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第27回 期待リターンを決めるには

東北地方太平洋沖地震で被害を受けられた皆様に心からお見舞いを申し上げます。1日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

「期待」の意味合いに、ご注意

 「期待」という言葉は、使われる場面などによって意味が変わることがある。たとえば、「期待に胸をふくらませる」といった場合の「期待」は、辞書(三省堂の大辞林)に書いてある通り、「よい結果や状態を予期して、その実現を待ち望むこと」という意味だ。「君に期待しているよ」といったら、これが親から子へ、先生から生徒への言葉なら、これも普通は同じ意味だろうが、上司から部下への言葉だと、「要求」だったり、時には脅しに近いニュアンスを含んでいる場合もある。

 資産運用において使われる「期待」も、「リスク」という言葉と同様に日常会話で使われる意味とは異なる。投資・資産運用における「期待収益率」あるいは「期待リターン」という言葉は、確率論の「期待値」と同じで、「将来、起こりうるであろうリターンの平均値」を指す。おそらく、英語の“expected return”を翻訳した言葉なのだろうが、誤解を招かないようにするには、たとえば「平均予想収益率(リターン)」とでも言った方が良かったのかも知れない。

 とは言え、「平均」という言葉を使って、仮に「平均値5%」と言ってしまうと、それが「普通の状態」といったニュアンスで受け取られたり、あるいは「多くの人はその収益を実現できる」といった意味に取られたりする可能性もある。しかし、平均を上回る可能性も下回る可能性も五分五分なのだから、「期待」どおりに5%がどんぴしゃりと実現することの方が希だ。身も蓋もないような言い方だが、それが現実なので、結果が「期待収益率」を下回ったからといって、怒っても意味がないし、必要以上に落胆することもない。

3つの「やってはいけない」

 資産運用の計画を策定するためには、期待リターンを決める(想定する)ことが必要だが、これは個人投資家にはもちろん、年金基金や運用会社などプロの投資家にとっても簡単な作業ではない。そこで、期待リターンを決める上で、やってはいけないこと、を先に説明しておこう。

 まず、期待リターンなど所詮はあてにならないし、決めるのは難しいから、考えないことにしよう、という態度だ。こうして運用計画を策定し、実際に資産配分、運用を実施したとしても、これは言い換えれば、実際には具体的な行動を起こしている以上、何かを決めているのと同じことだ、ということでもあるわけだ。この場合、えてして希望や要求が忍び込むことが多いので、無理な計画や行動に陥りやすい。

 次に、株式や外債などでリスクを取る以上は、それに見合ったリターンがあるはずだ、と考えて期待リターンを想定する方法。これは「ビルディング・ブロック方式」などと呼ばれて、一時期、機関投資家の間でも使われた方法だが、理論的にはまったく根拠のない方法だ。

 そして、過去のデータを使って、トレンドを延長したり、平均値を求めたりする方法だ。数字を使うので、いかにももっともらしい方法のように思われるかも知れない。しかし、過去の平均値を期待リターンの数値としてそのまま使うことは、単に将来も過去と同じだろうという予想を立てたのと同じことであり、不適切な方法なのだ。

 最後に、期待収益率について、ノーベル経済学賞の受賞者であるウィリアム・シャープ氏の言葉を紹介しておこう。「過去のデータは、標準偏差(リスク)に関しては非常に有効で、相関係数(値動きの関連性)に関してはそこそこ有効だが、期待収益率に関してはほとんど役に立たない」。

 (道場師範代・服部 哲也)

「山崎道場」は通常、毎週木曜日、午前中に更新します。

2011年3月17日  読売新聞)
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