第25回 ギャンブルといかに付き合うか当連載の第3回「『みんなが儲かる可能性』の探し方」で、資本を提供し生産の果実を期待する「投資」と、勝つ人がいればその分負ける人がいるゼロ・サムゲーム的なギャンブルに過ぎない「投機」の区別について、ご説明した。 お金を運用する人にとってのポイントは、投資も投機もリスクを取ることと、投資では概ね投下資金の期待回収率が100%を超えるが(金融商品によっては、超えないものもあるが)、投機では100%以下だ、というところにある。 ギャンブラーの用語でいうと、「投資は、期待回収率が100%を超すギャンブルだ」ということなのだ。この性質を考えると、一般的な原則としては、資産形成にあたって投資が有利であり、これを有効に活用することが重要だということだ。但し、投資する対象にもよるが、投資はギャンブルと同様にリスクを負う行為であり、これが嫌な人、リスクに期待収益が見合わないと考える人に強要すべきものではない。 以上の点は、当道場の教えの根幹をなす大切な考え方の一つなので、重複はあるが、敢えて、もう一度ご説明する。 だが、今回のテーマは、ギャンブルといかに付き合うかだ。ギャンブルなどしない方がいい、というご意見を持つ読者もおられようが、多くの人がギャンブルを楽しんでいるのも事実だ。何を隠そう、筆者は過去四半世紀にわたって競馬を楽しんできたし、今も、ほぼ毎週、馬券を買っている。そして、ギャンブルとの付き合い方の中には、お金の運用の参考になる重要な考え方がいくつか含まれていると感じている。 重要なのは、ギャンブルにおける「分相応」の捉え方だ。JRA(日本中央競馬会)が開催する競馬の馬券は、概ね25%の手数料控除率なので(国際的にはいささか高めである)、ギャンブラーにとっての期待回収率は75%だ。先ず、この現実を受け入れよう。 仮に、JRAの競馬を対象に1日に1万円馬券を買う競馬ファンを考えてみよう。JRAの競馬は週末の土日に開催されるので、1か月を4週とすると、月に8回馬券を買うとして、馬券の購入代金は8万円だ。この額が適当であるか否かは、以下のように考えたらいい。 はじめに、控除率を考えると、この競馬ファンは、平均してみると1か月に2万円損をすると期待される。この2万円は競馬を楽しむことに対する費用と考えられるから、これが、自分の「娯楽費」として適当かどうかを判断すべきだ。冷静に、期待値(予想の平均値)ベースで物事を考える。 1日当たり2500円払っているという勘定だから、映画よりも少し高いが、土日に必ず映画を見る映画ファンくらいの熱意で競馬を納得して楽しんでいるのか、それとも、惰性で馬券を買い続けているのか、といった自己チェックも有意義だ。 ゲームとしての競馬自体は、購入する馬券の額で高級・低級が決まるようなものでは断じてない。重要なのは、思考プロセスと決断の心構えだ。 さて、期待値を考えたら、次にリスクを検討する。先の馬券ファンなら、馬券が外れ続けた場合に、たとえば月8万円の出費を家計が吸収できるかを考える必要がある。毎月の生活費に影響せずにずっと継続可能なら一応「吸収可能」だと考えていいだろう。 もう少し競馬ファン寄りに考えると、馬券がどの程度外れ続ける想定をしなければならないかは、厳密には馬券の買い方にもよるが、ずっと外れ続けるという想定は厳しい。たとえば、半年間外れ続けたとして、48万円損をしても、家計には影響がないなら(競馬ファンが夫なら、夫のへそくりと小遣いの範囲内だということ)、その競馬は自分の生活から見て「分相応」といっていいと思う。このくらいの条件を満たさないギャンブル支出は、分不相応なので修正を要する。 この際、起こりうる最大限の損失について、極力客観的に想定しておくことが大切なのはいうまでもない。また、余裕があるからといって、その余裕の全てを競馬につぎ込まなければならないというものではないことも強調しておこう。これは、投資にあって、許容できる最大限までのリスクを取らなくても構わないことと同じだ。 ギャンブルには刺激が伴うので、気がつくと、自分にとって刺激的な金額、つまり、当たると嬉しいし、外れると痛いと感じる金額まで支出が拡大する傾向があり、さらに行き過ぎて、生活を圧迫するようになる場合もある。 また、ギャンブルの刺激には、「ギャンブル依存症」の発症を招きかねない危険もある。「いつでも止められる」と自分で思っていても、ギャンブルのことが頭から離れなくなり、カードローンなどの借金がある状態を直ちに解消できないとすると、あなたはギャンブル依存症である可能性がある。自分では直せない場合が少なくないので、家族と相談して、医師を訪ねることも考慮に入れるべきだ。 カードのリボルビング払いといった「借金の誘発装置」のようなものも含めて、住宅ローン以外の借金が少しでもある人は、その間ギャンブルを楽しむ資格はないと考えておこう。 競馬をはじめとするギャンブルには、投資の世界にも通じる共通点が多数ある。投資との共通性の話は、いずれ(ダービーの前頃にでも)当道場で取り上げてみたいが、先ずは、許容リスクの範囲内で(想定される最大限の損失に耐えられることを確認して)、期待されるリターン(ギャンブルの場合はマイナスだが)を想定した上で、そこに支出できるお金を決める、という基本は、投資とギャンブルで共通だということを強調しておく。 ちなみに、筆者の競馬の戦績だが、トータルではもちろん損をしており、(たまに)勝ったり、(よく)負けたりしながら、着々と累損を膨らませていることをご報告しておく。ただし、目下の馬券購入ペースは十分許容範囲だと思っているので、当面、ギャンブル支出を変更する積もりはない。春の競馬シーズンが待ち遠しい。 (道場主・山崎 元) (2011年3月3日 読売新聞)
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