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第30回 「数字はウソをつかない」のワナ

「使う奴がウソをつく」

 「数字はウソをつかない」これは事実だ。しかし、これにはオチがある。「使う奴がウソをつく」。

 第20回「信託報酬に気をつけろ」で複利効果について説明した。おさらいすると、1000万円を仮に年5%で運用できるとすると、1年後には1000万円×(1+0.05)=1050万円、2年後には1050万円×(1+0.05)=1102.5万円、といった具合に雪だるま式に計算する方法だ。10年後には約1629万円、20年後には約2653万円になる。これは紛れもない算術的な事実だ。

「長期運用が有利」と錯覚

 個人投資家に積立と運用の目的意識を持ってもらうために、「年率5%で運用すれば、20年後には2.65倍になる」といった具体的な数値例を用いて、複利運用で大きな資産を形成できるということを伝えることは良いことではある。しかし、2.65倍を単純に20年で割って、「年率のリターンは13.25%(265%÷20年)になります。だから長期投資が有利です」といったら、これはウソだ。長期で運用するからといって1年当たりのリターンが増えるわけなく、1年あたりの利回りは5%のままだ。

 「72の法則」についてもおさらいしておこう。これは投資元本を複利運用して2倍にするためには、どれだけの利回りと年数が必要であるかを計算する方法で、利回り×年数=72で大まかな計算ができるというものだ。たとえば利回りが8%なら72÷8%=9年で元本が2倍になる、10年で元本を2倍にするには72÷10年=7.2%必要だ、という具合に計算する。

 もう1つ紹介しておこう。フィナンシャル・プランニング、ライフ・プランニングのためのツールとして、年金終価係数表、年金現価係数表というものがある。たとえば、年金終価係数というのは、少々ややこしいが、

 {(1+年利率)年数−1}÷年利率

 という式で求められるのだが、いちいちこれを計算するのも面倒なので、年数を行にとり、1%刻みの年利率を列にとった一覧表が用意されている。この表を使うと、次のような計算が簡単にできる(表は掲載しないが、検索すればすぐに見つけられる)。

 Q:毎月2万円(毎年24万円)を積み立てて、年5%複利で運用すると、30年後には資産額はいくらになるか。

 A:24万円×69.7608(年金終価係数5%、30年)=約1674万円

 Q:年4%複利で運用できるとすると、30年後に資産額を3000万円にするためには、毎年(毎月)いくら積み立てていく必要があるか。

 A:3000万円÷83.8017(年金終価係数6%、30年)=約36万円(毎月3万円)

経済情勢、リスク限度は必ず考えろ

 72の法則にせよ、年金終価係数表にせよ、算術的事実を表す便利なツールであることは論を待たない。ただ、これを使って、次のように語りかけられたら、どう感じるだろう。「今、定期預金の利率は10年でも0.3%程度です。これでは資産を2倍にするのに72÷0.3%=240年もかかってしまいますよ」「老後の準備には最低3000万円必要といわれています。毎月3万円ずつ30年間積み立てるとしたら、6%の運用利回りが必要なんですよ」これだけだったらウソではないのだが、何となく「リスクをとってでも高いリターンが期待できる商品を買わなければ」といった気がしてこないだろうか。もしそう思ったとしたら、それこそ相手の思う壺だ。

 72の法則や係数表を使って求めた必要利回りや積立額、年数は、あくまでも算術的事実に過ぎない。これを鵜呑みにして、そのまま運用の目標とすることはまったく不適切だ。まして、単純に2倍になるのに時間が掛かるといった理由で判断する必要はどこにもない。運用の目標は、時々の金融・経済情勢と、自分が取れるリスクとの兼ね合いを、必ず考えて決めなければならない。

(道場師範代・服部 哲也)

「山崎道場」は通常、毎週木曜日、午前中に更新します。

2011年4月7日  読売新聞)

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