東京都武蔵野市の井の頭自然文化園が、看板スターのゾウ「はな子」の飼育方法を変える。これまでは飼育係が直接触れあって世話をする「直接飼育」だったが、今後は柵越しに世話をする「準間接飼育」とする。飼育係が負傷しかねない事故が絶えないからだ。今月末にも寝部屋の改修に着手する。
はな子は推定64歳、国内に63頭いるアジアゾウで最高齢だ。毎日通って、ホースの水で体を洗ってもらう様子を見守る人も。「追っかけ」は数十人といい、井の頭でも特別な人気者だ。
戦後初のゾウとして1949年に来日。7年後、酔ってゾウ舎に侵入した男が死亡した。その4年後、飼育係が踏まれて殉職。脚を鎖でつながれた。
飼育係の山川清蔵さん(故人)が鎖を解いて運動場に出した。やせた体をさすり、サツマイモやニンジンを与えた。退職まで30年、はな子に寄り添った山川さんと心を開いたゾウの物語はマスコミが報じ、児童書やテレビドラマにもなった。
しかし、はな子の飼育係がヒヤリ、ハッとする事故は決して珍しくなかった。
最近5年間でも、運動場にいた飼育係が、はな子の鼻であおむけに転倒させられた。後ろの柵内に転がり込んで助かったが、踏まれる危険もあった。急に付きまとわれた飼育係は、同僚の「逃げろ!」という叫び声で難を逃れた。ベテラン飼育係の目前でも女性獣医師が投げ飛ばされた。
体重3トンの巨体だけに、無意識にヒヤリとさせるのではないか。はな子の飼育係は4人。班長の室伏三喜男さん(56)は「偶然の事故はありえない。ゾウはブドウ一粒踏みつぶさない、ハエがとまっても気付く。非常に賢く、はっきり分かって行動する」という。