「生命線」

 青く、穏やかな南シナ海に緊張が走った。6月23日、インドネシア領ナトゥナ諸島のラウト島から北西57カイリ(約105キロ)。現場海域からの立ち退きを命じるインドネシア海軍艦船に対し、中国の白い大型漁業監視船が、「拿捕(だほ)した中国漁船を解放しなければ攻撃する」と警告。大口径の機銃が銃口を向け、インドネシア海軍艦も応戦準備に入った--。(3面に質問なるほドリ、6面に関連記事)

 「洋上対決」は前日、同じ海域で10隻以上の中国漁船団が操業したのが発端だ。インドネシア警備艇がうち1隻を拿捕した。「排他的経済水域(EEZ)内であり、他国は勝手に操業できない」(当局者)ためだ。だが約30分後、2隻の白い中国の漁業監視船が現れ、「インドネシアのEEZとは認めていない」と無線で主張し、解放を要求してきた。

 毎日新聞が入手した現場撮影のビデオ映像によると、中国監視船のうち1隻の船首付近には漢字で「漁政311」の船名がある。軍艦を改造して昨年3月、南シナ海に投入された中国最大の漁業監視船だ。排水量は4450トン。漁業を統括する中国農業省の所属で、船体色こそ白だが、どっしりと洋上に浮かぶ姿は正に軍艦だ。

 警備艇はいったん、漁船を放したが翌朝、応援のインドネシア海軍艦船の到着を待って再び拿捕した。だが中国側は、海軍艦の登場にもひるまなかった。ファイバー製の警備艇は被弾すればひとたまりもない。やむなく漁船を解放したという。

 中国監視船は5月15日にも拿捕漁船を解放させていた。「武装護衛艦付きの違法操業はこれが初めて」(インドネシア政府当局者)だった。

 同じ南シナ海で、中国は、西沙(英語名パラセル)諸島や南沙(同スプラトリー)諸島でベトナムやフィリピンと領有権を巡って衝突してきた。台湾の海軍関係者は「ナトゥナの北に豊かな海底油田がある」といい、中国の狙いが水産資源より地下資源獲得である可能性を示した。

 「南シナ海は中国の核心的利益」--。今年4月の米紙ニューヨーク・タイムズによると、オバマ米政権のベーダー国家安全保障会議アジア上級部長とスタインバーグ国務副長官が3月に中国を訪問した際、中国側がそう説明した。「台湾」と「チベット・新疆ウイグル両自治区」について中国が使ってきた言葉で南シナ海が語られたのは初めてだった。この海は、中国にとって安全保障と資源確保を懸けた「生命線」なのだ。

 6月22日の事件について、中国国営の新華社通信は「南沙諸島付近の海域で、中国漁船と乗組員9人が拿捕され、交渉の末に解放された」と報じた。翌23日のインドネシア海軍との対峙(たいじ)には触れなかった。

 事件の真相について毎日新聞が中国外務省に照会したところ、秦剛副報道局長は、「中国は南沙諸島及びその付近の海域に議論の余地のない主権を有している。関係国と友好的な協議と交渉を通じて争いを適切に処理し、南シナ海地区の平和と安定を願っている」と書面で回答した。

 大国・中国との経済関係などを優先するインドネシア側は事件を公表していない。だが、ユドヨノ大統領は今月22日の閣議で、「南シナ海に新たな緊張がある。ナトゥナ諸島はこの海域に近い」と、唐突に「ナトゥナ」の名を挙げて懸念を示した。

    ◇

 第二次大戦後、「七つの海」を支配してきたといわれる米国。だが、中国が新たな海洋国家として台頭してきた。その実態と背景を検証し、日本のあるべき安全保障を考える。【「安保」取材班】

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 ■ことば

 ◇南沙(スプラトリー)諸島

 南シナ海の100以上の島と無数の浅瀬や礁からなる。第二次大戦中は日本が占領した。太平洋からインド洋へ抜ける要衝であり、水産・石油資源が豊か。中国、ベトナム、フィリピン、マレーシア、台湾、ブルネイが領有を争っている。

毎日新聞 2010年7月27日 東京朝刊

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