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水ビジネス、「オールジャパン」で世界へ

 新興国の水需要拡大等で世界の水ビジネス市場の急成長が予想されている。これまでは海外の水メジャーが日本を大きくリードしてきた。が、異業種連合によるオールジャパンチームの形成により、劣勢にあった総合力の挽回が期待できる情勢だ。

1.欧州の水メジャー、総合力が武器

 2010年9月15日付「世界の水不足、日本企業に商機」で紹介したように、2007年に約3500億ドルだった世界の水ビジネス市場は2025年には約2倍の7000億ドル(87兆円)規模に達すると予想されている(通商白書2009)。今回改めて、日本の水ビジネスの近況を報告したい。

 水ビジネスの世界的なプレヤーとしては、フランスのヴェオリア・エンバイロメント(以下、ベオリア)、同じくフランスのスエズ・エンバイロメント(以下、スエズ)等のいわゆる水メジャーが挙げられる。両者は民営化された水ビジネスの市場でいずれも10%程度の市場シェア(金額ベース)を有しているようだ。ちなみに、日本企業はいずれも1%未満のシェアと推定される。

 水メジャーの強みは「総合力」といわれている。この総合力とは水メジャーは水処理施設のプロジェクトに関して、調査、設計、施工、さらに完成後の施設の運営まで、広い範囲の業務を統括して行うことができることを意味している。発注者側から見れば、水メジャーに任せさえすれば、複数の業者と施設の建設価格、納期等に関して交渉を行い契約を結ぶ手間や、完成後に施設の稼働状況をチェックする業務等から解放されることになる。

 水メジャーはこの総合力を武器として、海外の水処理施設のプロジェクトに関して多数の「主契約」、つまりプロジェクトの統括業務の受注実績を残してきた。積み上げた実績と海外各国の文化、地理、ビジネス習慣などに関わる知見が水メジャーの強さを向上させるという好循環ができているようだ。



2.日本、プロジェクト全体の把握力弱い

 日本の水ビジネスプレーヤーの弱点は、水メジャーの強みと表裏一体である。日本の企業グループの海外水ビジネスは、プラントエンジニア、機械メーカー等がプロジェクトの一部に施設・施工サービスや機器を供給するスタイルだ。いわば下請けスタイルで行われている。

 日本においては、完成後の施設の運営業務は官公庁や地方公共団体によって担われている。したがって調査から設計、施工、運営に至る水処理施設のプロジェクトの全体像が把握できている民間企業は基本的に存在しない。このため、これまではプロジェクトの主契約者に成りにくいという事情があった。

3.商社を中核にオールジャパン体制

 この様な情勢を打開するため、経済産業省は2009年10月に「三菱商事」などの総合商社、「日揮」等のプラントエンジニア、「酉島製作所」等の機械メーカー等、水ビジネスに携わる企業で構成される「水ビジネスの国際展開研究会」というチームを組織し、日本企業が水ビジネスの国際展開を図る上での方策を検討してきた。

 2010年4月、同研究会は「水ビジネスの国際展開に向けた課題と具体的方策」と題する報告書を発表した。同報告書は海外水ビジネスの展開手法に際して「相手国が求めるニーズを踏まえた提案力、水源から蛇口までの各プロセスの機器・システムをトータルコーディネートし、マネージする力が求められる」と結論づけている。

 この施策の実行に際して、中核的存在に位置づけられているのが総合商社であり、上記の「水ビジネス国際展開委員会」においても主導的役割を任されている。もともと総合商社は、業態上、現地政府とのコネクションを含む海外ネットワーク機能や企業間のコーディネート機能を担ってきたが、その知見やノウハウを用いて海外の水ビジネスの受注においても大きな役割を果たすことが期待されている。

 今後、日本企業は総合商社を中核とするオールジャパン体制で、水メジャーを追撃し、海外水プロジェクトの主契約獲得を目指していくことになろう。

4.注目分野別の関連企業

(1)海水淡水化分野

 海水淡水化の方式は、蒸発式、膜式の2つに大別されるが、どちらの方式が用いられても、海水を大量に汲み上げるためのポンプは必要になる。

 「酉島製作所」は、これまで日量10万トン以上の処理能力を持つ高性能の海水淡水化ポンプで世界市場40%程度のシェア(会社推定)を有しており、今後も高シェアをキープし、海水淡水化市場の高成長の恩恵を享受することが期待される。

 一方、蒸発式の海水淡水化装置の代表的メーカーとしては「ササクラ」が挙げられる。同社は、蒸発式海水淡水化プラントの有力メーカーで、世界シェアは金額ベースで10%強程度(会社推定)とみられる。今後、中東地域等における海水淡水化装置の受注拡大の恩恵を享受することができよう。

 また、膜式で用いられる逆浸透膜(RO膜)では、日本メーカーが金額ベースで約50%の世界シェアを持つと見られる。50%の内訳は、「日東電工」が約30%、「東レ」が約20%である。両者とも海水淡水需用の拡大に伴ってRO膜の売上高を伸長させることが期待できよう。

(2)上水道・下水道分野

 上水道・下水道の分野は、水ビジネスに占めるウェートが大きいが、土木工事が主体で技術力の格差がつけ難く、今のところ日本企業の弱い分野といわれている。

 ただ、日本企業は下水汚泥の処理分野では世界トップレベルの技術を有しており、生活水準が向上してきたアジアなどの新興国において、今後、日本企業の汚泥高度処理施設が採用される可能性があると見ている。

 「月島機械」は下水汚泥処理分野で汚泥の濃縮、脱水、乾燥、焼却等の高い技術を有するが、既に中国における同社装置の引き合いが活発化している模様である。

 また、「巴工業」はデカンタ型といわれるタイプの遠心分離機で国内トップクラスの実績を持つが、現在は中国における下水処理機器事業の育成に力を入れている。

(3)工業用水・工業下水分野

 工業用水・工業下水分野は、水ビジネスに占めるウェートは小さいが、アジア地区における工業化の進展などを受け高い成長が予想される分野である。

 同分野で活躍が期待される企業としては「神鋼環境ソリューション」が挙げられよう。同社は、神戸製鋼所のグループ企業で、水処理関連、廃棄物処理関連の施設の設計、施工及び運営サービス等を主力業務としている。日本メーカーの海外生産シフトに伴って、海外に生産拠点が新設されることが多くなっているが、排水設備の設計、施工、運営は、主に日本の工場排水設備に実績のある同社等の日本企業に要請している模様である。

(4)水専門の建設コンサルタント

 「日本上下水道設計」は、道路、上下水道等の社会資本の整備に際して、整備主体の側に立って設計、施工監理等の業務を行う建設コンサルタントの専門企業である。同社の特色は、水処理分野に特化していることで、同分野の建設コンサルタント業者としては「日水コン」とともに国内最大手グループに属する。また、日本の政府開発援助(ODA)に係る案件を中心に海外でも豊富な実績を有している。

 従来、日本企業の海外における水ビジネスの実績は、ほぼ日本政府のODAに基づく案件、つまり日本が資金を拠出(贈与・貸与)した案件に限定されてきたが、今後、非ODA案件における日本企業の受注機会が拡がっていくと予想される。

鈴木東陽(すずき・とうよう) 日本証券アナリスト協会検定会員。証券専門紙や経済誌、三洋経済研究所などを経て、現在、いちよし経済研究所シニアアナリストとして、投資セミナーや経済講演などに従事。

2011年4月6日  読売新聞)

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